米大統領選挙を目前に控えた不確実な情勢の中で、南北関係を管理していくという意図を込めた動きと見られる。

2020-10-31 05:03:43 | 南北は一つ
北朝鮮、西海銃殺事件から1カ月後、この問題で「南北関係の破局望まぬ」
登録:2020-10-30 10:31 修正:2020-10-30 14:03


29日、「朝鮮中央通信」報道で立場表明 
南の保守勢力が「我々の善意を冒涜し、対決を極大化している」 
米大統領選挙を控えた不透明な情勢の中 
南北関係を管理しようとする意図が読み取れる

      

海洋警察が行方不明になった海洋水産部所属の公務員を捜索している=海洋警察庁提供//ハンギョレ新聞社

 北朝鮮が、西海(黄海)漁業指導員銃殺事件の発生から約1カ月後に、この事件を「南北関係を破局に追い込んだ不快な前例」にはしないという立場を改めて明らかにした。米大統領選挙を目前に控えた不確実な情勢の中で、南北関係を管理していくという意図を込めた動きと見られる。

 北朝鮮官営の「朝鮮中央通信」は29日、「これまで我々は西海海上で発生した誰も望まない不祥事によって、北南間の信頼と尊重がさらに大きく崩れないようにするため、最高指導部の意中を込め、直ちに事件の顛末に対する調査結果を通知し、申し訳ない気持ちも伝えた」が、「現在南では我々の善意を冒涜し、同族間の不信と対決を極大化しようとする不敬な行動が度を超えて険悪になっており、わが軍隊と人民の憂慮と激憤をもたらしている」と指摘した。北朝鮮の今回の立場表明は、先月27日に「遺体を拾得する場合、慣例通り南側に引き渡す」ため「我が領海の侵犯は見逃せない」とした立場を明らかにしてから1カ月後に発表されたもの。金正恩(キム・ジョンウン)委員長は10日、党創建75周年記念演説で「保健危機が克服され、北と南が再び手を取り合う日が訪れることを願う」という立場を明らかにしている。

 朝鮮中央通信の報道という形式を借りた今回の立場表明を通じて、北朝鮮は「南側の住民がどんな意図で我々側の水域に不法侵入したかもわからず、取り締まりにも直ちに応じない状況で、正常勤務を遂行する軍人らがどのように対応するかということは、南側でも火を見るより明らかに予想できること」だとし、「現在の北南関係の状況を考慮し、申し訳ない気持ちも南側に伝え、南側の内部で起こる各種の中傷を黙殺し、最大の忍耐として自制してきた」と明らかにした。さらに「南朝鮮の保守勢力は“蛮行”や”人権蹂躙”など、同族をけなすことに血眼になり、彼らの政治的目的を達成するための機会にするために前後をわきまえずに奔走している」と指摘した。

 また、今回の事件について、「西海海上の北側水域に不法侵入した南側の住民が、取り締まりに応じず逃走する状況が造成されたと判断したわが軍人が、やむを得ず自衛的措置を取らざるを得なかったことに対し、あまりにもわかりやすく通知」したとし、今回の「事件は南朝鮮の全域を襲う悪性ウイルス(COVID-19)によっていつになく緊張が高く危険千万な時期に、敏感な水域で自分側の住民をきちんと管理統制できずに起きた事件であるため、当然不幸な事件を招いた南側にまず責任があるということが我々の変わらぬ立場」であることを改めて強調した。

 北朝鮮は先月22日、西海の漁業指導員銃殺事件が発生して3日後の25日、朝鮮労働党中央委員会統一戦線部の名義で「我々側の水域で思いがけない不祥事が発生し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と南の同胞たちに大きな失望感与えたことについて大変申し訳なく思う」という金正恩国務委員長の謝罪の言葉を伝えた。しかし、正確な事故の原因と経過を明らかにするために南北共同調査が必要だという韓国側の提案には、これといった反応を示していない。
キル・ユンヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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WTOを無力化させた責任の当事国とみなされてきた米国の反対に対し、欧州など主要加盟国が強く反発し、中間に挟まれた韓国は苦しい立場に置かれた。

2020-10-30 10:34:59 | 韓国を知ろう
WTO世論固まるが米国は韓国候補支持…
韓国は苦しい立場

登録:2020-10-30 05:39 修正:2020-10-30 07:09


米国、オコンジョイウェアラ候補のWTO事務局長選出を阻止 
ユ・ミョンヒ候補を支持し、「WTOを改革せよ」 
「米国だけオコンジョイウェアラ候補に反対」…米国の反対に加盟国が反発 
9日の会議で再議論…合意に至らなければ投票の可能性も

      

韓国産業通商資源部のユ・ミョンヒ通商交渉本部長(左側)とナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ元財務相=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 米国が世界貿易機関(WTO)事務局長選挙で多数の国家の支持を得ているナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ元財務相に公に反対し、韓国産業通商資源部のユ・ミョンヒ通商交渉本部長を支持すると明らかにした。しかし、WTOを無力化させた責任の当事国とみなされてきた米国の反対に対し、欧州など主要加盟国が強く反発し、中間に挟まれた韓国は苦しい立場に置かれた。

 WTOは28日午後3時(現地時間・韓国時間28日夜11時)、スイス・ジュネーブの本部で164の加盟国のジュネーブ駐在大使がすべて集まったなかで全体会議を開き、過去10日ほどの間に選好度調査を行った結果、オコンジョイウェアラ候補がより多くの票を得たと公開発表した。

 WTOのキース・ロックウェル報道官は、全加盟国会議後に記者団に「ある代表団が(会議で)オコンジョイウェアラ候補の立候補を支持できず、引き続き韓国のユ・ミョンヒ本部長を支持すると述べた。その代表団は米国だった」と明らかにした。ロックウェル報道官はまた、オコンジョイウェアラ候補に対する合意を確保しようとする「必死の行動」があるようだと述べ、欧州連合(EU)などが米国に対抗しオコンジョイウェアラ候補を強力に支持したことを示唆した。EUだけではなく、中国、日本、カナダなど主要加盟国も同候補を支持した。

 米国貿易代表部はこの日、声明を出し、「WTOはこの分野で実質的かつ直接的な経験を持つ者が率いるべきだ」とユ本部長への支持を明らかにした。貿易代表部は、ユ本部長が通商専門家として「特に優秀で」「この機関を効率的に率いるために必要なすべての技量を備えている」と付け加えた。声明ではオコンジョイウェアラ候補に対してはこれといった言及はなかった。

 米国はこの声明で、WTOに対する批判も吐露した。「25年間、多国間関税交渉はなく、紛争調停システムは統制が取れず、基本的な透明性の義務を守る加盟国はほとんどない」とし、「WTOと国際通商が極めて困難な時」を迎えていると批判した。

 WTO事務局長は全加盟国のコンセンサス(全体合意)を得て最終選出される。したがって米国はもちろん、韓国とナイジェリアも最終推薦候補に同意しなければならない。WTOはこの問題を再び論議するために、米国の大統領選挙後である来月9日に会議を召集した。ウォールストリート・ジャーナルは「11月9日の会議では、必要ならばこのような合意の前例を破り、最後の方法として投票が実施されることがありうる」と伝えた。EU加盟国のある代表は同紙に「投票になれば、ナイジェリア候補の勝利の可能性は99%」だと明らかにした。

 来月9日に開かれる会議は、米国大統領選挙の結果に影響されるとみられる。トランプ大統領が再選されれば、オコンジョイウェアラ候補に対する反対をさらに強力に押し付け、EUなどとの摩擦が大きくなるものとみられる。同盟国との貿易対立を緩和しようとするジョー・バイデン民主党候補が当選すれば、妥協の余地が生じることもありうる。

 ウォールストリート・ジャーナルは、大差をつけて支持を得たオコンジョイウェアラ候補に対し米国がブレーキを掛け、欧州各国と中国、カナダ、中南米および20カ国以上のアフリカ加盟国の代表が一斉に反発したと伝えた。EU所属のある代表は同紙のインタビューで、「米国が選出過程に問題を提起しようとするならば、もっと早くにしなければならず、そうすることができた」と批判した。

 米国のある高官は「WTOが(米国と)合意した支持を得られなかった候補を推し、米国が不満を提起した」とし、「WTOの選出委員会は米国の反対をよくわかっていた」と反論した。この高官は「米国がオコンジョイウェアラ候補に反対するのは、彼女が長い経歴を世界銀行で持つなど、通商分野の出身ではないから」だと説明した。また、米国がWTOを弱体化させようとするのではなく、ユ本部長がWTOのためのより強力な指導者だと評価した。

 WTO事務局長を任命する協議手続きを「コンフェッション」(Confession・告解)と呼ぶほど、各候補の得票数は徹底的に秘密にされる。韓国政府も具体的な投票結果を確認できなかったという。ただし、通知の過程で両候補間の票差が予想より大きいという事実を把握したことが伝えられた。韓国政府はユ本部長がオコンジョイウェアラ候補より約20票ほど少なかったと分析しという。

 WTOの規定上、選好度調査で得票が少なかった候補はただちに辞退しなければならないというわけではない。事務局長はコンセンサス(全体合意)で任命される方式なので、ユ本部長が終盤の逆転を狙い、11月9日までねばる方法もある。これに先立ち米国政府がユ候補に対する支持を約束し、韓国側に「辞退しないように」と立場を伝えたことが知られている。

 しかし、ユ本部長を支持する国が予想より少なく、辞退せず長くねばるのは難しいという観測が出ている。すでに情勢が固まったうえ、米国の行動をめぐる他の加盟国の反発が強いためだ。イ・ジェウン外交部副報道官は29日の定例会見で「今後の手続きに対しては内部での検討が進行中で、韓国政府は加盟国の立場と期待、WTO事務局長選出の手続きを尊重し、総合的な判断をしていく計画」だと明らかにした。
チョン・ウィギル先任記者、チョ・ゲワン、キム・ジウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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山中氏は、この間、維新の会による「二重行政の解消」という演出のために、大事な大学や病院が統廃合されたと告発。大阪市が廃止・解体され、半人前の特別区を大事な子や孫に手渡すわけにはいかない

2020-10-29 11:31:03 | 維新の会の説明はうそが多い
なくすな大阪市
豊かな大阪を子や孫に
山中市議団長、平松元市長が訴え

             

       (写真)訴える山中氏(右)と平松氏=28日、大阪駅前

 「残りわずかになりました。大阪市をなくすのか残すのか、この住民投票。どうか『反対』とお書きになる方を1人でも2人でも広げてください」。住民投票が11月1日に迫る中、日本共産党の山中智子大阪市議団長は28日、大阪駅前で平松邦夫元大阪市長とともに訴えました。

 山中氏は、この間、維新の会による「二重行政の解消」という演出のために、大事な大学や病院が統廃合されたと告発。大阪市が廃止・解体され、半人前の特別区を大事な子や孫に手渡すわけにはいかないと訴え、「大阪市を残し、政令市の豊かで大きな力を今度こそ市民の命・暮らしや商売を守るために使おう。『二重行政』だと言われ、切り捨てられたものを取り戻そう」と力を込めました。

 平松氏は、数の力で何でも自分たちの思い通りに進めようとする維新の会を批判。「民主主義というのは、弱い人たち、少数意見をいかに大事にするかだ。市民と首長・職員が喜びを共有できるような社会をめざすのが行政のあるべき姿だ」と訴えました。

 全大阪生活と健康を守る会連合会会長の大口耕吉郎氏は「コロナ禍で連日深刻な相談が来る。カジノ計画を止め、市民の暮らし・命を守るために、最後の最後まで反対の声を広げよう」と呼びかけました。
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「物質的豊かさを享受するために国民の安全と命を後回しにすることはできない。優先順位が変わってしまえば、いつかは韓国も福島のような危機に直面する可能性があるからだ」と強調した。

2020-10-28 07:20:21 | 韓国を知ろう
京畿道知事「経済性ばかりの原発維持は時限爆弾…
いつか韓国も福島のような危機に」

登録:2020-10-27 04:01 修正:2020-10-27 06:45


「日本は福島第一原発汚染水の非理性的な放出計画を撤回せよ」


      

       イ・ジェミョン京畿道知事//ハンギョレ新聞社

 「安全の保障されない老朽化した原発は閉鎖し、無理な稼働延長は中止しなければなりません。原発を経済論理ばかり問うて稼動することは、電気代を節約しようとして時限爆弾を放置するようなものです」

 京畿道のイ・ジェミョン知事が月城(ウォルソン)原発1号機の早期閉鎖決定をめぐる論争に関連し、「脱原発政策」に触れた。イ知事は26日、自身のフェイスブックに「脱原発は進むべき道…福島第一原発の汚染水は放出してはなりません」との文章をアップした。これは、月城1号機の早期閉鎖決定の過程において、経済性が不合理に低く評価されたという監査院の監査結果が出て以降、野党が脱原発政策の全面的見直しを主張している中で出たもの。

 イ知事は「2016年の慶州(キョンジュ)、2017年の浦項(ポハン)の震度5以上の大規模地震は、もはや韓国が地震安全国ではないことを示し、これにより月城、古里(コリ)などの近隣の原発地域の安全問題が国家的問題として提起された」とし「地域住民は今も不安な気持ちで原発の状況を見守っている」と述べた。そして「物質的豊かさを享受するために国民の安全と命を後回しにすることはできない。優先順位が変わってしまえば、いつかは韓国も福島のような危機に直面する可能性があるからだ」と強調した。

 イ知事また、日本政府に対して、福島第一原発の汚染水を海洋に放出するという計画を撤回するよう求めた。イ知事は「自国の土壌を汚染し、自国民の健康を害しただけでは足りず、今や周辺国の国民の命と海洋生態系の安全も脅かすに至った。日本政府はせめて今からでも非理性的な放出計画を撤回し、特定秘密保護法で制限した情報を包み隠さず公開すべきだ」と述べた。また、「放射能汚染水は、海を共有する周辺国はもちろん、影響を受ける全世界とともに解決すべき人類生存の問題であることを肝に銘じ、国際社会による検証調査に応じることを求める」とも述べた。
キム・ギソン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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ナチズムは「民族共同体」を「神の国」にして、最高指導者を頂点に置き、古代の神政国家と類似した国家をたてた。宗教と国家が再び結合したものだが・・・、

2020-10-27 07:12:57 | これからの日本、外国人の目
軍国主義批判した日本の政治学者
「国家と宗教の誤った結合、ナチズムに帰結」

登録:2020-10-24 09:37 修正:2020-10-25 12:12


[書評]日本の自由主義政治哲学者の南原繁によるヨーロッパ精神史研究 
ナチズム「神政国家」批判通じ、日本軍国主義を批判した代表作  

『国家と宗教:ヨーロッパ精神史の研究』 南原繁著

        

『国家と宗教:ヨーロッパ精神史の研究』南原繁著、ユン・イルロ訳/召命出版・2万ウォン//ハンギョレ新聞社

 南原繁(1889~1974)は、太平洋戦争を前後する時期の日本の自由主義思想を代表する政治哲学者だ。東京大学助教授の頃にヨーロッパに留学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスやベルリン大学、グルノーブル大学で研究し、戦後の東京大学初代総長に就き、平和憲法制定の先頭に立った。南原は日本思想界の巨頭である丸山眞男の師匠であり、丸山に日本政治思想を研究するよう勧めたことで有名で、無教会主義を主唱し金教臣(キム・ギョシン)や咸錫憲(ハム・ソクホン)に強い影響を与えた内村鑑三のもとでキリスト教思想を学んだ人でもある。『国家と宗教:ヨ-ロッパ精神史の研究』は、南原の平和主義政治哲学の核心が要約された代表作だ。この本の初版は太平洋戦争の最中だった1942年に出された。日本軍国主義が狂乱の疾走をしていた時に出版されたが、この本で南原はナチズムを批判する形で日本軍国主義を遠回しに批判している。

 この本は、「ヨーロッパ精神史の研究」を通じ、「政治と宗教」あるいは「国家と信仰」がどのような関係を結ばなければならないかを、著者の独特な観点により詳述する。南原が見るところ、国家と宗教は互いに合わさってはならない異なる原理に根拠を置いている。もし宗教が国家に統合されれば、宗教は宗教としてのその純粋な機能を失うことになり、国家も国家として正しい機能を果たせなくなる。このような議論を進めていく際に南原が宗教の模範としているのが、近東で発生しヨーロッパで隆盛したキリスト教だ。キリスト教こそ人間の普遍的な救済の道を照らした真の宗教だというのが南原の考えだ。そのため、宗教と国家の関係を中心に置き「ヨーロッパ精神史」を研究するのは、特定地域の歴史研究にとどまらない人類普遍の問題に対する探求となる。

 南原がこの本で模範とするキリスト教は、イエスが始めパウロが伝えた「初期キリスト教」だ。この時期のキリスト教が最も純粋な形で「信仰共同体」の姿を示したという。この初期キリスト教は、ローマ帝国という抑圧的な政治体制のなかで育った。この帝国は皇帝を頂点にして広大な地域を一つにし、「パクス・ロマーナ」(ローマの平和)を提唱したが、そのなかで個人は原子のような状態で散らばり、政治的圧制のなかで苦痛を受けていた。キリスト教が誕生する前にこの個人に救済の道を提示したものとして、南原はエピクロス主義とストア主義を挙げる。しかし、これらの哲学思想は、少数の教育を受けた人たちのみが近づけるものだった。キリスト教は「神自身がこの地に降りてきて、十字架にかけられ死ぬことで、人間の罪を代わりにあがなったという教え」を通じ、差別のない救済の道を開いた。それまでの哲学が「精神の貴族主義」であるとすれば、キリスト教の教えは「福音の平民主義」だったと南原はいう。このキリスト教によりすべての既存の価値が転覆した。「今まで自らを賢明であるとした者が賢明でない者になり、価値のない者が価値のある者になる世界」が開くとみられたのだ。キリスト教は無力で疎外された者が集まった「愛の共同体」だった。

 この初期キリスト教は「神の国」の到来を宣言したが、イエスが教えた「神の国」は見えない国であるために、ただ信頼を通じてのみ近づくことができる。しかし、初期キリスト教は、勢力を得てローマの国教になった後、教皇を頂点とする教会制度に固まってしまった。この時代のキリスト教は、この教会制度こそがこの地で目に見える形で実現された「神の国」であり、現実の国家は「地の国」として教会の指導を受けなければならないと主張した。そのような世界観を初めて確立した人が教父哲学者のアウグスティヌスであり、続いて中世最高の神学者のトマス・アクィナスがこの思想を神学の形で集大成したと南原はいう。しかし、南原によればこのような神学は初期キリスト教の根本原理を裏切ったものでしかない。初期キリスト教では、キリストを信じるすべての個人は直接神と繋がれていたが、後に神と人間の間に教皇と司祭で構成された教会制度が入ることにより、キリスト教の真の姿を失ったということだ。

        

日本の自由主義政治哲学者、南原繁=ウィキペディア・コモンズ//ハンギョレ新聞社

 南原は、16世紀のルターの宗教改革がこの制度化した教会に対抗し、「見えない神の国」の理想を再び起こしたという。しかし、ルターの改革を経て誕生したプロテスタンティズムも、しばらくすると中世のカトリックと類似の道を歩む。中世の神学が、教会を優位に置き、国家を統合するものだとすれば、プロテスタンティズムでは、国家が優位に立ち、教会を統合した。そのような思想を劇的に示した人がルターの後裔のヘーゲルだ。ヘーゲルは、絶対精神が現実に実現されたものが国家であり、この国家は宗教を併せもつとみなした。「その結果、今や『神の国』は『愛の共同体』という本来の特質を喪失し、政治的王国に転落した」

 国家と宗教を統合したヘーゲルの絶対的観念論は、しばらくすると極端な反動を生んだが、それがヘーゲルの弁証法を「唯物弁証法」でくつがえしたマルクス主義だったと南原は指摘する。このマルクス主義で「神の国」は、自由と平等の共同体である共産主義社会として現れた。しかし南原は、この世俗化した「神の国」はキリスト教精神を極めて皮相的に模倣したものにすぎないという。マルクス主義の無神論は20世紀に入り、もう一度巨大な反動を生んだが、そのうちの一つがナチズムだ。ナチズムは「民族共同体」を「神の国」にして、最高指導者を頂点に置き、古代の神政国家と類似した国家をたてた。宗教と国家が再び結合したものだが、このナチスの理念が結局、悲惨な災いで終わったことを歴史が示した。

 南原はこの本で、宗教と国家を統合しないまま「人間の救済」と「人類の未来」を同時に示した人としてカントを挙げる。カントは、真の信仰の場として人間理性が侵せない「物自体」の世界を描きだし、人類が志向しなければならない究極の政治秩序として「世界共和国」を提示した。「神の国」の理想を理想通りに置き、この世界のなかで人類が政治的に進む目標をあわせて示したのだ。南原が解釈したこのカントの思想は、後日、柄谷行人が主唱した「世界共和国」に繋がるとみてもいいだろう。
コ・ミョンソブ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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