ベトナム中部にあるクアンナム省ディエンバン県(現ディエンバン市社)ディエンアン区フォンニィ村のある家に、韓国軍による民間人虐殺の生存者と目撃者たちが集まった。

2024-01-22 10:06:31 | しらなかった
 

[現場から]

「ベトナム戦争での虐殺は全部うそ」と

主張する韓国政府(1)

登録:2024-01-22 00:21 修正:2024-01-22 02:54
 
原告グエン・ティ・タンさんの国家賠償訴訟控訴審 
政府代理人団を2倍に増員も、論理はめちゃくちゃ 
「加害者特定すべき」、「57万分の1」荒唐無稽な論理も 
実際には130の村で1万人以上虐殺の統計あり
 
2001年3月のある日、ベトナムのクアンナム省ディエンバン市ディエンアン区フォンニィ村のある家で、1968年2月12日に韓国軍に銃撃されたことを証言するグエン・ティ・タンさん=コ・ギョンテ記者//ハンギョレ新聞社

 この写真は23年前に撮影された。41歳の女性が自分の着ているものをまくり上げ、左脇腹にできた深い傷跡を見せている様子を写したものだ。2001年3月のある日、ベトナム中部にあるクアンナム省ディエンバン県(現ディエンバン市社)ディエンアン区フォンニィ村のある家に、韓国軍による民間人虐殺の生存者と目撃者たちが集まった。写真の主、グエン・ティ・タンさんもその1人だった。その日、グエン・ティ・タンさんは、8歳だった1968年2月12日に、自宅の防空壕に家族と一緒にいたところを銃撃されたと証言した。

 この日、カメラの前で当惑した表情でポーズを取っていたグエン・ティ・タンさんは知らなかった。写真を撮影し、取材した記者も、彼女が大韓民国政府を相手取った損害賠償請求訴訟の原告となり、あの日から22年後の2023年2月7日に勝訴するとは、夢にも思っていなかった。

「経緯と意図は不穏」

 その日、ソウル中央地裁民事68単独のパク・チンス部長判事は、「被告大韓民国は原告に3000万100ウォンと、それに対する遅延損害金を支給せよ」と判決を下した。大韓民国の司法府が韓国軍のベトナム戦争参戦後初めて、戦争中にベトナムの民間人に銃撃を加えた不法行為と賠償請求権を認めた、歴史的な判決だった。

 23年前に写真を撮った記者とグエン・ティ・タンさんは、訴訟を予想していたのだろうか。今月19日に開かれたグエン・ティ・タンさんの国家賠償訴訟の控訴審の第1回口頭弁論を前に、被告の大韓民国(政府)の代理人団は、裁判所に提出した準備書面の冒頭で、「原告が訴訟を提起することになった経緯と意図は不穏だ」と述べている。「この事件の訴訟は、原告ではなく、ベトナムにいる原告を訪ねたハンギョレ21の記者らが(グエン・ティ・タンさんを)この事件の訴訟の原告に立て、大韓民国の法廷に大韓民国を被告として提起した訴訟だとみられる」と述べている。

 事実関係と法理を優先すべき弁護士たちが「不穏な意図」などと言ってそれを前面に掲げたことはさておき、23年前の報道機関の記者の取材が訴訟を念頭に置いた行動だったというような主張は、過度に非現実的で荒唐無稽だ。このような態度と主張は法廷でも続いた。

 
 
20日、ベトナムのフォンニィ・フォンニャット村を訪れた韓国の平和紀行団と言葉を交わすグエン・ティ・タンさん(右端)。左から南ベトナムの元民兵のグエン・ドゥク・チョイさん、生存者のレ・ディン・ムックさん、韓ベ平和財団のクォン・ヒョヌ事務処長=韓ベ平和財団提供//ハンギョレ新聞社

 19日午後、ソウル中央地裁第1別館312号で開かれたグエン・ティ・タンさんの国家賠償訴訟の控訴審(第3-1民事控訴部、ヤン・ファンスン裁判長)の第1回口頭弁論には、政府代理人団が大挙して出席し、注目を集めた。一審の2倍以上の人数だった。一審にかかわったのは政府法務公団と国防部の法務官(訴訟遂行者)だけだったが、控訴審では政府法務公団と国防部の法務官をはじめ、法務部の法務官と2つの法務法人の弁護士が代理人団を構成した。一審での敗訴を大きく意識し、意欲的に取り組もうとしているように見えた。しかし、一審の結果を覆すほどの証拠と主張はまったく提示できていない。

韓国軍がベトナムで57万件の作戦を遂行?

 政府側の代理人は控訴理由を説明した際に「国軍は1964年から1973年まで計32万人が参戦し、57万件の作戦を遂行した」と切り出した。57万件の作戦だとは。当時、韓国政府は1964年9月1日から1973年3月23日までに、32万人あまりの国軍兵力を派兵した。期間は8年7カ月だが、それを最大で3130日と見積もっても、1日も休まずに毎日182件の作戦を消化してようやく、57万件という数値が出てくる。

 国防部が発行した派越韓国軍戦史によると、派兵兵力が最も多かった1968年(4万9869人)の1年間の作戦総数が120件あまりだ。政府代理人団は、中隊または小隊単位の1日の任務遂行日誌の内容さえ、すべて個別の作戦として処理したのか、おかしな計算を示している。57万対1。つまり、それだけ韓国軍の不法行為を些細(ささい)で実体の分からない事件とみなすことを意図して、このような比を持ち出してきたのだろうか。

 「国軍がこのような57万件の作戦を遂行する過程で、その中で今この事件は1件、その1件の中でも特定もできない1人の加害者の、故意であったのか過失があるのかも確認できないそのような状況で、被害者と被害者の兄の陳述くらいしかないにもかかわらず、このように途方もない行為に対して事実認定を果敢に行い、国家賠償を認めるのは不当であり、正義に反する、というのが趣旨だ」。1という数字を1万にしてみよう。ベトナム戦争期の韓国軍による民間人虐殺の犠牲者が、実際には130の村で1万人を超えるという統計を根拠としてだ。もしかしたらグエン・ティ・タンさんは57万分の1ではなく、まったく異なる次元での1万分の1かもしれない。(2に続く)

コ・ギョンテ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
 

[現場から]

「ベトナム戦争での虐殺は全部うそ」と

主張する韓国政府(2)

登録:2024-01-22 00:19 修正:2024-01-22 03:08
 
 
 
2023年2月7日、一審での勝訴直後、韓ベ平和財団のクォン・ヒョヌ事務処長(左)と原告代理人団のイム・ジェソン弁護士が、ノートパソコンでベトナムにいる原告のグエン・ティ・タンさんに感想を聞いている=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

(1の続き)

政府代理人団、補強はしたものの準備はずさん

 政府代理人団は人員を大幅に増強したが、準備はお粗末に見えた。グエン・ティ・タンさんが韓国軍の銃撃で負傷し、76人の村民が亡くなった1968年2月12日のフォンニィ・フォンニャット事件について、政府弁護団は「グエン・ティ・タンとその兄の陳述だけを聞いた」とおとしめた。だが、事件現場を直に目撃した村の住民、韓国兵、米兵など、数多くの人々の陳述が一審で提出されている。作戦を遂行した韓国軍の参戦軍人が自ら法廷で証言してもいる。政府代理人団はこれらの証拠を知らないか、わざと無視したのだ。

 唯一の新たな主張は「韓ベトナム請求権協定」だ。政府弁護団は「韓ベトナム請求権協定を参照し、そこから法的議論がなされるべきだが、原審では韓ベトナム軍事実務約定書ばかりが語られ、前者についての議論がまったくなかった」と指摘する。韓ベトナム請求権協定とは、1967年1月16日に締結された「大韓民国政府とベトナム共和国(南ベトナム)政府との間の軍隊構成員による公務執行中の人命被害および政府財産の損失に対する請求権協定」のこと。

 政府代理人団の主張どおり、両国の間で結ばれた請求権協定は原審で扱われなかったが、有効ではないというのが原告側代理人団の説明だ。原告側代理人団のイム・ジェソン弁護士は「協定そのものに個人の請求権を消滅させるなどの内容がまったくなく、請求権協定後に締結された1969年の実務約定書には『個人の請求権は影響を受けない』という内容が明示されている」と語る。イム弁護士はまた「韓ベトナム請求権協定については一審で主張もできていなかったのに、今になっておこなっており、果ては協定にもない内容なので、無理やり過ぎる」と付け加えた。

 一審で政府代理人団は、請求権協定ではなく韓ベトナム軍事実務約定書を「提訴排除」の根拠として掲げた。しかし一審は「実務約定書などだけでベトナム政府が自国民の被害者の損害賠償請求権を放棄したとか、国家間合意にもとづく賠償方式以外の、被害者が直に大韓民国の裁判所に訴訟を提起する権利を放棄したと考えることはできない」との判決を下している。

 
1969年10月20日に改正された韓ベトナム軍事実務者約定書の請求権についての記述//ハンギョレ新聞社

相互保証、消滅時効などの同じ論理の繰り返し

 その他にも政府代理人団は相互保証や消滅時効などを語るが、これもやはり一審が明快に結論を下している。相互保証は、ベトナム人が賠償を受けるのと同様に、ベトナム戦争で負傷した韓国兵がベトナム政府に損害賠償を求められるのか、という問題だ。一審は「当該の外国において具体的に大韓民国の国民に国家賠償請求を認めた例がなくても、実際に認められると期待しうる状態であれば十分だ」として政府の主張を退けた。消滅時効についても「この事件の被告(大韓民国)が時効の完成を主張するのは権利乱用に当たる」とした。被害者に損害賠償請求などの権利を行使できない障害事由がある場合は、国家が消滅時効を主張してはならない、という最高裁の判例に則り、政府の消滅時効主張を退けたのだ。

 政府代理人団の主張の中で注目されるのは「加害者が特定できない」という部分だ。「特定もできない1人の加害者」という表現も用いている。「このように人が死んだり怪我したりした重大な不法行為において、人物を特定することもできない場合に、責任を認めることがどうしてできようか。なぜなら人物を特定してはじめて、故意だったのか過失があったのかが分かるからだ」

 村の住民たちが銃撃された当時、そこにいた部隊は海兵隊第2旅団(青龍部隊)第1大隊第1中隊だったということは、すでに2000年に報道によってだけでなく、同年に秘密解除された米国防総省の文書からも明らかになっている。

 しかし政府代理人団は、銃を撃った兵士の名前と軍番ぐらいは分かっていないと、国家責任を認めることはできないと主張する。1950年代の朝鮮戦争期の軍や警察による民間人虐殺事件でも、加害兵士が特定されたことはほとんどない。部隊の特定だけでも事実関係の立証は十分だ。国家情報院による不法拘禁と人権侵害事件でも、捜査官の実名を特定してはじめて国家責任が認められるという判決が出たことはない。

 
 
2021年8月、ソウル鍾路区恵化洞のベトナム戦争民間人虐殺をテーマにした演劇公演の会場前で、ある参戦軍人が1人デモをおこなっている=コ・ギョンテ記者//ハンギョレ新聞社

ベトナム人は56年間もうその口裏合わせをしていたのか

 賠償問題はひとまず置くにしても、政府代理人団の結論は基本的に「原告の主張は信用できない」というものだ。準備書面では、ベトナム側の資料は「共産党の資料」だから信じられないとも記している。この主張が正しいなら、グエン・ティ・タンさんをはじめとするフォンニィ・フォンニャット村の住民たちは、1968年2月12日の事件当日から組織的かつ知能的に口裏を合わせて56年間もうそをついてきた、ということになる。ハンギョレは2001年に現場を訪ね、そのようなうそによって大韓民国に対して国家賠償訴訟を起こすようあおり、ついにグエン・ティ・タンさんを韓国の裁判所にまで来させた、というわけだ。

 控訴審の裁判長は控訴理由をすべて聞いた後、「(政府代理人団は)各争点で争うという趣旨」、「証拠の信ぴょう性が重要だが、何をするつもりなのか」と問うた。政府代理人団は「証人を様々な方面で模索している。確定すれば証人を申請する」と述べた。原告側の代理人団は、政府代理人団の証人が決まれば、それに合わせて対応すると述べた。同日、参戦軍人団体「大韓民国枯葉剤戦友会」による裁判補助参加申請は認められなかった。控訴審は2月の裁判所の人事で判事の構成が変更される予定だ。次の口頭弁論は4月5日午前10時から。

コ・ギョンテ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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意見書は核兵器禁止条約が国連会議で採択された17年7月7日以降のものです。岩手、長野、三重、沖縄の4県議会が可決し、鳥取県議会が陳情を趣旨採択。

2024-01-22 10:01:17 | しらなかった

核禁条約参加求め674議会

発効3年 約4割の自治体で意見書

 核兵器禁止条約が2021年1月22日に発効して3年を迎えました。同条約が実効力・規範力を高めるなか、唯一の戦争被爆国である日本政府は米国の「核の傘」のもとで署名も批准もしていません。日本政府に核兵器禁止条約への参加を求める地方議会の意見書(趣旨採択を含む)が674に達し、全1788議会の約38%となったことが、原水爆禁止日本協議会(日本原水協)の調べで21日までにわかりました。

 昨年10月5日に全会一致で可決した長崎県諫早市の意見書は「核兵器のない世界の実現という被爆者の切なる願いを、唯一の戦争被爆国である日本政府は真摯(しんし)に受け止め」、「核兵器禁止条約の実効性を高めるために主導的役割を果たされるよう強く要望する」とのべ、核兵器禁止条約を早期に署名・批准することを求めています。

 昨年9月14日に賛成多数で可決した栃木県高根沢町の意見書は、歴史的な核兵器禁止条約が「被爆国、被害国の国民の声に応えるものとなっています」と高く評価。「日本は、『唯一の戦争被爆国』として核兵器全面禁止のために真剣に努力する証として、核兵器禁止条約に参加、調印、批准することを求めます」としています。

 意見書は核兵器禁止条約が国連会議で採択された17年7月7日以降のものです。岩手、長野、三重、沖縄の4県議会が可決し、鳥取県議会が陳情を趣旨採択。区市町村議会は31の趣旨採択を含めて1区290市302町76村となっています。

 岩手県は県議会と全33市町村議会で可決。県・区市町村議会を合わせて7割を超えたのは秋田、新潟、長野、鳥取、岡山、広島、徳島の7県です。

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