旅限無(りょげむ)

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火を噴くウイグル 其の壱拾六

2009-07-11 20:55:24 | チベットもの
……中華包丁を腰のベルトにさした漢族の青年(22)がいた。「あいつら(ウイグル族)がまた襲撃してきたら、これでやっつけてやる」。腕の入れ墨が目についた。「漢族の気持ちは怒りでいっぱいなんだ」とぶちまけた。

■「刺青」が本物なら、このアンチャンは拳銃を隠し持っているかも知れませんぞ。それにしても、鞘(さや)も無い斧みたいな中華包丁を抜き身でベルトに差して粋がっていると、自分の腰や指を切りそうですなあ。悪趣味な連想ではありますが、アインシュタインが生前に残した言葉に「第三次大戦で使用される武器が何になるかは分からないが、第四次大戦で使われる武器なら分かる。それはきっと石だろう」というブラックな警句があったことを思い出します。


8日、上空を飛行する軍のヘリコプターから、白い紙が大量にまかれた。「冷静になれ、民族で区別するな」と書かれている。自治区の王楽泉党委員会書記がテレビを通じ呼び掛けた文書だ。街角でも配布されている。武装警察の宣伝車は拡声器で「民族融和を」とがなりたてる。武装警察のトラックには「国家安定 経済発展」の横断幕。街のあちらこちらで「漢族は少数民族と切り離せず、少数民族も漢族と離れられない」というスローガンを目にする。当局は国内メディアも通じ「民族団結は中華民族の根本的利益」(8日付の人民日報)と、しきりに強調している。ヘリからまかれたビラの1枚を、ウイグル族の男性がくしゃくしゃにして捨てた。……
7月9日 産経新聞

■「少数民族も漢族と離れられない」という一節は、言いも言ったり!という感じがしますなあ。このような何の根拠も無い手前味噌のスローガンに対して、「どうしてなのさ?」などという質問は厳禁となっております。


……ウルムチでの暴動を受け、孟建柱国務委員兼公安相と中国人民武装警察部隊の呉双戦司令官が8日、現地入りした。武装警察などのトップが現場で陣頭指揮を執るのは極めて異例。米国の中国語ニュースサイト「多維新聞網」は、習近平国家副主席が総指揮を執っているとも伝えている。……ウルムチ市の栗智共産党委員会書記は8日の記者会見で、当局が暴動の「首謀者」だとしている在外ウイグル人組織「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長について、「彼の意図は民族団結を破壊することにある」と批判。「どの民族が起こそうが、暴力事件には徹底して対処する」と述べ、民族対立に根ざした暴動がこれ以上発生しないよう住民に警告した。
2009年7月8日 産経新聞

■ラビアさんは女性ですから、三人称単数の代名詞に男女の区別が無い北京語を正確に翻訳したら「彼女の意図は……」とすべきでしょうが、そんなことより「民族団結を破壊する」目的だと断定しているところが問題です。暴動が起きる前にはその「団結」が達成されていたとでも言うのでしょうか?そうだとしたら、随分と歪んで傾いた関係を「団結」と呼ばねばなりますまいなあ。そして、どさくさに紛れて「どの民族が起こそうが……」とチベットを念頭に置いていることを隠そうともしないところが官僚的で無気味であります。

■サミットに出向いた胡錦濤国家主席の留守を預かっていたのは習近平副主席ですから、「総指揮」を執っていても不思議ではありません。でも、「公安相」と「武装警察司令官」が共に現地に入るというは本当に異常なことであります。かつて迷わず「戒厳令」を出してラサ暴動を武力で鎮圧した胡錦濤主席の「業績」を正しく?評価すれば、今回も迷わず軍隊を投入して戦車や装甲車を走り回らせるところなのでしょうが……。どうやら、中央政府内には迷いがあったようです。

火を噴くウイグル 其の壱拾伍

2009-07-11 15:33:35 | チベットもの
公安当局は8日早朝から、漢族が多い市中心部北側と、ウイグル族居住区との境界である人民路を中心に大量の治安部隊を配置した。中央政府幹部として初めて孟建柱・国務委員兼公安相が8日、ウルムチに入り、陣頭指揮をとった。香港メディアによると、人民解放軍も動員された。
7月9日 読売新聞

■一体、人民解放軍は誰のために誰を殺す目的で動員されたのでしょうなあ?少なくともこの報道の中には脱出するウイグル人を説得して引き止める当局者の姿は見えません。空家だらけになったウルムチのウイグル人街を「制圧」した後は、目出度くシルクロード観光と地下資源の積み出し拠点にして重要な軍事拠点としてウルムチは安定を取り戻し、それを記念して地元政府が中央からエライ人達を招いての熱烈「感謝」の式典が開催されることでしょう。

■その一方では。ウルムチを逃げ出した人々が避難生活を始める次の町に圧力をかけ、再びそこを脱出した人達がやっと落ち着いた所をしつこく監視して……最後は何事も起こらない平和なウイグル自治区が誕生するというシナリオが出来ているのかも知れませんなあ。
 
 
……暴動は、漢族によるウイグル族への“報復”という事態に発展した。共産党中央指導部は、対立がこれ以上激化することを食い止めようと、現地で「民族団結」を呼び掛け始めた。しかし、ウイグル族と漢族の住民は、互いに怒りと憎悪の視線を投げかけ、一触即発の状態が続いている。

……「この刀を振りあげて漢族は襲ってきた。友人は頭に重傷を負った」自治区の区都ウルムチの中心部に近いウイグル族の居住区。7日夕、暴徒化した数千人の漢族が凶器を手にここを襲撃した。長刀、中華包丁、クギを刺した棍棒、スコップ、鉄パイプ…。漢族が残していった凶器を、住民は1カ所に集めていた。「一人一殺だ」。漢族はこう叫びながら凶器を振りあげ、投げつけたという。「あの路地奥では4人死んだ」と、住民の一人は指さした。警察官が短銃2発を発砲し威嚇したが、けが人を助けずに去ったという。「『襲撃の死傷者は1000人近い』と、政府機関の友人から電話があった」とも話す。

■市内の人口比が4:6なのだそうですから、「1人1殺」が実行されたら、単純計算でゼロ:2(正しく書けば0:10)になる可能性がありますなあ。武器の中に「中華包丁」が含まれているのが無気味!殺した後に料理でもする心算だったのでしょうか?「長刀」は文化的な伝統を背景にチベット人やウイグル人などの「少数民族」だけに、装飾品か美術品として所有が認められていると聞きましたが、ウイグル自治区に居住する漢族にも許可されているのでしょうか?一体、何の目的で?!


別の場所でも話を聞いた。「鉄パイプとヌンチャクで襲われた」と、声をあげ泣きながら振り返るのは、女性……。この一角も長刀などを手にした「1000人ほど」の暴徒に襲われ、グリーさんの雑貨店はガラスが割られドアが壊された。彼女は洗濯機の中に隠れた。「ごめんなさい。助けてください」。そう何度もつぶやいた。18歳の妹は天井裏から逃げた。父は5日に武装警察に連行されたままだ。

■出ました!「ヌンチャク」。元々、琉球(沖縄)で馬具を転用したのが始まりとされる有名な武器ですが、一説には、東南アジアのカンフー映画で活躍していた日本の倉田保昭さんが、香港に戻ったばかりのブルース・リーにプレゼントしたことから、『ドラゴン怒りの鉄拳』『ドラゴンへの道』『燃えよドラゴン』などで派手な演出が加えられて注目を集めることになったのだとか……。本物は樫の木ですから、直撃されたら頭蓋骨は陥没しますなあ。襲った連中はブルース・リー気取りだったのかも?

火を噴くウイグル 其の壱拾四

2009-07-11 15:33:16 | チベットもの
■「東トルキスタン共和国」の独立が夢と消え、有り難くも畏くも社会主義革命の名の下に「解放」して頂いてからは、原爆実験はしてくれるわ、あちこちに軍事拠点は作ってくれるわ、「人民教育」を目的として学校が建てて下さり、漢族の教師が続々と送り込んで頂き、それから少しばかりソ連(ロシア)との緊張が薄れたかと思ったら民間人の漢族がじわじわと流れ込み、その一方で地元のウイグル人は東や南に出稼ぎに行くなどして民族間の人口比率はあっさりと逆転してしまったのでした。

■御丁寧に「西部大開発」の大号令で莫大な予算が投入されたのはよいのですが、入って来たのはカネだけではなく、それより多くの漢族が雪崩れ込んで来たのですから、共産党政府が開発目的で支出したカネのほとんどは漢族の懐へと「還流」して消えてしまったそうな……。このまま人口比が一方的に傾いて行けば、ウイグル自治区の名前は文字通りの看板倒れとなってしまうのは目に見えてたようなものですが、大規模な暴動が発生したからには当面の鎮圧を目的とした公安やら軍隊が急いで送り込まれ、その後は予防的な目的で駐留する部隊が増やされるでしょうから、それを当て込んで商売にやって来る漢族がまたまた増えるというわけです。

■もしも、ウイグル人の方から出て行ってくれれば、さぞや漢化政策の効率は高まり、「民族融和」の仮面の下に隠されていた単一民族国家への恐ろしい野望が顕(あらわ)になるかも?


ウイグル族と漢族の対立が続く中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで8日、ウイグル族住民がウルムチからの脱出を始めた。区都の人口で圧倒的多数を占める漢族住民が7日にウイグル族の商店を襲撃し、情勢が一層悪化する懸念が高まったためだ。中国公安当局は武装警察部隊などを大量動員し徹底した鎮圧に乗り出しており、現地は緊迫した状況が続いている。

■民族間の対立が激化してウイグル人の「皆殺し」を叫ぶ者まで現われている時に、「徹底した鎮圧」は誰が誰に対して行われているのでしょうなあ?当局が動員も許可もしていないデモ行進をした者は無条件で「分裂主義者」のレッテルを貼られ、問答無用で野蛮な弾圧を仕掛けた武装警察は愛国者と呼ばれ、取り締まりに反発したらこれまた「国家に対する反逆」とされ、積年の恨みを爆発させて暴れたら「徹底した鎮圧」の対象にされてしまいます。

■その一方で、デモとも暴動とも関係の無いウイグル人を襲う漢族は分裂主義者となり得る者を予防的に攻撃していると言い張ればお咎めなし?


……ウルムチ脱出の動きは8日朝から始まった。ウイグル族居住区に近い市中心部南端の長距離バスターミナルは、大型トランクなど多くの荷物を抱えたウイグル族住民でごった返した。ウルムチ駅に向かう住民もいるという。主な避難先は出身地や親類がいるカシュガル、アクスなど同自治区南西部の都市。あるウイグル族男性は「不安でたまらない」と話した。

■かつてのナチスが暴れ回った頃の欧州で見られたユダヤ人の大量脱出とよく似た光景が現出しているというのに、イタリアで開催されていたサミットでは、胡錦濤国家主席が緊急帰国したことさえも話題にならず、ましてやウイグル問題を取り上げよう!という声を上げる者は皆無だったとか……。北京政府は逸早く「これは内政問題だ!」と先手を打って、間違ってもサミット会場でチャイナの人権問題などが取り上げられないように釘を刺していたようですなあ。勿論、我らが「外交の麻生」もこの件に関しては沈黙を守っていたようです。

火を噴くウイグル 其の壱拾参

2009-07-11 06:21:39 | チベットもの
……「米国館」の建設費用や運営費として見込まれる6100万ドルのうち、スポンサーが確保できたのは約3分の1の2000万ドル分で、協賛企業はペプシコを含め8社にとどまる。米国は法律で万博への政府支出を禁じており、民間の寄付が頼りだが、金融危機にあえぐ米企業は「万博どころではない」のが実情だ。

■「万博どころではない」のは日本も同じはずなのですが、何故かチャイナ絡みとなると無理を押して付き合おうとする熱心な人や企業が現われるようで、さてさて「日本館」には何が出品されるのでしょうなあ?


上海万博事務局では「来年5月1日の開幕までに完成しないパビリオンがあると、全体の運営に大きな影響を与える」として、先月末までの「国家館」着工を求めていた。最終確定していない米国について事務局側は「もし不参加なら、世界最大の舞台でアピールする機会を失う米国政府と米国民にとって最も残念なことだ」と牽制している。米国は「日本館」などと並び最大規模の約6000平方メートルの敷地に出展する意向を表明していた。日本は官民合同の「日本館」を2月に着工、企業が主体の「日本産業館」の起工式を4日に行った。
7月5日 産経新聞

■「日本産業館」というのですから、やはり、自動車とロボットが中心になるのでしょうか?家電製品やら「ガラパゴス化」した複雑千万な高機能携帯電話機も多数出品されるとか、「アニメの麻生」の看板を飾ってアニメ関連のソフトやゲーム関連商品がずらりと並ぶとか?何とかチャイナ市場に売り込みを掛けたい日本の産業界の熱望は分かりますが、300日後にウイグル問題が完全に収束しているかどうかは誰にも予測ができませんし、後先考えない経済対策が膨らませているチャイナのバブルが破裂してしまっているかも知れませんぞ。案外、「万博どころではない」と内政に集中した国の方が早く経済の建て直しに成功するとなどという皮肉な話になるかも?

■実はチャイナ国内には、あの感動の?北京五輪とはまったく無縁だった人も多く、北京まで見物に行くどころかテレビで観戦することも出来ない人達や、最初から「党が勝手にやっていること」と冷ややかに無視していた人も多かったとか……。従って、「万博どころじゃないだろ?!」という人達も多いはずで、中には積極的に万博を邪魔したり破壊しようとするほど絶望してしまっている人もいるかも知れません。御用心、御用心。

火を噴くウイグル 其の壱拾弐

2009-07-11 06:21:21 | チベットもの
■実に不思議なことですが、ウイグル暴動の余燼(よじん)が燻っている時に大きな地震が起きましたぞ。何やら嫌な既視感が湧く連鎖のような……。

……中国雲南省で9日夜、マグニチュード(M)6.0の地震があり、2700戸以上の家屋が倒壊するなどして56人が重傷、280人が軽傷を負った。震源地は同省楚雄イ族自治州姚安県で、震源の深さは約10キロ。省都の昆明や観光地の大理、麗江でも強い揺れを記録した。政府が被災者の救援活動を始めた。
7月10日 時事通信

■発生した場所と時刻からすると、まだまだ犠牲者は増えそうでありますが、思い出せば、北京五輪を控えていた時期にチベットの騒乱が起き、厳しい情報封鎖が行われている時にチベットの東端に当る四川省の山奥で巨大地震が発生し、チベット騒乱の真相も分からず四川省大震災での被害を大きくした「オカラ工事」の真相も明らかにされないまま、華々しく北京五輪大会が開催されたのでしたなあ。

■今は上海万博が控えているわけでありまして、その上海より一歩先んじて外国資本を導入して発展したのが南東端に位置する広東省の経済特区、その中心地で「撲殺」事件が起こり、チャイナの西北端のウイグルに飛び火して勃発した大暴動。その暴動がどこまで拡大するかは予断を許さない状況で、四川省を南北に走る大活断層とつながっていると思われる雲南の山奥が揺れた!

■北京五輪と同じ調子で上海万博を開催するつもりなら、ウイグル暴動に関する情報公開をぱったり止めて、雲南地震の被害状況も明らかにせず復興作業もだらだらと遅らせて、予定通りシナリオ通りに上海万博が華々しく開催されるという運びになるのでしょうか?

■これまた不思議な偶然ですが、ウイグル暴動が起こる前日に、ちょっと気になるニュースが流れていたのであります。


2010年に中国上海市で行われる「上海万博」開幕まで5日であと300日と迫ったが、海外パビリオンでは日本と並ぶ“目玉”の「米国館」が資金難から着工のめどが立たず、難航している。上海万博への参加を表明している190カ国以上の中で、中国と国交がありながら出展が最終確定していないのは、米国と欧州のアンドラだけとなった。……米国政府は5日までに「米国館」総代表にテキサス州在住の弁護士、ホセ・ビジャレアル氏を任命し、万博参加への強い意欲を表明した。また、清涼飲料大手の米ペプシコがスポンサーとして500万ドル(約4億8000万円)の拠出を決め、清涼飲料やスナック菓子を独占的に提供する。

■国際的な巨大イベントとなると、米国のコカコーラとペプシコーラが激しい鍔迫り合いを演じて見せるのが恒例となっておりましたが、今回はペプシの勝ちのようです。しかし、肝腎のアメリカ館が万が一にも完成しないなどということになると、来客数に大きな影響が出そうですなあ。1970年の大阪万博では、有名な「月の石ころ」を一目見ようと殺人的な行列と人だかりが出来たものですが、今時のアメリカにそんな品物があるのかどうかは分かりません。これまでに最も売れなかったGM社製の自動車とか、リーマン・ショックで売り飛ばされた我利我利亡者が買い集めた趣味の悪い成金コレクションとか、あるいはブッシュ前大統領が「イラク戦争に勝ったぞ!」とはしゃいで航空母艦に着艦した時に来ていた飛行服とか……。