旅限無(りょげむ)

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好対照の事件 其の四

2005-11-29 00:12:11 | 社会問題・事件
其の参の続き

■「耐震計算」偽造事件と、電機工事会社の談合事件の続報が有りました。前者の方が根深い社会問題に行き着く様相を呈して来たような気がします。


構造計算は、地震の外力と柱の太さなどをコンピューターに入力し、十分な耐震力があるかどうかの判定結果を出力させる。入力シートと出力シートには同じ番号がつく。だが、建築士は別のデータでつくった判定結果を提出したため、二つのシートの番号が違っていた。番号を確認すればすぐ偽造に気づく単純な手口である。それなのに、検査会社は見逃していたことになる。かつて建築確認の書類検査は自治体に限られていた。民間でも代行できるようになったのは98年からである。

■これは11月19日の朝日新聞が掲載した社説の一部です。既に問題の一級建築士は顔も家もテレビに晒してインタヴューに答えていますから、他人事のように軽薄な受け答えしている様子が全国に放送されています。多くの人命にかかわる大問題を起こした実感の無い48歳の男は全国的に反感を買っているようですが、本人の言い分はきっとこんな具合に組み立てられているのだと推測できます。

■自分は、高校入学の「試験」に合格し、大学入学「試験」に合格し、建築士の「試験」に次々と合格して、一級建築士の「試験」にも合格している。そして、今回の偽造書類は、建築確認申請の「審査」に合格している。自分は、常に被験者であって、合否を決定するのはそれぞれの試験担当者の仕事である。仮に、各種の資格試験で自分が不正行為をして合格し続けたとしても、試験時間中に十分な監視をせず、厳正な採点をしなかった側に「合格」の責任は存在する。世の中はそのように動いているではないか?


……低価格が売りものだった。「安かろう悪かろうでは困る」と心配したが、「設備を簡素にしました」などと説明を受けて信用した。

■これは被害に遭った59歳の会社員が朝日新聞の取材に語った言葉です。約4000万円で欠陥マンションの部屋を買い、頭金の1000万円は自分で工面して残りは息子の名義でローンを組んでいるようです。「設備を簡素にしました」とプロに言われて、「どこをどのように簡素にしたんだ?」と重ねて質問できる素人はいないでしょう。万一、にわか勉強で仕入れた質問をしても、相手は上手に言いくるめるマニュアルを用意していることでしょう。全ては、手抜き工事をして安値でマンションを売り抜けようとした施工主の企業が始めた犯罪です。耐震性を犠牲にしてでも「安く設計」させられた一級建築士は、板挟みを脱するために責任の丸投げを画策したのでしょうなあ。

■最初からぺこぺこ設計案を審査に出せば、検査会社からも依頼主からも張り倒されるでしょうから、自分の最低限度の「責任」として、アホでも分かる偽造工作をして見せる。これで依頼主には言い訳が立つ!「せっかく建築士さんが努力したのでしょうが、これでは審査は通りませんなあ。ハハハハハ」と連絡が来て、「ほらね、どうやったって、注文通りの手抜きマンションは建てられないですよ。他の設計士に頼んでも同じですよ」と彼は言うつもりだったのではないでしょか?

■それが、「合格」通知が届いてしまったので、彼は責任の所在が自分には無いと確信したのでしょうなあ。有ったにしても、最大で3分の1だけだ!資本力では施工主が圧倒的に強く、権力を考えれば検査会社が圧倒的だ、自分は単なる建築士でしかないのだから、万一バレても、責められるのは他の者になる理屈だ!と今でも思い込んでいるとしか思えません。試験にさえ合格すれば、後は野となれ山となれ、変な医者や変なNHK職員や、警察や役人や政治家や……「合格」「当選」さえ取れれば後はどうだって良いのですなあ。

其の五に続く

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