旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

60年も経てば、何でも忘れる 其の壱拾六

2006-01-28 22:49:52 | 歴史
■本当にスターリンという人物は面白いですなあ。何を考えているのか、本人も分からなかったのではないでしょうか?晩年は相当に危険な精神状態だったそうですが、本当はずっと前から変だったのではないでしょうか?

平沼騏一郎内閣は、昭和14年の独ソ不可侵条約に仰天して「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じ」と退陣しますが、まあ複雑だけど、怪奇ではないですよね。国内でも、見える人には見えている。宇垣一成のように……「霞ヶ関(外務省)や三宅坂(参謀本部)は青天の霹靂だったようだが、何も驚くに値せぬ。来るべきものが当然に到来しただけだ」と日記に書いている

■ここで名指しされているのが外交と陸軍の中枢だというのは大問題です。東京大学法学部と陸軍大学のエリートが、集団で大間違いをしていたという事ですぞ。松岡さんくらいの胆力と張ったりが有れば、エリート集団なんかはころりと参るのでしょうか?その松岡さんもまんまとドイツに嵌められたわけです。四国同盟のホラ話を重大機密のように耳打ちされた大島浩駐ドイツ大使や松岡さんは、有頂天になったようです。ここでも、冷静に情勢を見ていた人物は一人だけだったようです。


『昭和天皇独白録』で、「松岡は(昭和16年)2月の末にドイツに向い4月に帰って来たが、それからは別人の様に非常なドイツびいきになった、恐らくはヒトラーに買収でもされたのではないかと思われる」

人物を見抜く昭和天皇の眼力は大変なもののようです。古代から、天皇家は情報と文化の力だけで生き残ってきたお家柄ですからなあ。常に勝ち馬に乗っていないと、天下大乱になってしまうのですから、天皇家の教育システムには要注意ですぞ。


ゾルゲ事件について、戦後、GHQ特にG2(参謀第二部)のウィロビーらが徹底的に調査しています。当時国民党が支配していた上海にも調査団を送った。おそらくゾルゲはアメリカの情報源でもあったからです。

■篠田正浩監督が最後の作品として撮った『スパイ・ゾルゲ』でも上海は重要な場所として登場しましたなあ。スメドレーなどという懐かしい女性も出て来たりして……。


ドイツ側にも日本の情報を与えた三重スパイの可能性があります。イギリスの研究者によると、ゾルゲがドイツ大使館にあれほど食い込めたのは、日本政府の極秘情報をドイツに持って来るからだと指摘しています。野坂参三もそうですが、1930年代から大戦にいたるまでは、忠誠心のありかが全く不明なスパイが暗躍した時代ですから、珍しくはありませんが、アメリカがゾルゲ事件を戦後追及したのは、ソ連情報を取りたいのと同時に、ドイツやソ連がどこまで連合国の情報網に食い込んでいたかを検証したかったからだと思います。ドイツの対日情報力、宣伝工作は大変なものがあった。

話がこういう所に入って来ると素人の手に負えなくなりますが、プロはそんな弱音を吐いては行けません。憲法9条が有ろうと無かろうと、情報戦から撤退したら国家は死生を制せられます。今の日本は相当に制せられているそうなので心配です。佐藤優さんの本などを読むと、頑張っている外務官僚も居るらしいのですが……


昭和13年10月7日に、対ソ情報交換及び謀略に関する日独両国軍部のとりきめが正式に調印されています。ドイツ国防軍最高司令官カイテルと大島浩の間で調印された軍事協定は、日独がソ連軍及びソ連邦に対する防衛工作を協力して行なう事を定めていますね。

こんな「取り決め」など知りませんでしたが、大島浩さんは戦後、自分の情報戦での大失敗を認めて謹慎生活をしたそうですから、日本は弄ばれただけだったのでしょう。中野学校のスパイを演じた市川雷蔵が泣いてますぞ。

偽装が多過ぎる日本

2006-01-28 16:00:03 | 社会問題・事件


■建設業界の耐震性偽装問題がまだまだ根深いらしいとの思いが強まる中で、ホリエモンの株価吊り上げ仕事に決算書の粉飾=偽装の疑いが出て来ました。会計監査会社の中にはトンデモない偽装屋がうじゃうじゃしているんじゃないか?とこの数年の間に大小の事件が報道されていたので、監査会社が抱きこまれていたと聞いても、さほど驚きもしない、日本は実に変な資本主義の国になっていますなあ。あちこちで公表されている数値がウソばかりだったら、株式投資をしている人達は、一体、どんな情報を頼りにして売買をしているのでしょう?就職活動の学生達は『会社四季報』などという本を買って熱心に慣れない数字を解読しようとしているのではないのでしょうか?

■どこに出ている情報が正しいのか?耐震偽装事件では、民間調査会社だけでなく、公的機関も見事に騙されてしまいましたし、ホリエモン事件ではマスコミ各種ばかりか、自民党執行部までもがペテンに引っ掛かって大恥をかいてしまいましたぞ!どちらも情報でメシを食べている人達の集まりでしょう?どちらの問題に関しても、必ず出て来るのが、「根本は教育問題だ」という指摘です。では、その現場は信頼できるのか?と思っていたら、トンデモないニュースが飛び込んできました。以下、毎日新聞の記事からの引用です。


教科書通りに答えると、不正解になる――今年の大学入試センター試験で、英語リスニングテストに続きミスが明らかになった。文部科学省の27日の発表によれば、実教出版(東京都千代田区)の政治・経済の高校教科書に掲載されていたグラフに誤りがあった。類似したグラフが今年の大学入試センター試験で出題され、受験生が同社に問い合わせて判明した。この教科書で学んだ受験生が不利益を被った可能性があるが、センターは「問題と答え自体に誤りはない」などと救済措置は取らない方針だ。。

■国民の教育を支えるのは学校制度です。そこで教える内容を支えているのが教科書です。それを生徒に理解させるのが授業で、記憶の定着具合を見るのが試験です。教科書の内容を上手に教えられるかどうか、そもそも、教科書の内容をきちんと理解しているかどうかが教師の資質の最低限を決めるものです。ろくに英語など離せない困った教師を大量に生み出しておいて、突然、「使える英語」などを思いつく文科省ですから、ちゃちなポンコツ機械をセンター試験に持ち込むぐらいの事はしそうなものですが、欠陥偽装教科書の使用を許可していたとは前代未聞ですなあ。


同省教科書課などによると、グラフは、日米英独仏のGDP(国内総生産)に占める公共投資の割合の推移を示した。実教出版が教科書に使う際、英米両国の国名を誤って逆に記載。検定でも訂正されなかった。センター試験では、5カ国のうち日米英3カ国の割合の推移を示したグラフを示し、正しい国名の組み合わせを答えさせる問題が出題された。配点は100点満点中3点。この教科書で学んだ生徒は、教科書通りに解答すると間違いとなる。

■合否が分かれるボーダー・ラインには大変な数の受験生が集まりますから、3点差は運命の分かれ道となります。


同試験後の24日に群馬県の受験生から同社に問い合わせがあり誤りが確認されたため、同社が25日に文科省に訂正申請を提出。27日付で同省が訂正を承認した。この受験生は教科書通りに答えたため、不正解となったという。同社は「教科書への信頼を傷つける結果となり深くおわび申し上げる」と謝罪。同省教科書課の山下和茂課長も「教科書の誤りで一部の受験生が正答を得られなかったとすれば申し訳なく、心からおわび申し上げる」と陳謝した。また、大学入試センターは「大変気の毒だが、救済措置は正解を答えた受験生に不利益になり、救済措置は取れない」と述べた。

■教科書の検定をしている部署とセンター試験の管理運営をしている部署が違うから、こんな寝ぼけた暴言が吐けるのでしょうが、最高責任者の文部科学大臣となれば話は別ですぞ!週明けの国会が楽しみですなあ。

 
同課などによると、この教科書は02年度の検定に合格。今年度は424校で6万6163冊が使用され、11社15冊中のシェアは12.6%で2番目に多かった。センター試験では昨年も、国語1の問題で、教科書と同一文章は避けるよう厳重チェックすることになっていたのにもかかわらず、1社の高校教科書に載っている評論文が出題されるミスがあった。

記事では、「群馬県の受験生」にしか言及していませんが、他の生徒達は何も気が付かなかったのでしょうか?何よりも不思議なのは、記事の数字を「正しい」と信じれば、問題の教科書を使っている少なくとも424人の政治経済を担当する高校教師がいる事になります。使用開始から2年経過していれば、ウソ・グラフを2回も授業で扱っている事になりますぞ!このグラフがどんなものなのか、毎日新聞では詳報しています。


…問題のグラフは、公共投資割合の高い日本と低い米国に対し、70年代後半から80年代初めにかけて公共投資の割合が一気に低下する英国の動きが特徴的だ。これは79年に労働党から保守党に政権が移り、「サッチャー革命」で小さな政府づくりが進められた経緯を物語る。

■中曾根政権の「民間活力」から、小泉政権の「官から民へ」まで、日本を大きく変えて来た流れの元になったサッチャー政権の政策を理解する大切なデータです。このグラフのイギリスとアメリカの国名を入れ替えてしまえば、イギリスにはサッチャー政権が誕生せず、アメリカのレーガン大統領が公共投資を減らしたことになります。こんなメチャクチャな話を、全国の424もの高校で平然と教えられていたのか?教室という現場にいる誰一人も、この凡ミスに気が付かなかったのか?まさか、ちょっと国際政治に詳しい生徒が「先生、このグラフは間違ってませんか?」「なに?教科書が間違っているわけがないだろ!」などというアホ丸出し授業を何処かの高校でやっていたのではなかろうか?

■学校の先生方は、笑ってしまうほど本を読まないらしいし、社会科の先生も新聞さえ読まない人が増えているとも聞きますからなあ。どんな大学生活を送り、どんな採用試験を受けているのか、よく考えてみた方が良いでしょう。


同省は「なぜこんな間違いに気づかなかったか。調査態勢を見直していきたい」と表明したが、後の祭りだ。…再び15冊の政治・経済の教科書のうち1冊しか使っていないグラフと類似したグラフが出題されるという不可解なことが起きた。同センターによると、問題に使うグラフや写真、表が教科書に出ているかどうかの確認は、問題作成者に求めていなかったという。センターは「今後はすべてを見るようにしたい」と述べ、謝罪の言葉はなかった。
毎日新聞 - 1月27日

■文部科学省では、道徳教育を強化して行くつもりなのではなかったですかな?生徒達に「自分の間違いが明らかになっても、絶対に謝ってはいけません」と教えるのですかな?そして、「世の中にはウソがいっぱいですから、教科書も信じてはいけませんよ」と教えるのですかな?

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