旅限無(りょげむ)

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書想 『金正日 朝鮮統一の日』其の弐

2005-05-29 09:45:18 | 書想(国際政治)
其の壱の続き。

■この本の著者は、米国で活動している軍事・外交評論家です。米国の有力紙にも一定の評価を受けているようですし、1995年に発表した論文はクリントン大統領が読んだという話も有ります。米国の軍事施設を実際に訪ねる一方で、北朝鮮を情報源とする太いパイプを持っているとも言われているようです。


金正日は、新羅統一説を、朝鮮民族第一主義・「恨(ハン)」の立場から否定し、高麗統一説を主張している。金正日は、新羅が唐の力を借りて高句麗と百済を滅ぼし、領土を拡大したのは反民族的行為であり、領有した版図は朝鮮の北部地域を含まない、と指摘。旧高句麗の地に渤海が成立し、渤海・新羅の南北朝時代が始まったに過ぎない、と強調している。(金正日が1960年10月29日に発表した論文『三国統一問題を再検討するについて』)
韓国の歴史学者の中には、高麗統一説を主張する者がいるのも事実である。これに対し、韓国の歴代独裁者は新羅統一説を唱えたが、それは外勢アメリカの保護国という立場を正当化するものであった。


■本屋で何気無く立ち読みしていて、この一節が目に飛び込んで来た瞬間に購入を決めました。こんな大切な話を、それまでに聞いたことも読んだこともなかったからです。世界中が否応も無く近代化の流れに乗って「国民国家」を建国しなければならない歴史状況の中で、古代の民族国家は最も重要な歴史的基盤となります。歴史の教養を持たない国民が増えると国家は間違いなく衰退して、維持しなければならない歴史的境界線を意識しないまま領土を侵蝕されて、やがて滅亡します。ここで問題となっている古代朝鮮民族国家の始まりは、日本にとっても他人事ではないのです。

■新羅(57~935)が最初の統一国家だとすると、それは668年のことになり、領土は平壌を流れる大同江から南となって、高句麗・満洲を含まないので、現在の北朝鮮のほとんども捨てられてしまいます。唐の支配を受けた新羅の統一事業は、白村江で大和朝廷の軍隊を大敗させたことで達成されたのです。もしも、高麗(918~1392)を最初の統一国家とすれば、新羅を降伏させた936年がその時ということになります。日本は平将門と藤原純友が暴れた承平・天慶の乱の頃です。京の都には920年に最後の渤海使が来ましたし、929年には新羅が使いをよこして、困ったことに「朝貢してくれ」と言ったそうです。素直に「助けて下さい」と言えば良かったのに、民族性なのでしょうなあ。勿論、日本の朝廷は拒否して追い返してしまいました。チャイナは五代十国の大動乱で、かつての唐のような力は無いので、孤立無援となった新羅は高麗に降りました。

■この二つの古代史の節目をよくよく考えると、今の東アジア情勢と重なって見えて来ませんか?

其の参に続く。
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2 コメント

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歴史は常に繰り返す ですね。 (toriyaです。)
2005-05-30 04:10:29
 私のおじが、先日こう言っておりました。「人間の頭は5000年前と何も変わらないんだ。変わって見えるのは、歴史と技術が積み重なっただけなんだ。」とてもありがたいお話でした。徹夜の私にも、よくわかりました。

 近頃のご調子はいかがですか?

 ご復帰、首を長くしてお待ちしておりますので、ご無理なさいませんようお願い申し上げます。

 あなたお一人のお体と想われてはなりません。

 留守番係様のおかげで、いつも教科書を拝見出来て幸せです。お礼を申し上げます。

文法の使い方、これでよかったでしょうか。(笑)

 失礼します。いつもありがとうございます。

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toriyaさんへ (旅限無の留守番係)
2005-05-30 12:44:53
いつもご愛読頂き真に有難う御座います。また、留守番係の私にまでお気遣い頂き恐れいります。旅限無はすっかり良くなったのですが、只今インターネットの使えない遠方に居りまして、

こうして私が記事投稿の代行をしております。皆様から頂いている有難いコメントは逐一旅限無に報告しております。もう暫くしたら人里に出てきますので(熊みたいですね)、もう少々お待ち下さい。記事の投稿は引き続き行いますので、これからも遊びにいらしてください。
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