◇ 『邪魔者』(原題:My Sister) 著者:ミッシェル・アダムズ(Michelle Adams)
訳者: 中谷友紀子 2017.9 小学館 刊
イングランドのクイーンズカレッジ病院の麻酔科医であるアイリーニ(リーニ)・ハリン
グフォードは、自分は両親にとって常に「邪魔者」だったのではないかという思いに悩まさ
れ続けてきた。
そこに姉のエレナー(エル)から母親の死を告げる電話が来た。二度と郷里など行くもの
かと思っていたが常に疎外されてきたという疑惑を解明する最後の機会かも知れないと、29
年ぶりに生家に向かう。
何故か3歳で母親の姉夫婦に預けられて両親と姉から遠ざけられていたリーニ。リーニは
腰に痛みを伴う不可解な傷を持っている。
幼いころ両親は姉妹の接触を禁じたが、エルはいつも唐突にリーニの前に現れ奇矯な振る
舞いでリーニを困惑させた。しかし頼るものとていないリーニは姉妹であるエルをつい受け
入れてしまう。
実家の家政婦や居酒屋、学校の教師などリーニの家の事情を知っているに違いない人々は
なぜか本当のことを語ろうとしない。
真実を知るはずの父親は、何かを話そうとする度にエルが現れ、ついには「お前は来るべ
きではなかった」という残酷で不可解な言葉を残し自殺を遂げてしまう。
長女のエルを差し置いて父親の遺産は家屋も含めて全てリーニに残すという遺言書があっ
た。一体エルはどんな存在なのか。
不可解な家族関係に潜む謎はリーニの懸命な聞き取りなどで次第に解きほぐされていく。
しかし突然明らかになった真相にリーニは愕然とする。
本書の主題はリーニが悩む邪魔者意識ではなくて、原題『My Sister』を見るとわかるよ
うに、エルの存在である。一連のことの起こりの発端はリーニの姉、エルにある。エルのが
すべてを支配したのである。
本書はミステリーであるが、リーニの深層心理の襞を克明になぞるような展開をたどると
一種のサイコ・スリラーでもある。
(以上この項終わり)