◇ 『零れた明日』<刑事の挑戦・一之瀬拓真>
著者:堂場瞬一 2018.4 中央公論新社 刊 (中公文庫)
一之瀬拓真シリーズ第6作目。警視庁千代田署の刑事で登場してから5年目。
当時25歳だった拓真も今や刑事部捜査一課の中堅刑事である。
愛妻深雪との間に子供が生まれる。
身重の妻を気遣う毎日の拓真は、某芸能事務所の社員が殺された事件の被疑
者に逃げられるというヘマを犯した隣の係の尻拭いを任される。生真面目な拓
真は一から事件を洗い直す。芸能事務所の社長、会長など関係者の複雑な人間
関係を洗い出していくうちに、真犯人は逃亡した被疑者ではなかったことが明
らかになった。
このシリーズの中心人物は当然のことながら一之瀬であるが、彼の同僚、上
司、家族らもそれぞれ人間像がしっかりと描かれており、スートリーだけでな
く面白く読ませる。
影の首謀者と目されるTは、任意聴取を受け、温厚なやりとりで終始していた
が、一之瀬がぎりぎり押していくとついに忍耐が切れたか「手柄を欲張ってはい
けない。月夜の晩ばかりじゃないぞ。背中に気をつけな」とすごむ。これではま
んまと拓真の術中にはまったとしか言いようがない。
しかし結局拓真はこの人物を追い込むことはできなかった。
(以上この項終わり)