読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

秋の品々を透明水彩で描く

2017年10月31日 | 水彩画

◇ 「秋物語」と称して

  
      Artenon  F6

  昨日の水彩画教室は、「秋物語」と称して秋がらみの品々を描いた。栗、柿、モミジ、カラスウリ、
  ススキ等々。ザクロなども良いが今回は登場しなかった。

  栗はもう時季外れであるが、Tさんがちゃんと栗が入ったイガを持参してくれた。珍しい。
  カラスウリはまだ青いものもあった。ゴーヤのような独特の蔓を持つ。

  ちょっと変わった編篭にカラスウリを配した構図であるが何故かしっくりこない。また紅葉し始めた
  柿の葉を適当に散らした。
  
  柿がミカンに見えないように、しっかりとヘタが見えるように描いた。

  主役がどれか判然としない。どうしたものか。

                               (以上この項終わり)

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トーン・テレヘンの『おじいさんに聞いた話』

2017年10月29日 | 水彩画

◇『おじいさんに聞いた話』(原題:De trein naarPavlovsk en Oostvoorne) 
                                       著者:トーン・テレヘン(Toon Tellegen)
                                       訳者:長山 さき

   
  オランダ生まれの医師であり作家の作品。ロシア人の祖父の記憶を語る自伝的作品集。
 39の掌編がつづられている。
  医業の傍ら詩や絵本を発表し続けてきた作者。この作品では、祖父のこと、母のこと、
 子供のころ間近で見ていた彼らの人生を、9歳ころの作者に対して祖父が語るスタイル
 で綴っている。しかし実は作者が祖父から直接聞いた話は一つもないという。母から間
 接的に聞いた話もあるが、大半は「自分が祖父から聞くことができたかもしれない話」
 になっているのだという。

  それにしても話は脈絡がないというか十割そばのようにぶつぶつ切れたエピソードの
 ようなものが大半であるが、祖父が育った革命前のロシア・サンクトペテルブルクの様
 子や国民みんなが詩人だという(これはどこかで読んだ不確かな情報)ロシア人だけに、
 一風変わった価値観や表現ぶりが満載で、まさに不思議な時代の、不思議な国の、不思
 議な人たちの物語である。

  祖父は詩を書いていた。神や天国、死に就いての詩だ。<詩人>

  ロシア語には罪を示す言葉が11もある。と祖父は言っていた。イヌイットに雪を示す
  言葉が30もあるように。<罪>

      祖父は陰鬱な男だった。…子供の時から陰鬱で、まじめ。ふさぎがちな性質だった。
  祖父はよく死について話した。<死ぬこと>

  「まず第一に、それ(悪魔)はいないんだ」祖父は言った。「おじいちゃんの言う
  ことを信じられないんだったら、この話はしないよ」<悪魔>

   19世紀末のサンクトペテルブルクには多くの外国人医師がいた。…酔っぱらって往診
  に来るロシア人の医師のことを市民は信頼していなかった。<医師たち> 

  ロシアでは、正直に嘘をつき、残りの世界では、不正直に真実を話す。<裸の皇帝> 

  祖父は歳を取っていた。長く白い髭をたくわえ、タバコのにおいがした。杖を突いて歩
  き、いつでも黒い服を着ていた。食事をよくこぼした。
   でも、祖父には飛ぶことができたのだ。戸棚の中の段ボール箱に二枚の翼がきちんと
  たたまれていた。

  祖父は僕が13歳の時に死んだ。<翼> 

  葬儀の後みんなが陽気にハムとチーズのサンドイッチを食べ、伯父の話に笑った。祖母
  は何も言わず、誰の話も聞かず、誰の方も見ていなかった。
  僕もサンドイッチを食べ、伯父の話に笑った。祖母の両手は膝の上に置かれたままで、
  誰も見ていなかった。
  ぼくは自分を恥じた。

  ぼくは家の裏庭に立ち、アウディ・ライン運河の前に立っていた。亡くなったおじいさ
  んが隣に立っている気がした。
  「この河の名前を知っているか?」と訊いた。
  「ネヴァ河だと思う」僕は目を開けて祖父を見た。祖父はうなずいて、ぼくの髪をなで、
  そしていなくなった。
  僕は振り向いた。母がぼくを呼んでいた。
  ぼくたちは家に帰っていった。 

  何と詩情豊かな一文ではないか。

  <フェーデ>という短編もいい。

  この本は大人のメルヘンといってよいのではなかろうか。

                                (以上この項終わり)

 

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文善の『逆向誘拐』

2017年10月25日 | 読書

◇『逆向誘拐』 著者: 文善(BUNZEN)
           訳者: 稲村 文吾   2017.8 文芸春秋社 刊

  

     台湾の作家の作品を読むのは初めてである。
  本作は第3回「島田庄司推理小説賞」受賞作である。同賞は中国語で書かれた未発表の
 本格ミステリー長篇を募る文学賞で2009年に台湾で創設された。

  IT全盛の時代にあって、本格と非本格を問わず推理小説の世界でここまで本格的にテー
 マをITに絞って推理小説を仕立てたのは初めてであまり知らない。
  作者は香港生まれ。中国返還前にカナダに移住、ウォータールー大学で会計学修士課程
 を修了し公認会計士、公認ビジネス評価士として勤務しているという。

  本書のテーマは某企業の財務資料の「誘拐」。データファイルの身代金を要求してきた。
 警察が介入し捜査が始まるが新手の犯罪であり捜査は難航する。

  主人公の植嶝人(しょうくとうじん)は国際投資銀行A&Bの情報システム部に所属してい
 る。大財閥の子息ではあるが働いている。
  A&Bの大口の顧客クインタスが資金手当てで投資者を探している。A&Bではジョンが中心
 になって5人のアドバイザリーグループで来週の金曜日までに同社の資金調達計画を作成し
 なければならないことになっている。
  
  ところがK・キッドナッパーという差出人からジョンにメールが届いた。
 「クインタスの資金調達計画資料を誘拐した。10万ドルを払え。今後定時に提示する指示に
 従わないと金曜日のマーケット取引終了前にこの資料を公開する」
 
  ジョンは高校時代の友人唐輔(市警警部)に相談する。またA&Bでは唯一情報系専門職の
 植嶝人にも犯人捜査に協力要請がされた。
  クインタスの研究開発資金調達プログラムは極秘情報でジョンのグループ以外はこのファ
 イルを知らない。これを誘拐するということは内部に犯人あるいは犯人グループがいるはず
 でスタッフは隔離され、人物背景をはじめパソコン、携帯などが徹底的に調べられる。唐輔
 警部は当初植嶝人をも疑う。
  5人の内ジュニアアナリストの2人、華人石小儒と日系人マキノが最も怪しい。しかし証拠
 もなく挙動もやや不審なだけで決定打に欠ける。唐輔は情報系に弱く、植嶝人の助けを借り
 ながら証拠集めに動く。

 
   そうこうしているうちに10万ドルはネットオークションのマーケットで、ある商品を購入
 し、Kポイントという仮想通貨で代価を振り込むことなどを指示され、ジョンと唐輔らは右
 往左往することになる。

  結局事件が収まったのち植嶝人が謎解きをするのであるが、局外者であった植嶝人が当事
 者になるという意外な結末になる。
  本格推理小説ということで緻密な構成が求められるが、ある程度情報系の知識がないとす
 らすら理解はできないかもしれないが結構楽しめた。特に終盤のトリックはお見事。

                                (以上この項終わり)

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柚木麻子の『BUTTER』

2017年10月16日 | 読書

◇『BUTTER』 著者: 柚木 麻子  2017.3 新潮社 刊

  

   第157回直木賞候補作品。獄中の結婚詐欺師にして殺人罪に問われているカジマナ
(梶井真奈子)に取材を重ねているうちにどんどん変わっていく自分にたじろぐ男性
週刊誌の記者町田里香。

 3人の不審死で殺人罪に問われたカジマナの取材を思い立った里香は、親友の伶子
に「料理好きの結婚詐欺師」と呼ばれていたカジマナには料理レシピを切り口に迫っ
たほうが良いとアドバイスを受け、見事面会に成功する。被害男性ととった食事など
を通じて彼女の人となり、殺人の動機などを探ろうとするが、ガードは固い。

 自ら求める美食が得られないカジマナは、かつて楽しんだ料理を里香に味わっても
らいその感想を聞くことで次第に両者は打ち解けていく。また里香自身次第に料理の
楽しさに目覚めていく。

 ついに里香は独占インタビュー応諾にこぎつけた。カジマナの母親、妹、同級生な
ど関係者との面会も勧められて、伶子と共にその郷里新潟の阿賀野に取材に赴く。

 その連載記事は大反響をもたらした。しかしことは一転する。獄中ながら新しい男
性崇拝者を見つけたカジマナは獄中結婚し、「里香は私に歪んだ感情を抱いて取り入
ってきた」と独占インタビュー記事を否定し、獄中結婚の相手が第二の独占インタビ
ュー記事を書き、さらに自叙伝を執筆を発表するなど里香はまんまと彼女に裏切られ
る。会社も長期休暇を取らされ失意のうちに引きこもりになる。

 しかし料理の楽しさを知った里香は変わった。友人の伶子や同僚などの助けで、カ
ジマナが挑戦しながらもとうとう実現しなかった本物の七面鳥料理を作り、これまで
自分を支えてくれた人たちと分かち合う。 

 2007年当時首都圏連続不審死事件と呼ばれた事件があった。本作はその事件の被告
人木島佳苗がモデルと思われる。バターに異常なほど執着するカジマナの勧めで、作
中いろんな料理やケーキなどのレシピが紹介され、主人公里香を通じてその味わいを
楽しむことができる。

 サイドストーリーとして親友である伶子の不安定な夫婦関係が語られる。終盤伶子
の突然の不可解な失踪が単なる夫からの逃避ではなく、カジマナの不審な殺人事件の
真相に迫るのではという期待を持たされたりしたが、結局は夫婦関係の改善がもたら
されただけという思わせぶりな話になってしまった。いずれにしても女性らしい感性
が発揮されていて楽しく読んだ。
                            (以上この項終わり)

 

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磐梯吾妻スカイラインの紅葉と秘湯の旅

2017年10月12日 | 山歩き

◇ 福島と山形の秘湯と吾妻小富士
  久しぶりに舎弟夫婦と2泊3日の温泉旅。秘湯とちょっとした山歩きというの当方の
 リクエストに応えてくれたのが福島県(福島市)の秘湯・新野地(しんのぢ)温泉、
 山形県(米沢市)の秘湯・滑川(なめがわ)温泉と姥湯(うばゆ)温泉。2日目には
 浄土平の湿原と吾妻小富士散策というオプションがある豪華版である。

  10月初旬ではまだ外界では紅葉は始まっていない。郡山駅でピックアップしても
 らって岳温泉、土湯温泉などの標識を横目でにらみながら進むと次第に紅葉の雰囲気
 が出てきて、秘湯を守る会の宿、新野地温泉・相模屋に到着した。ここはすぐ手前に
 野地温泉ホテルという少し現代的な宿があるが、ここは人気があるが秘湯の会員では
 ない。

              

   

  内湯もよいがやはり露天風呂が良い。ススキを分けて進む木道の先に湯けむりを
 上げる湯舟がある。白濁の硫黄泉でもちろん加水もない源泉かけ流しである。
  食事は部屋食で、イワナの塩焼きや鯉のアライなど山の宿らしい献立がうれしい。


  翌日は磐梯吾妻スカイラインに入る。標高が上がるに従ってどんどん紅葉の鮮度が
 高まり、浄土平入口・兎平辺りでは感嘆の声を上げ通しであった。

              

  太陽が顔を出したのでまずは吾妻小富士を登る。距離は短いが登山道階段の丸太が不揃い
 だったりして足場はあまりよくない。今日の頂上は風が強く噴火口に吹き飛ばされそうにな
 る。一周40分位の楽勝コースなのだが、みな周回をあきらめて戻ってくる。

            

            

  仕方なく冬枯れが始まっている浄土平湿原を散策し次の姥湯温泉と滑川温泉に向か
 う。下り道ではあるが高湯温泉、信夫温泉まではまさに羊腸の道。紅葉のすばらしさ
 に目を取られていたら危うく谷底に転落しかねない。
  
  途中にある「つばくろ谷」に架かる不動沢橋周辺の景観は素晴らしく、連休明けの
 平日にもかかわらず紅葉を愛でる車・人で賑わっている。つまり駐車の余地がない。

              

     

  かつて訪れた高湯温泉・玉子湯を横目でにらみ、信夫温泉を通過しフルーツライン
 を走る。途中のリンゴ畑でたまらず陽光というリンゴを買い求めトンネル前の駐車ス
 ペースで昼食。山屋の弟は山用のガスボンベでスープをつくり、コーヒーを立て、パ
 ンとリンゴというあっさり系の昼食を済ませて出発。

  道は奥羽線(山形新幹線)を越えてどんどん標高を上げる。ここも羊腸。車の交換
 もままならない細い道である。この先の姥湯、滑川温泉の客は峠駅から送迎を受ける
 ことはできるが、徒歩では270分(5時間弱)かかるという難路である。まだ2時なの
 に木立の中はうす暗く、対向車のためにライトをつけなければならない。  

  まずは最奥の姥湯温泉・桝形屋。大日岳と薬師岳との谷間に一軒だけある温泉宿。
 我々は日帰りの訪問客で600円。一番大きな露天風呂は混浴で、峩々たる山容の岩壁
 が迫る。巨岩のごろごろする急な渓流のそばで白濁の湯に浸かる爽快さは他にはない。
 女性用の露天もあるが眺望に欠けるらしい。普通の感覚では、裸身を男性の視線にさ
 らすなど、とても堪えられない女性は、眺望とは引き換えに出来ないと思うかもしれ
 ないが、山女やこんな苦労をしてまで山奥の秘湯を訪れる女性は、普通の女性の感覚
 を超越していると思うので、男性の淫らがましい視線など歯牙にもかけず堂々と立ち
 向かって欲しい(が、わが妻などはやはりしり込みした)。

         

  さて、3時半ころ、また滑川温泉に戻る。ここも露天風呂は混浴であるが、宿から40
 mくらい離れた川縁にある。群馬県の宝川温泉もそうであるが、川縁の露天風呂もなか
 なか良い。朝は言った内湯はやはり白濁であるが、夜は言った時よりも白濁度が低く幾
 分透き通っていた。姥湯なども一日で何度の色は変わるらしい。

    

  一夜明けて一路福島経由郡山駅へ。途中奥羽本線で山形新幹線の途中駅「峠駅」に
 寄った。その昔奥羽街道の難所の一つ<板谷峠>。今は無人駅であるが何とも異様な駅舎で
 ある。急こう配でかつてはこの前後4つの駅はスイッチバックで登ったという。積雪対策に
 しては大げさすぎるようだがスイッチバク時代の名残らしい。新幹線が通ることになって
 新駅を設けたらしい(1日6本)。旧駅の前の店で名物「力餅」を売っていたので買い求め
 みんなで食した。

            

           

  最後は福島のさるJA野菜市場で「十割そば」で昼食をしたため、季節遅れの桃などを
 買って今回の秘湯の旅を締めた。
                              (以上この項終わり)

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