◇ 『モンテ・クリスト伯(三)』(原題:Le Conte de Monte Cristo)
著者: アレクサンドル・デユマ (Alexandre Duma)
訳者: 山内 義雄 1956.3 岩波書店 刊
いまはモンテ・クリスト伯と称するエドモン・ダンテスはフランツとアルベール
という二人の青年貴族を手厚く遇し、正義と復讐の実現及び刑罰のもつ意義と性質
などについて持論を展開し、やや強引にパロマ広場における2件の斬殺処刑見物を
共にする。
ローマの貴族社会におけるクリスト伯に対する感触といえば、出自が判然としな
いことや冷酷そうな風貌から「気味悪い」印象のようだ。
ポポロ広場・ベネティア広場での謝肉祭の様子が生き生きと語られる。フランツ
は女性と姿を消したアルベールから山賊に捕われた、4千ピアストルという誘拐の
身代金を工面してくれという手紙を受けとる。フランツはクリスト伯の手を借りて
アルベールを救出する。山賊の首領ルイジ・ヴァンパはクリスト伯に借りがあった。
クリスト伯は「パリにはまだ行ったことがない。近々出かけるので社交界に紹介
してくれ」とアルベールに頼む。
3か月後パリを訪れたクリスト伯は各界の名士に紹介され紳士らしい立ち居振る
舞いで多くの人に感銘を与える。
クリスト伯はパリのシャンゼリゼ―に住まいを定める。何とそこはかつて自分を
牢獄に送り込んだヴィルフォールの元屋敷だった。
クリスト伯にはベルツッチオという家令がいる。殺人の容疑をかけられた彼を救
い出し家令として雇ったのである。
ヴェルツッチオの語るには、密輸入の仕事でトラブった折に、逃げ込んだ仲間の
家の天井裏から殺人現場を目撃、その場で官憲につかまっってしまった。仲間の家
というのがクリスト伯が御礼にダイアモンドを上げたカドルッスの宿屋だった。
カドルッスは貰ったダイアを地廻りの宝石商に売ることにしたが、妻にそそのか
されて宝石商を殺してしまい、合わせて妻も殺してしまったのである。カドルッス
は逃亡したが最後は捕まった。ベルツッチオは巻添えを食らって捕まったが、カド
ルッスが司祭様からもらったダイヤだという話が裏付けられて釈放された。その司
祭(実はクリスト伯)の口添えでクリスト伯に雇われることになったのである。
さらにベルツッチオが語るには、兄はナポレオン軍の軍人だったが、復員の途中
何者かに殺された。ベルツッチオはヴィルフォールという新任検事にせめて遺族の
義姉に遺族年金が払われるように計らってもらいたいと訴えたが、「革命に災難は
つきものだよ」と突き放された。冷たく切って捨てるヴィルフォールに仇討を誓っ
たベルツッチオは機会を窺いある夜この屋敷でヴィルフォールを刺殺したのである。
しかしクリスト伯は「ヴィルフォールは死んでいないかもしれないよ」と言った。
クリスト伯は十分に図って今は検事総長となっているヴィルフォールの年若い後
妻とその息子が乗った馬車を暴走させ、クリスト伯の御者アリにこれを助けさせる
ことによってヴィルフォール家とのつながりを作り出した。
ヴィルフォールは妻子を助けてくれたクリスト伯に御礼に屋敷を訪れたが、かつ
てのエドモン・ダンテスとは全く気付かなかった。
モンテ・クリスト伯の復讐の網はだんだん絞り込まれていったのである。
(以上この項終わり)