読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

『スコールの夜』を読む

2014年05月29日 | 読書

◇ 『スコールの夜』 著者:芦崎 笙 2014.2日経新聞社 刊
 
  

 2013年第5回日経小説大賞受賞作品。
 現役の財務省キャリアの作品が受賞し注目を集めた。
 日経小説大賞では2011年第3回受賞作品「野いばら」(梶村啓二)にはいたく感動したものだ。
  
  東大法学部を出てメガバンク帝都銀行の総合職第一期生として入行した吉沢環。総合職女
 性たちの期待の星として注目を集めている。入行10年目、吉沢環はいまや幹部候補の最短コ
 ースを歩み、関連子会社・関連会社を一手に取り仕切る関連事業室長になった。しかしそこで
 待ち構えていたのは、従業員200名を超す子会社の会社整理。社員大半の首切りを容赦なく
 進める難事業。自らの出世とやりがいのある仕事への道筋を達成するためには、心を鬼にして
 進めなければならない。大学時代の旧友石田は帝都銀行の法律顧問である大手法律事務所
 の俊英として活躍している。大学コンパで出会い男女の関係にまで至った石田とはその後交流
 を避けて来たが、大量人員整理を巡って法律顧問会社で労務担当の石田とは再び仕事上の付
 き合いが始まった
  吉沢にはもう一つのジレンマがある。現在の地位に就くためには人並み以上の努力と会社へ
 の忠誠心を高めてきた。ところが男性同僚らはもちろん会社幹部まで、あれは東大法学部出身
 の優遇、女性を幹部に就けることで会社イメージを高めるという政策的処遇のたまものである
 という評価である。こうした評価は吉沢の仕事に対するモチべ―ションをぐらつかせ、悩ませる。
  将来は政治家を目指すという石田には、カンボジア地雷除去で活躍するNPO法人で中心的役
 割を担っているという別の顔があった。今の人員整理の仕事に行き詰まった吉沢は将来役員と
 して実力を発揮したいという目標と冷酷な組織の論理の狭間で思い悩み、会社を辞めるか思い
 悩む。
  そんなある日石田の地雷除去活動キャンペーンツアーに参加した吉沢環は、普段の冷徹な
 業務処理には見られない意外な側面を目の当たりにして、もう一度自分が属する組織におい
 て死に物狂いで働いてみようと決意する。
  
  メガバンクの上層部の権力争いと、幹部候補生として試練にさらされた女子総合職の懊悩。
 綺麗ごとだけでは済まない組織とどう折り合いを付けていくのか、最終章ではやや甘いストー
 リーに終始しているが、女性幹部を育てなければならない経済界にあって女子総合職の苦闘
 は恰好のテーマではある。
  さて、現職のキャリア官僚が果たして二足のわらじを履いていけるか。

 (以上この項終わり)
  

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今年の母の日・父の日プレゼント

2014年05月23日 | その他

今年の母の日・父の日プレゼントは嗜好品
  娘の家族は連休に天橋立にキャンプに出掛けたとかで、彼の地の地ワインと地酒を
 送ってきた。われわれの嗜好品はアルコールだと弁えているから。
  母の日用に買って、ついでに手っ取り早く父の日プレゼントもそこでと「地酒」。やや
 安直な扱いを受けたという感じがしなくもないが、いろんな地酒を飲んでみるのもまた
 楽しいことで、・・・ま、いいか。
  
 「天橋立ワイン(赤)」、「ナイヤガラ(白)」と「キャンベルアーリ(ロゼ)」。
 いずれも加熱処理をしていない生ワイン(生葡萄酒)フレッシュないかにも若い感じであ
 るが、一般向けに飲みやすいワイン。

     

   一方、地酒の方はというと京丹後(今の京都府)の酒蔵産ワンパックの詰め合わせ。
  「弥榮」(竹野酒造)、「久美の浦」(熊野酒造)、「玉川」(木下酒造)、「丹後」(白杉酒造)、
  「白木久」(白杉酒造)。

   醸造用アルコールでアルコール分16%に調整した、ま、普通の缶酒ですな。
  それぞれ若干特徴らしいものがあるものの、これはうまいから取り寄せてというほどの
  感動は生まれなかった。

   父の日と言わず、どこか遠くへ行った折にこのようなセットがあったらば、迷わずに送
  ってもらえると大変うれしい(ありがたい)。

    

                                   (以上この項終わり)

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笹本稜平の『その峰の彼方』を読む

2014年05月16日 | 読書

◇ 『その峰の彼方』  著者: 笹本稜平  文芸春秋社 2014.1 刊

   

  笹本稜平の作品といえば、大抵警察ものしか読んでいなかった。で、家人が図書館で借りてきた
 山岳小説を読んで驚いた。本格的な山の小説で、改めて調べてみると、『未踏峰』、『天空の回廊』、
 『還るべき場所』、『春を背負って』など何冊もの山岳小説を世に出しているのがわかった。
 ここまで迫真の登攀ぶりを書けるということは本人も相当な山男ではないかと疑うが、本人インタビ
 ューによれば八ヶ岳とか北アルプスに登った程度で、とりたてて海外の高い山を踏んでいるわけで
 もないらしい。 
    でもペンネームに稜平などと付けるところを見ると、山が好きなことは間違いない。

  舞台はアメリカの最高峰アラスカ州の「マッキンリー」。標高6168mと、ヒマラヤの山々に比べ高さ
 には負けるものの、比高は5,500mとヒマラヤの3700mを凌ぎ、登攀の難しさでは引けを取らない。
  主人公の津田とその友人吉沢は、大学山岳部以来の山仲間で、ヒマラヤを初め常に行動をともに
 してきた。津田はやがてアラスカに渡り、マッキンリーの魅力の虜になる。山岳ガイドなどを仕事とし
 ながら難関ルートの登攀を続け、地元アメリカ・インディアンの社会にとけ込み、長老ハロルドなどと
 信頼関係を築く。
  今は大学で氷雪学を研究している吉沢は、そんな津田からマッキンリーの最難関カシンリッジルー
 トの冬期登攀を誘われる。このころ津田は結婚した祥子とともにホテル建設のプランを持ち、すでに
 山岳部先輩の高木の支援を受け実現に動き出していた。吉沢はこの誘いを断る。自分が断ればこ
 のような大事な時期に、危険なルートの登攀はあきらめるだろうと思ったのである。
  ところが、ある日津田の妻祥子から夫が突然カシンリッジの登攀に向かったと知らされる。そしてす
 でに1週間になるのに連絡が取れないというのだ。この最難関のカシンリッジ冬期単独登攀はいま
 だかつて誰も成功したことがない。すわ遭難か。

  本格山岳小説と位置付けられるだけに、492ページの3/4は冬期カシンリッジを単独登攀する津田
 と、その救助に向かった吉本を初め、地元ガイドのチームの息詰まるクライミング描写が続き、苦闘の
 記録が占めている。実際冬山の岩場を登った人であれば場面が鮮明に想像できるであろうが、われ
 等がごとき素人の想像力ではおぼろげにしか想像できない。しかし壮絶な帰還行、救助行であること
 は間違いない。
  最後には州軍のヘリの出動になるのであるが、飛行高度の限界を越える飛行とホバリング技術で救
 助に成功する。しかし、津田は途中で低体温症に陥り、脚の骨折、手の凍傷で死の直前で救助隊に救
 われ、人工呼吸などの手当てで命拾いをする。

*低体温症=寒暖の知覚異常を起こし、氷点下でも熱いと感じて、つぎつぎと衣類を脱ぎ捨て、やがて
  幻覚・錯乱・などの意識障害、凍傷、多臓器不全、心肺停止に至る。

  津田は身体的には低体温症を脱したものの、意識は回復せず、一時的(2H)に意識を回復させる
 投薬(ゾルデピム)を投与されて、祥子や吉沢・高木と対話するところまで回復する。

  さて、なぜ山男は(女性もいるか)は一歩間違えば命を失う危険承知で山に(特に冬山)登ろうとす
 るのだろうか。津田のように新しい命が妻の身体に宿り、アメリカ・インディアンの経済的自立のために
 進めているホテル建設が、まさに事業着手しようかという時期に、なぜリスクを冒し厳冬期単独登攀を
 めざすのか。
  作者は「津田を通して山に登る意味を問いたかった」と語る。縷々語るのであるがいくら問い詰めても
 普遍的な解は得られないかもしれない。当人にも説明し切れない何かがあるのだろう。問題は実際危
 険に遭遇した時に「山で死ねれば本望」などと手前勝手なことを言っても、蔭でどれほどの関係者が
 泣くことになるのかに思いを致せば、征服慾とか名誉欲とか生きることの意味を見出したいとかいった
 個人的欲求は、どこかで折り合いをつけなければ、単なる駄々っ子としか言えなくなるのではないだろ
 うか。
  ただ津田の考えは、以下のくだりが多分手掛かりにはなるだろう。
 「自分の人生に意味を与えられるのは自分だけだ。自分で輝かせようとしない限り、人は生まれて生き
 て死ぬだけの、意味のないものになる」

  危機的状況に陥り生死の境を渉る津田に、誰かが耳元で採るべき行動を囁く。いわゆる「サードマン
 現象」で、心理学上の超自我状況というものである。混濁する意識の中でサードマンらしきものと交わ
 される対話が印象的だった。 
 
  家人は「モデルは誰だろう」と訝っていたが、多分主人公の津田はマッキンリー冬期単独登攀で行方
 不明となった冒険家植村直己がモデルと思われる。
  なお本作品の初出は別冊文芸春秋299号(2012.5)~307号(2013.9)

  (以上この項終わり)

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庭のジャーマンアイリスを描く

2014年05月13日 | 水彩画

えんじ色のジャーマンアイリス

   
      CLESTER F8

  毎年今頃花を開く庭のジャーマンアイリス。7~8本あるが、一本の茎に4個ほどの花が咲く。
 花の命は短くて、朝咲いて夕べにはもう満開、翌日には凋落の一途というあわただしさ。
 絵を描くには根を詰めて、素早く描かないと刻一刻と形を変えるので油断できない。
 ちりめん皺の花弁は儚くて、風にそよぎ、すぐに形を変えてしまう。
 外花被片のえんじ色の部分がなかなかいい色なのだが、うまく色を出せなくて苦労した。

  アイリスの株の下は蕗が群生していて、アイリスの葉との対比で幾分濃いめに色を
 付けた。 

  背景色はまたもブルー系になったが、どこかに花の色を取り込んだ方が良かったかも
 しれない。

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連休明けの畑の作物

2014年05月12日 | 畑の作物

◇ 主要作物の作付完了
  家族期待のトマト、落花生、ジャガイモなど我が畑の主要作物はこの連休前後で大体
 作付が終わった。
  庭の一角を割り当てた一坪畑にも申し訳程度にきゅうり、トマト、ブロッコリーが植わっ
 ている。
  あと待っているのはインゲンや舎弟から届いている枝豆。

  <落花生>
  一晩ぬるま湯に付けて発芽をしやすくして二粒ずつ蒔いた。
  たっぷり水を遣って防鳥用にネットを掛けて、あとは発芽を待つだけ。

   

  <トマト>

   必須の「桃太郎(大玉)」と「フルーツトマト(中玉)」

    

  <絹サヤエンドウ豆>

  収穫期。毎朝採らないとすぐに筋の多い豆になってしまう。採り忘れは必ずある。それはグリンピースになる。

        

  <ジャガイモ>

   そろそろ2回目の土寄せの時期。たまに花が咲く。

  


  <庭の作物>

    


        

                                                    (以上この項終わり)

  

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