読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

春の香り姫筍とこしゃぶら

2016年04月28日 | その他

◇ 魚沼の姫筍、こしゃぶら、わらび
  越後・魚沼の住人舎弟のSから山菜が送られて来た。今年2度目。
  彼は先週桜前線を追いかけるように青森、秋田、岩手と回り、岩木山、八甲田山を
 はじめ嶽温泉、谷地温泉、酸ケ湯温泉、いくつかの温泉を回って来たらしい。

  

  20年ほど前は近くの須原スキー場にSが友人と共同で持っているロッジに泊まって、
 スキー場のスロ-プ際で、太くて紫の肌のわらびを、両手に提げた袋一杯に採ったも
 のだが、すっかり様相が違って、なかなかとれないらしい。そのうちぜんまい並みの貴
 重品になるのかもしれない。これはもちろん削り節をかけてポン酢でおひたしに。更に
 旬の筍と庭に出て来た蕗との炊き合わせ。

  

  姫たけは山でないと取れない貴重品。えぐみがないのでそのままみそしるに。上品な
 香りで春の息吹きが感じられる。  

  

  そしてこしゃぶら。いまや貴重品でなかなか手に入らない。タラの芽を山菜の王という
 が、こしゃぶらはまさに山菜の女王。さっそく天ぷらで夕べの食卓に載る。ぬる燗の日本
 酒を酌み、古社ブラの天ぷらを口に目を閉じれば、山里の雑木林や山稜の木立に膨ら
 みを見せるこしゃぶらがが目に浮かんでくる。山稜の上はまだ雪が残り、山桜やこぶし
 が咲いていたりする。今日は招宴の一品に「こしゃぶらのごまみそ和え」を作ろう。

 (以上この項終わり)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

またも薬丸 岳 『誓約』

2016年04月24日 | 読書

◇ 『誓約』 著者:薬丸 岳  2015.3 幻冬舎 刊

  

  「あの男は刑務所から出ています」
  妻と娘と穏やかな日々を送っている一人の男の下に一通の手紙が届いた。
  ただ一行の、それだけの文言に男はおののく。
  男には決して明かしてはならない暗い過去がある。そして今、まだ果たしていない重い約束が
  胸の底から顔を出してきた。

  この本のテーマは「天使のナイフ」と同様、犯罪被害者側からの復讐劇である。

  向井聡43歳。「ヒース」というレストラン・バーの共同経営者である。店を開いてから15年になる。
  パートナーは菊池という同年代のシェフ、公平とめぐみというアルバイトを使っている。
  今は妻の香とのあいだに娘の帆花を得て幸せな生活を送っているが、前身は高藤文也。戸籍を
  偽り他人に成りすましている。
   聡は親に捨てられた孤児で、生まれつき顔の半分が痣に覆われていたために施設でも学校で
  も苛められた。そのためひねくれて、盗みや傷害事件を重ね、ついに暴力団組員を傷つけ追わ
  れる身になった。ついに逃げ切れないと覚悟し、跨線橋で自殺を覚悟したところを「坂本伸子」と
  いう老女に助けられる。
   癌で余命幾ばくもないという伸子は、痣の手術や逃走資金を提供する代わりに「身代わり殺人」
  を持ちかける。
    
   早くに夫を亡くした伸子は、ある日門倉と飯山という二人の男に高2の娘由紀子を誘拐された。
  2人は10日間にわたって凌辱の限りを尽くし、なぶり殺しの挙句遺体を切り刻んで山中に捨てた。
  ところが2人は裁判の結果判決は無期懲役。裁判所の前で焼身自殺で判決の非を訴えようとした
  が、「司法があの男たちに相応の罰を与えないのなら、自分の手でそれを果たそう」と考えた。
  「私は間もなく死ぬ。あなたに代わって娘の無念を晴らして貰いたい」というのである。

   粗暴な少年時代を送ってきたものの殺人には怖気づく。しかし伸子の心が収まり安らかに死ねる
  のなら、約束してやってもいい、もし果たせなくてもその時には伸子はもういないのだから…。安易
  な気持ちで代理殺人を請け負ったのであるが…。
   それから成形手術を受け、新しい戸籍を手に入れて、向井聡として順風満帆の人生と思っていた
  のであるが、悪夢がよみがえった。伸子は死んでいないのか。

   どこで調べたのか、聡の携帯に「二人は出所した約束を果たせ」と迫る。尻込みする聡は警察に
  駆けこもうとも思うが、旧悪の露見を考えればそれもできず、何とか伸子を捜し出そうと駆けまわる。
  必死の追跡行、 門倉と飯山の所在を突き止め殺せるのか。そのうち意外なことに門倉が殺される。
  一体誰が殺したのか。凶器には聡の指紋が残されていて聡は殺人容疑者として警察に追われる身
  に。
   最後の30ページで盛り上がる。意外な犯人とその過去。巧みなプロットと構成の妙に感心する。
  ちょっとありそうもないけれども、もしかしてありかもというすれすれ微妙なところがいい。

   (以上この項終わり)   

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

テーマは「旅への予感」

2016年04月23日 | 水彩画

◇ 旅行グッズを描く

  
   Clester F6

  このところテーマを設定し各自がこれはという品物を持ち寄って描くことが多い。
 今回は「旅行グッズ」。昨年は帽子、バッグのほか時刻表の冊子、カメラ、スカーフなど
 が対象になった。
  布、皮、金属、ガラス等々材質がさまざまなので、質感の特徴をとらえて描くのが肝要
 である。
  左上のフラスクは錫性であるがこの絵では材質まで表せていない。しかし酒をたしな
 む旅人必携の品なので入れた。
  双眼鏡はまるで競馬場か野鳥観察に持って行くような大仰なものであるが、絵の対象
 としては恰好な大きさである。
  さて旅への予感が生まれたかどうか。

                                                              (以上この項終わり)

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

薬丸 岳の『天使のナイフ』

2016年04月18日 | 読書

◇『天使のナイフ』著者:薬丸 岳  2008.8 講談社 刊 (講談社文庫)

  

  薬丸岳の作品を読むのはこれが初めて。本書は2005年に第51回江戸川乱歩賞を受賞し
 た作品である。
  テーマは少年犯罪とその被害者救済のあり方か。

  生後3カ月の娘・愛美の目の前で桧山貴志の妻は殺された。犯人は少年の3人組。しかし彼
 らは13歳の中学生だったため、少年法に規定に従って罪に問われることはなかった。
  4年後、犯人であった少年の一人が殺された。当時マスコミに問われて「国家が罰を与えない
 のならば、自分の手で犯人を殺してやりたい」と叫んだ桧山は当然容疑者となる。
  かつて桧山の事情聴取に当たった埼玉県警の刑事三枝が訪ねてきた。
  桧山は福井と仁科という2人のアルバイトを使ってチェーン店のコーヒーショップを開いている。
 亡くなった妻の祥子もかつてアルバイターの一人だった。主犯核の少年Aは少年鑑別所送り、
 少年Bと少年Cは観護措置をとる手続きに移った。少年審判は非公開で被害者やその家族も関与
 できない。少年法は加害少年の更生中心で、被害者側に審判結果の連絡もない。被害者とその家
 族の心中など全く考慮していない不思議なシステムとなっている。

  殺されたのは少年Bであった。なぜ、だれに殺されたのか。愛美の通う保育園の保育士早川み
 ゆきは中学時代からの祥子の友人だった。みゆきは犯人探しにのめりこむ桧山をしきりに止めよ
 うとする。やがて浮かび上がった今は亡き祥子の暗い過去。思ってもいなかったみゆきとのつな
 がり。そして意外な展開。予想外の真犯人。後半の急テンポの展開は十分に江戸川乱歩賞にふ
 さわしい。

   刑法理論では刑罰応報主義と刑罰教育主義がある。いわば「目には目をもって償わせるのか」
 「右のほほを打たれたら左のほほを出しなさい」 的な考え方か。罪を犯したら相応の罰を受けさ
 せるのか、罪を犯した者は社会や生育環境にも問題があるのだから罰よりも更生のための教育
 が大事であるという考え方である。どちらがいいと思うかはその人の価値観の違い。更生主義が
 効果を発揮できる犯罪者もいるし、全く効かない人もいる。刑務所や少年院で高度な犯罪知識
 を受けて出所後に再犯を重ねる者もいるだろう。本書の作者はマスコミや人権派弁護士などが
 加害者の人権保護に夢中になって、何の罪咎もない犯罪被害者の人権を足蹴にしているのは
 なんという不条理なことかと怒り糾弾している。
                                              (以上この項終わり)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ピーター・メイの『ブラック・ハウス』を読む

2016年04月14日 | 読書

◇『ブラック・ハウス』(原題:The Blackhouse)
              著者: ピーター・メイ (Peter May)
              訳者:青木 創  早川書房2014.9 刊(早川文庫)
  
   
  

 本書の紹介文には「・・・息苦しく、せつない青春ミステリ」とある。青春ミステリなどという分類
が出版界にはあるのかと一瞬いぶかしんだが、読んでみるとなるほどせつないし、息苦しくなる
個所も多々あって、ミステリー性とサスペンスも含んだ一気に読ませる小説である。

 舞台はスコットランド。エディンバラ警察所属の主人公のフィン・マクラウド刑事は妻と二人暮ら
し。数週間前に一粒種の3歳の息子を交通事故で亡くしてから二人の仲は危機的状態で離婚寸
前のやり取りが続いている。
 スコットランドの西にあるヘブリディーズ諸島の北辺の島・ルイス島で殺人事件が起きた。はら
わたを抜かれた裸の死体が梁から吊るされた猟奇的殺人事件は、3か月前にエジンバラで起き
た事件と似ている。連続殺人事件の可能性を疑う上司は、精神的落ち込みがひどく休職してい
たフィンを復職させてルイス島に派遣する。何しろ殺されたのはかつてフィンが通った小学校の同
級生・ガキ大将のマクリッチだった。フィンは18年ぶりに独りで生まれ故郷の土を踏む。

 話は、フィンが一人称で語る過去と、三人称で語る現在が交錯する形で進む。事件にかかわり
のありそうな村人たち・・・ほとんどがかつての知り合い…から事情を聞き始める。
8歳でフィンは交通事故で両親を亡くし、叔母に育てられた。小学校に上がる前から兄弟同然に
遊びまわった幼馴染のアーシュター、小学校でゲール語しかわからなかったフィンに英語で通訳
してくれて以来恋人であったマーシャリー(なんとアーシュターの妻になっていた)、牧師の息子
で村の子供らのリーダー格であったドナルド、殺されたマクリッチの弟でやはり暴れ者のマードウ
などかつてフィンの少年時代を取り巻いていた人たちの何が変わって、何が変わらなかったか。
辛い記憶のある島を出てグラスゴーの大学に学び、いま警官として事件の真相を調べ回るフィン
には、思い出したくない隠れた記憶があった。それは親友のアーシュターとその父にある。そして
元恋人のマーシャリー、マーシャリーの息子フィオンマッハ。彼らとの関係がいつからか変わり、
どこで殺人事件と交差するようになったのか。最終章に向かって次第に真実の姿が浮かび上が
ってくる。

実はフィンが育ったルイス島北部の村「グーガ狩り」という何世紀にも渡った風習がある。ルイス
島から船で10時間ほどかかる絶海の孤島アン・スケールという島のの絶壁に巣をつくるシロカ
ツオドリの幼鳥(グーガ)を捕って村人で分けあう。2週間に渡る孤島での生活、2千羽に及ぶ幼
鳥の塩漬け処理、何よりも危険な岩場での捕鳥作業。この集団は12人の選ばれた人のみが従
事し、欠員があって参加を許された青年はこのグーガ狩りで初めて大人として認められるという
通過儀礼ともなっている。実はフィンもグラスゴーの大学に入学する直前に、強く反対したにもか
かわらず「グーガ狩り」に参加させられたことがある。そこで起きたフィンの転落事故から少しず
つ何かが変わっていったのである。しかも今回の殺人事件を引き起こした真因も、この「グーガ
狩り」にあったのだ。
最終章は意外な結末であるが、ハッピーエンドを想像させるシーンでほっとさせられる。

 殺人事件の捜査を通してフィンが生まれ育った「世界で最も寂しく、最も美しい土地」ルイス島
の厳しい自然のすがたとそこに住む人たちの生活と人生が語られ、ありきたりのサスペンス小
説にはない余禄がある。
 訳者の解説によれば、本書は3部作で、海外ではすでに第2部、第3部が出版されているとの
こと。
(邦訳は早川書房(ハヤカワ・ミステリー文庫)で2015.3「忘れゆく男」が出版された。)

ちなみに「ブラックハウス」とは? 作品中に説明がある。彼の地では「ブラックハウス」とは、平積
の石壁に藁屋根。家畜と同居の一棟形式。石敷きの中央部の部屋の中心に炉があって一日中
泥炭が焚かれている。スレート葺きや波トタン板葺き、石またはコンクリートブックづくりなどの普
通の家は「ホワイトハウス」と呼ばれる。

                                             (以上この項終わり)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする