読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

柚木裕子『孤狼の血』を読む

2018年07月11日 | 読書

◇『孤狼の血』著者:柚木裕 子  2017.8 ㈱KADOKAWA (角川文庫)

  

     親しい知人からいただいた文庫本。映画化された評判の1冊を手に孫との箱根旅行。
 電車や休憩時に読みふけって結局一気読みとなった。
  最初は単純な警察と暴力団の抗争が中心のストーリーと思っていたが、読み進むに
 したがって登場人物の姿がだんだん明瞭になってきてストーリーに引き込まれた。
 中心人物大上と日岡の人物造形が巧みである。

 
   警察の仕組みはなじみがあるが暴力団の組織やしきたりには疎い。警察と暴力団の
 リアルなやり取りにぐいぐい引き込まれる。よほどの取材力がなけれこれだけの迫真
 力で読者に迫ることはできまい。とても女性作家の筆力とは思えない。

  本書はヤクザ小説と警察小説を融合させた稀有な作品と言ってよいだろう。舞台は
 昭和63年の広島呉原市。実在の呉市をモデルにしている。時期的には暴対法が成立す
 る前の最後の暴力団の姿を垣間見ることになる。作者にとって深作欣二監督の映画
 「仁義なき戦い」が本書に取り組むに当たって苗床になっているらしい。

  仕事の性質上ミイラ取りがミイラになるケースはままあるが、大上巡査部長の暴力
 団という存在に対する確信犯的な理解はなぜかうなずけるところがあって、足場を法
 治国家維持という枠組みから少し外して眺めると案外的を得ていると言わざるを得な
 い。

  もちろん大上という、超はみだし刑事の魅力もさることながら、次第にその魅力・
 魔力に同化・傾倒していく生真面目な正義漢日岡巡査の、人間としての行動規範と警
 官としての規範とのはざまで揺れ動く心理的葛藤が見事に描かれている。

  暴力団間の抗争とこれを納めようとする警察組織の攻防。その中で特異な存在であ
 る暴対班大上主任の独特な立ち回り、予期された最期も含めて最高のエンターテイメ
 ントであろう。

                          (以上この項終わり)
 

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