読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

齋藤栄功の『リーマンの牢獄』

2024年10月30日 | 読書

◇『リーマンの牢獄

         著者:斎藤 栄功  2024.5 講談社 刊

          
 
 この本は20世紀最大の世界的金融危機の引き金となったアメリカの投資
銀行リーマン・ブラザースの破綻の遠因になった同社日本法人に対する債
務償還不能とした本人が著わした自叙伝である 。アバターとの対話形式を
とったのは監修役の阿部重夫氏の提案であり、功を奏している。 

 1980年代。バブル景気のあげく長く低迷した日本のマクロ経済の底辺、
個々の魑魅魍魎のごとき面々が跋扈する経済活動のリアルな姿が彼の職歴
を通じて赤裸々に描かれる。
 大学卒業後著者斎藤が就職したのが、間もなく自主廃業に追い込まれた
「山一證券」。
職を奪われた彼は都民信組を経て外資系証券会社メリルリンチに入った。

 メリルリンチではBFSというスワップ取引やオプションなどデリバティ
ブ(金融派生商品)を組み込み、客のニーズに合わせたキャッシュフロ
ーを生み出す<仕組み債>を組成するのが仕事だった。会計士、弁護士
など3.4人でチームを組んで、金融法人、学校法人、宗教法人、医療法人、
各種財団などに的を絞り顧客を開拓した。斎藤は副部長級で基本給1,500
万円、ボーナス8,500万円一躍合計1億円の高額所得者になった。

 高給に浮かれ、高級車購入、愛人に高級マンションを買い与え、銀座
で豪遊など贅を尽くしたあげく在職平均3,4年というメリルリンチを辞め、
かねて興味があった医療業界向けの債権証券化スキームを実現すべく医
療コンサル会社<アスクレピオス>を創設する。
 みずほ銀行の出資、丸紅の資本参加という信用力を背景に 業績は伸び
た。しかし、丸紅の印章偽造疑惑問題等があって、国税調査が入り、東
証の処分を受け自己破産、投資ファンドも手掛けていたアスクレビオス
はゴールドマンンやリーマンなどマンモス銀行をもまんまと詐欺芝居の
エサにした金融詐欺を働いたことになり逮捕・起訴された。

 怪しげな雰囲気が漂ったのか金融市場はメルトダウン。

 15年の刑を宣告された斎藤はしかし控訴せず刑に服した。暖房のない
長野刑務所の冬はつらい。ひたすら読書に耽り、揚句は慶應義塾大学の
通信教育で経済学の勉強もした。刑務所の日常が淡々と語られるが、受
刑者同士や看守からのいじめ・嫌がらせ、制裁の種づくり、些細な規則
違反に大仰な制裁、等々人格否定の数々が明かされる。

 なぜ控訴しなかったのか。受刑することで一度人生をリセットし、新
しい自分を見つけ直したかったのだ。だがそれも幻だったかもしれない。

                      (以上この項終わり)
  

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スティーヴン・キング『ビリー・サマーズ(上)』

2024年10月17日 | 読書

◇『ビリー・サマーズ(上)』(原題:BILY SUMMERS)

   著者:スチーヴン・キング(STEPHEN  KING)

   訳者:白石 朗     2024.4  文芸春秋社 刊

  
      
   スティーヴン・キング最新作。作家デビュー50周年記念出版 という。
  主人公ビリー・サマーズは殺人請負業「殺し屋」である(但し標的は悪人のみ)。
特徴は一発で仕留める射 殺(スナイピング)、ビリーはスナイパー(狙撃手)であ
る。狙撃技術は米海軍海兵隊で みっちり訓練を受け、大隊で1,2を争う腕前だった。
使うのはレミントン7000。

 請負の仲立ちジョージ・ビッグス(偽造屋)が持ってきた仕事の標的は裁判に出
廷する被告ジョエル・アレン。これが最後の仕事と思って受けた。こんどの成功報
酬は2百万ドル。手付金として50万ドルが先払いされた。
 依頼人ニックと射撃用の部屋を用意する不動産業ホフには胡散臭さが漂い、ビリ
ーは全面的には信用していない。
 ビリーは小説作家の職業デイヴィッド・ロックリッジという偽名でホテル投宿す
る。そこで小説執筆中の作家を姿を広く印象づける。一方ビリーは密かにドルトン
・スミス名義で遠く離れた場所に一軒家を借りる。

 偽名で生活を始めたビリーは隣家の子供らとモノポリーに興じたり、近所の家族
とガーデンパーティーを開いたりし、本来の人付き合いの良さを発揮する。 
 ニックから仕事を終えたのビリーの逃走手段が提示されるが、ニック等を全面的
には信用していないビリーは秘密裏に独自の現場からの離脱方法を準備する。
 一応作家を名乗っているので執筆中の作品の痕跡を残す必要があるだろうと、自
分の子供時代からの自叙伝風小説を書き始めるが、すっかり著作作業に楽しさに嵌
ってしまい海兵隊での思い出の数々にまで筆が進む。

 やがて移送車が拘置所を出たという連絡が入る。護送警官に挟まれ裁判所の広階段
を上るアレンを射撃視野に入れたビリーはライフルを構え引き金を引く。
ビリーの仕事は終わった。

 しかし、ビリーの不吉な予感は当たり報酬の1500万ドルの払い込みの知らせはいく
ら待っても届かない。依頼人ニックが横取りしたのか。
 しかしビリーには著作という新しい時間つぶしの仕事があるのでたまにエクササイ
ズなどを挟みながら警察の検問などの収まるのを待った。

 ところが4日目の深夜、とんでもない事態に見舞われる。家の前に止まった車の男
3人組が瀕死状態の若い女性を道路の側溝に投げ捨て走り去ったのだ。通りがかりの
誰かに見ナイフつかり警察に通報でもされたらビリーは一巻の終わりである。

 女を家に運び込み介抱する。男らに手ひどい性的暴行を加えられたようだ。
着替えやマッサージで漸く落ち着いて寝入った女の姿を見て、今後のことは後で考え
よう、少しだけとソファでまどろんだビリーは目覚めた目の前に立っている女に気付
く。

その女の手にはナイフが…。(この先は下巻で)

                            (以上この項終わり)

 

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カーリン・アルヴテーゲン『裏切り』

2024年10月05日 | 読書

◇『裏切り(原題:SVEK)

    著者:カーリン・アルヴテーゲン(KARIN ALVTEGEN)

    訳者:柳沢由美子   2006.9 小学館 刊 (小学館文庫)

   

 
  「きみといても、もう楽しくない」
  この一言が悲劇の始まりだった。
  家計の中心である妻エーヴァ35歳、生活の全てを妻に依存する夫ヘンリック。妻
    に負い目を感じる夫は不倫に走る。
  夫の不倫相手が息子の通う保育園の保育士リンダだと知った妻は激怒し二人に復
 讐を誓う。

  夫の不倫で頭にきたエーヴァはパブで知り合った若者と初めての情事に走る。こ
 の若者ヨーナスにとっても初めての体験で自分好みの彼女に夢中になる。
  互いに一度だけの情事であったがヨーナスは彼女の名前と住所を探しだす。ヨー
 ナスはかつて片思いの女性を水死させようとした過去のあ るパラノイア(偏執症)
 だった。
  エーヴァはリンダに致命的打撃を与えるべく保育園に侵入、リンダのパソコンか
 ら園児の男性保護者宛に熱烈なラブレターを送り(原文はリンダからヘンリック
に宛てたレター)リンダを窮地に陥れる。
  初めての情事の相手に夢中になった男は彼女の住所を突き止め夫婦間が離婚の危
機にあることを知りエーヴァをわがものにする策を練る。
  パラノイアに魅 入られたエーヴァは蜘蛛の巣に囚われた蝶のごとく破滅の水底に
 沈んで行く。

  この本のストーリーの展開は主としてこの3人の心理状態を緻密にかつ交互に追
 うスタイルであるが、 信頼関係を失った夫婦の疑惑と不信、混乱と期待、絶望と攻
 撃など感情の動き、パラノイアの偏執的な感情の動きと行動が克明に描写されると
 ころが特長である。

                            (以上この項終わり)

 

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咲く花は時を忘れず

2024年10月02日 | その他

◇ 銀木犀の香り風に乗る

  朝雨戸を開けると馥郁とし た木犀の香りがただよってきます。
  このブログ既報2020年10月3日銀木犀の花が咲いたと伝えています。
  猛暑でもなんでも自分の生の営みを忘れてはいませんでした。
  しばらくするとキンモクセイが咲くでしょう。

    

  
               
            (以上この項終わり)

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