読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

サンファン・キャピストラーノの「ミッション」を描く

2020年02月27日 | 水彩画

◇ キリスト教伝道の歴史博物館

  
    ARCHS  ROUGH (300g)  F6

  しばらく手付かずだったカリフォルニアの風景画。思い立ってようやく着手した。
  ここはオレンジカウンティの片隅、サンディエゴまで車で1時間ほどの「サンファン・キャ
 ピストラーノ」という小さな町。次女の家族が住んでいる。
  対象の建物は「ミッション」と呼ばれている歴史博物館で、アメリカ西海岸の「アムトラック」
 の鉄道駅の前にある。

  19世紀半ばごろ、アメリカは戦争によってメキシコからカリフォルニアを獲った。まだゴール
 ドラッシュの前のことで、後にメキシコは地団太を踏んだだろう。
  コロンブスがアメリカ大陸を発見したのちスペインはキリスト教布教のためにアメリカに「ミ
 ッション」を送り込んだ。「神の声を送り届けよ」という使命を帯びて未開の地に分け入った宣
 教師たちは修道院のような布教の拠点を設けた。これが「MISSION」である。カリフォルニアに
    はスペイン支配の証となる地名が多く残っている。また El Camino Real という伝道街道の遺跡も
 残っている。
       博物館には布教当時の宣教師たちの自活の遺物が残されている。多分農作業用具などを作った
 小さな鍛冶屋もあった。
  
  カリフォルニア・ブルーと言われるように吸い込まれるような青空がこの地の特徴なので、空
 はもっと濃い目にした方がよかった。
  白い漆喰壁、オレンジの瓦屋根は、まさにスペインの名残りである。
 鉄柵に腰を乗せた中年のおじさん、壁に背中を持たせかけた少女、バックパックを背にした少女、
 中年の男女二人連れの人物が観光施設の雰囲気を醸し出している。信号機や人物が作り出した影
 が遠近感をもたらした。
                                  (以上この項終わり)
  

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『デルタの悲劇』

2020年02月24日 | 読書

◇『デルタの悲劇

  著者: 浦賀 和宏       1989.12 角川書店 刊(角川文庫)




 浦賀和宏らしい手の込んだ作品なので、心して立ち向かった方がよい。
読後感想をどこまで明らかにするか迷うところである。
まず、何はさておき、解説やあとがきなどを先に読む手合いは、今回はこうした
順番はやめたほうがよろしい。プロローグと本編と解説とエピローグが一体とな
った重層構造になっているからである。

 この小説にはプロローグが二つある。事件背景を説明するプロローグはありきた
りであるが、まず最初のプロローグとして作者の母親がある宛先不明の手紙を掲げ、
作者がある事件に巻き込まれて亡くなったことをのべる。本編のあと解説があって
エピローグとして再び作者の母親の視点から本体の事件を解説し犯人を名指しする
ことによって桑原氏の解説を補い締めとする四重構造のスタイルになっている。

 読者は二番目のプロローグで斎木、丹治、緒川という3人の悪ガキの生い立ちや
悪行の次第、いじめの対象であった同級生山田信介殺害という事件を知る。
 さて、3人の少年が成人式を迎えた日、それは斎木らが殺した山田信介の命日だっ
た。
 成人に達した斎木を山田の友人だったという八木と名乗る人物が訪ねてきた。殺し
を認めて自首しろという。
 次いで八木は丹治を訪ねる。緒川をも訪ねたらしい。八木は執拗に犯罪を認めさせ
ようとする。斎木と丹治は精神的に弱っちい緒川が落ちることを懸念し殺そうとする。
 このようにこの作品の表面的な粗筋はさして混み入ったものではない。

 さてここからは桑原氏の解説と作者の母の解説に分け入っていくので「ネタバレ注
意」である。
まだ本体を読んでいない方はできたら読まないでいただきたい。

 本体が終わって次いで解説。これはおなじみのノンフィクションジャーナリスト桑
原銀次郎氏が本書の特徴を解説するという仕掛け。本書の特徴が①時制トリックと②
人称トリック③性別トリックという3つのトリックを絡ませたところにあると明かす。
まさに本書が難解である大きな原因。特に性別トリックはややこしさの最たるもので
ある。従って193ページという掌編ではあるが中味は濃い。

 エピローグの最後では八木(作者)の母親がプロローグで当てた手紙の「あなた」
が真犯人だとして明らかにされる。衝撃的な結末である。
                           (以上この項終わり)

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冲方 丁の『天地明察(上・下)』

2020年02月23日 | 読書

◇ 『天地明察(上・下)

  著者: 冲方 丁(うぶかたとう)      2014.5 角川書店 刊

  

    江戸時代初期における幕府の碁打ち衆にして算学者である渋川春海の
物語である。
 難解な漢語表現を駆使しながらも、簡潔な表現をもって天文と和算学
の世界をかみ砕き、春海が苦節23年を重ね、800年余にわたり膠着状態
にあった宣明暦に風穴を開ける使命を果たすまでの春海の半生を描く。

 時は4代将軍家綱、副将軍水戸光圀、大老酒井雅樂頭忠清の時代。影の
支援者会津藩主保科正之、和算の天才関孝和との交流、天文学、暦学の
先輩建部昌明、伊藤重孝らの後押しがあり改暦に取り組む。
 先ずは北極出地という日本各地の緯度経度を精査する調査。データ集め
である。次いで先進中国における暦法の調査研究、家代々続く幕府囲碁衆
としての務めの傍ら研究に打ち込んだ和算学をベースに天文の摂理を究め、
快心の出来と信じ固めた「授時暦」は月蝕の時を1回間違えて信を失った。
 その後授時暦の欠陥を知りさらに研鑽を重ね、「天文分野之図」、「日
本長暦」という書物を世に問い失地挽回、ついに22年の月日を経て「大和
暦」を世に出し、朝廷に改暦の請願を出すに至った。

 しかし既存の陰陽師群はこぞって大和暦に反対し、中国の大統暦採用を
推したが、春海は勅命を受けた土御門家康福を正面に押し立て、大衆と公
家の賛意を積み上げ、ついに時の霊元天皇から勅名「貞享暦」をもって大
和暦採用を実現した。時に春海46歳。
 この間春海は最初に娶った妻ことを失ったが、蔭ながら精神的支えとな
っていた磯村算学塾の縁者であるえんと結ばれ男児を得ている。
この子は親に先立ち、春海は80歳で亡くなった。

 改暦実現のために、幕府と朝廷とを巧みに操る駆け引きの見事さは史実
にはないところであり、まさに作者の力量発揮の場である。 

 暦の公定は宗教、政治、文化、経済の統制を意味する。専権による経済
的利益の独占をも意味する。そして春海らが構想する幕府天文方の創設、
大和暦への転換は、宣明暦の監修・頒布に携わってきた陰陽師に真っ向か
ら対立する大事業であり、公家の独占事業への武家の挑戦だったのである。
 和算学と天文・暦学という異色の世界に深く分け入り、ドラマチックな
小説に仕立て上げるという作者の力量はなかなかのものであると言わざる
を得ない。
 この作品は吉川英治新人賞等を得た。
                     (以上この項終わり)

 

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春を告げる「ふきのとう」

2020年02月18日 | その他

◇ 庭に芽を出したふきのとう

  例年2月下旬に芽を出すフキノトウが今年は約一週間早く芽を出した。
 年々強まる暖冬化傾向の表れだろう。
  
  新型の インフルよけて フキノトウ

 

 

 

 

                  (以上この項終わり)

 

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劇団ひとり 『陰日向に咲く』

2020年02月16日 | 読書

◇ 『陰日向に咲く』

  著者: 劇団ひとり  2009.8 幻冬舎 刊

  

 作者は芸能界出身と知って、かつて芥川賞作家又吉氏の作品『火花』
で失望した記憶から構えて読んだが、なかなかどうして作家の資質を持
った人である。

 小説デビューではあるが短篇とあって、とりたてて筋書きで読ませる
本ではないが、リズム感が良く、身近でどこにでもいるような人たちを
とらえて、適度にユーモアを交えてまとめ上げる手際が良い。
 5篇は独立しているが少しづつ関わりがある。
「道草」、「拝啓、僕のアイドル様」、「ピンボケな私」、「overrun」、
「鳴き砂を歩く犬」

 とりわけ「道草」の中のホームレスのくだりなどはありそうな話で秀
逸である。「overrun」も面白い。ギャンブルには相当注込んでるとし
か思えない。つまり経験で書いておるということだ。ということはホー
ムレスも経験を踏まえてか。でも、オレオレ詐欺の結末はよかった。

 父親の川島壮八氏が解説を書いている。作者の生い立ちなどを書いて
いるが、学歴はないものの記憶力と観察力は良いと思うと言っている。
なお氏の人生訓は「人生何が幸いするか分からない」のようだ。

                     (以上この項終わり)

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