読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

大山誠一郎の『赤い博物館』

2017年09月24日 | 読書

◇ 『赤い博物館』 著者:大山誠一郎  2015.9 文芸春秋 刊

    

         京都大学推理小説研究会出身という作者による本格ミステリー。
   「赤い博物館」とは警視庁付属犯罪資料館ということになっているがロンドンの
  「黒い博物館」に倣った架空の存在。館員と言えば黒髪、雪女のごとく色白で二重
   瞼、美貌の館長緋色冴子(キャリア)。そして大きなミスを犯して警視庁捜査第
   一課強行犯捜査第八係から左遷された寺田聰の二人だけ。赤い博物館は、警視庁
   管轄下で発生した犯罪で一定期間経過した証拠品、捜査資料を保管し、調査研究、
   教育用に役立てる目的で設置された。館長緋色と寺田の仕事はこれら証拠品にQR
   コードを付してデータ入力するだけ。ところが緋色館長は興味深い捜査資料を熟
   読し、捜査実務の経験がないにもかかわらず論理思考から迷宮入り事件などを再
   捜査し犯人を探り出す。寺田は調査を担当する。ミステリー作家には実に好都合
   な舞台設定である。本書には緋色・寺田チームが扱った5件の事件が載っている。

    小生は元来あまり本格ミステリーは読まない。名探偵が終段でとくとくと謎解
   きをし周囲が感嘆するという構図は好きではないし、事件を論理的に解明しよう
   として無理な状況設定が多く、ストーリーが定型的でリアリティに欠けるなど理
   由はいくつかあるが、本書のような短編ではさほどそんな難点を気にしないで読
   めた。

   <パンの身代金>
    15年前の著名な製パン会社社長の身代金誘拐事件。身代金引き渡しの現場廃屋
   から社長が消えた。社長は別の場所で殺されたのに身代金は置いたまま。一種の
   密室ものであるが、社長が別の場所で殺人を行い、警部補が社長に変装し捜査員
   の眼をくらますあたりは、論理の遊びと思えばそれでよいのだが、やはりやや鼻
   白む。    

   <復讐日記>
    大学の修士課程2年のA。長く交際していた恋人のB子がマンションから落ちて
   死んだ。実は半年ぶりに「折り入って相談したいことがある」と電話があったば
   かりのこと。果たして自殺か事件か。司法解剖の結果B子は妊娠3か月だった。犯
   人はその胎児の父親かもしれない。やがてAの所属するゼミの講師Oは女癖が悪く
   教え子Aの恋人B子に手を出しはらませていたことが判明。そしてOも殺された。
   Aが犯人か?そう単純ではない。元恋人の名誉のために我が身を差し出そうとする
   けなげ な思いが切ない。

   <死が共犯者を別つまで>
    交換殺人事件。ある日寺田聰は偶然にも交通事故死の現場に遭遇し、今わの際
   の運転者から25年前の交換殺人の告白を聞く。(何という好都合な偶然か!)
   さらに「それだけじゃない、俺は…」という謎の言葉を残して彼は死んだ。一種
   のダイイングメッセージを聞いてしまった寺田は25年前の未解決殺人事件を調べ
   る。6件の事件が浮かび上がりそのうち該当性が高い2件を調査する。
    実はこの事件は単純な交換殺人ではなかった。

    
   <炎>
    世田谷区千歳台で火災が発生、焼け跡から1体の 男性遺体と、2体の女性遺体が
   発見された。女性の一人は妊娠3か月であった。遺体の損傷がひどいがこの家の
   住人夫婦と妻の妹である可能性が高かった。一人娘は幼稚園で無事であった。DNA
   鑑定で胎児は夫婦の夫の子であると判明した。ところが窒息死と思われた死因は解
   剖の結果致死量の青酸カリと判明、他殺の線が有力となった。さて犯人は誰か。
    なんと夫と妹は不倫関係にあり一人娘も実は夫と妹の子を引き取っていたことが
   判明。
    妻は復讐を誓う。しかし「夫を寝取られた妻」という不名誉に耐えられない妻は
   自分が妊娠していたと周囲に信じさせたうえで…。これも切ない話。

   <死に至る問い>
           26年前の殺人事件に酷似した殺人事件が発生した。模倣犯か同一犯か。犯人か捜
   査陣にしかわからない状況酷似に同一犯説が有力であるが、ただ1点被害者の着衣
   に残された血痕は左右と異なっている。これは何を意味するのか。
    捜査本部の記者会見で結婚の血液型について質問した女性記者がいた。実はこの
   記者が犯人だったのだが、かつて暴虐であった今は亡き自分の父が実の父親でない
   ことを証明するために模倣殺人を犯すというかなり強引というか不自然なつくりに
   唖然とする。

                                (以上この項終わり)

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳩の撃退法

2017年09月13日 | 読書

◇『鳩の撃退法』 著者:佐藤正午  2014.11 小学館 刊

  
 先ごろの直木賞受賞作家佐藤正午の作品『月の満ち欠け』が購読雑誌「オール読物」
に載った。本体は相当の長編らしく(前編)だけであった。選考委員の一人がかつて読
んだ『鳩の撃退法』が非常に良かった…という感想を述べておられて、それならそちら
の方を先に読んでみようと思って取り組んだが、これまで読んだ他の小説とは手法がず
いぶん異なっていて、最後はややだれ気味であったものの結構面白かった。


 何しろ佐藤氏自身は長らく文壇で「なぜ直木賞をもらわないのか」と言われたほどの小
説巧者だそうだが、この本ではちゃっかり直木賞もらった作家くずれ(?)として登場し
ている。しかも主人公。

 僕=津田伸一は行きつけのドーナツショップで幸地秀吉という男と出会う。町の古本屋
で見知っている程度の間柄。
 2月28日で外は雪。その朝幸地の妻は風邪だといって起きてこなかった、「妊娠だとい
うがお腹の子の父親は僕ではないのだ」なんて会話をしている内に幸地はいなくなった。
これが冒頭の場面だが、すべてがここから始まる。

 津田は昔直木賞取ったがその後さっぱりで、二度結婚したことがあるが、青森辺りの旅
館で働いたりしていたが、ひょんなことである女の部屋に転がり込みバイトでデリヘルの
女性を送り迎えするドライバーをやっている。
 ちゃらんぽらんのようで意外と女性にもてる。ある日付き合いがあった古本屋の老人が
亡くなって、名指しで遺品のバッグが残された。その中には3,400万円の札束が。すっか
り有頂天になった津田はその1枚を床屋で使ったらこれが真っ赤な偽札で、警察とやくざ
に目をつけられて、とうとう東京へと逃げだす。

 東京では中野でバーテンダーの見習いなどやりながら最近と過去のの出来事をノートに
書き綴る。さすが作家である。
 この偽札の始末記は下巻になり結構読ませるが、それは読んでのお楽しみだ。
 布石が至る所にばらまかれ、話は飛び、また帰る。しっかり読んでいないと何度も読み
返すことになる。物語は断片的に相前後して語られ、話の途中で後日談が語られたりする。
過去から現在へ現在から過去へと時間軸を行きつ戻りつし、筋運びが入り組んでいて、冗
長のようであるが、登場人物の会話が軽妙であったり洒脱であったりし面白い。
 また司馬遼太郎のように作者が時折顔を出し、読者にいろんな言い訳とか要望をしたり
するのが特徴でもある。

                             (以上この項終わり)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀木犀が咲いた!

2017年09月10日 | その他

一足お先に咲いた銀木犀

  一昨日雨戸を開いたとたんにかすかに鼻先をかすめたほのかな香り。
  毎年時を忘れずに咲く銀木犀。金木犀の方はまだ蕾すらない。
  昨年は開花が9月3日でした。今年遅いのは長雨のせいでしょうか。
  
  今日は写真のごとく花は八分咲き。馥郁とした上品な香りが秋の訪れを告げています。

  
    
                                       (以上この項終わり)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

立山・黒部アルペンルートを訪ねて

2017年09月09日 | 国内旅行

◇ 「立山・黒部アルペンルート」を訪ねる
  かねがね頭にあった立山・黒部アルペンルート。9月5・6日(火・水)の一泊二日の超ハ
 ードなツアーに参加し、念願を果たしました。
  初日は北陸新幹線で宇奈月温泉まで行ってトロッコ列車で鐘釣まで。宇奈月温泉に泊まり、
 立山地方鉄道で立山へ行き美女平、室堂経由黒部ダムへ。ガルベ遊覧船で湖水の奥まで行っ
 て、次いで堰堤を歩いて観光放水を見て扇沢までトロリーで降り、松本からあずさで新宿へ。
 新宿着は22:07というきつい行程でした。

  北陸新幹線・富山地方鉄道・トロッコ電車・立山ケーブルカー・立山高原バス・立山トロ
 リーバス・立山ロープウェイ・黒部ケーブルカー・関電トンネルトロリーバス・観光バス・
 中央線特急とこの二日間でいろんな種類の乗り物に乗りました。
  心配した台風15号は何とかすり抜けたものの秋雨前線がうろうろしていて結局目玉の室堂
 からの山岳展望はガスと雨の中。かえすがえすも残念でした。

           
      東京から「はくたか」 黒部宇奈月駅  富山地方鉄道で宇奈月温泉へ

        
      レトロな内山駅    宇奈月温泉駅噴泉は43℃ありました。 足湯もあります

           
       トロッコ電車で鐘釣駅まで       駅員さんは礼儀正しく 宇奈月ダム

         
  宇奈月ダム     湖面橋      新柳河原発電所
        
  黒薙駅 黒薙温泉への道            水路橋      出し平ダム

           
  列車交換               黒二発電所     澄明な黒部の流れ
            
  鐘釣河原の露天風呂 河原に湧く温泉   万年雪の跡    吊り橋
             
  猿にための吊り橋  立山アルペン特急   ワンマンバスのような仕様
           
  食堂車はなかなかシャレています     寺田駅
               
  まだ多少雪が残っている室堂は雨の中            立山トロリーバス
             
  黒部ケーブルカー  ガルベ黒部湖遊覧船から  赤沢岳   
               
  カンバ谷吊り橋             鷲岳方向            
               
  針ノ木岳      北葛岳方向    黒部ダム堰堤    観光放流毎秒10t
               

      (以上この項終わり)



  
      


   

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする