読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ニコラス・シェイクスピアの『テロリストのダンス』

2017年04月30日 | 読書

◇ 『テロリストのダンス』(原題:THE DANCER UPSTAIRS)
            著者:ニコラス・シェイクスピア(Nicholas Shakespeare)
                                     訳者:新藤 純子  1999.6 新潮社 刊 (新潮文庫)

     

      これは南米のペルーと思しき架空の国を舞台にしたフィクションです。作者は英国生まれながら南米に
 20年以上住んだというだけに仮想国の自然風物の克明な描写が半端でなく、すばらしい。

  「テロリストのダンス」というだけに確かにテロリストが出てきます。でもテロリストグループの親玉
 ではなくて一味のバレリーナが重要人物です。テロと警察との戦いではなくて、テロリストを追う警察の
 幹部がそのバレリーナに恋するところが主題です。
  南米でも中年男の堅物が色恋沙汰に陥るとここまでやるか。というのが率直な感想です。

  1997年、今から20年前にペルーの日本大使館にゲリラグループが侵入、人質を取って3カ月にわたり立
 てこもり、結局軍がトンネルを掘って公邸に侵入ゲリラは全員死亡という事件がありました。ペルー最大
 のゲリラ組織「センデロ・ルミソノ(輝ける道)」が本書のテログループのモデルです。この組織はキュ
 ーバ革命を理想とするカストロ主義者でマスコミ江尾積極的に利用しているのに、本書のテロ組織は毛沢
 東主義を掲げ、過激思想の下に爆弾テロや住民の虐殺を行っています。

  大学の哲学教授であったエセキエルはゴンサロ大統領を名乗りテロ活動を始めます。各地でテロ活動に
 入り、自動車爆弾、子供を使った要人のテロ、住民の虐殺などが続き、政府はエセキエル逮捕を競う警察
 と軍が功を焦り住民を虐殺するなど混乱を極める事態が続きます。
  首都警察の警察幹部(大佐;この国では警察も軍と同様の階級呼称を使っている)のアグスティン・レ
 ハスが上司のメリノ将軍に名指しでエセキエル逮捕を命じられ、テロ事件が続くなか覆面捜査官として不
 眠不休の捜査を続けるのです。逮捕まで12年。

  この本の筋立てはジョン・ダイラーという某新聞社南米支局を任されていた記者が支局廃止を宣告され、
 起死回生を狙いテロ指導者エセキエル逮捕の立役者である大統領の右腕カルデロン情報局長に独占インタ
 ビューを試みるところから始まる。そして政府要人にコネがある元バレリーナの叔母ヴィヴィアンのつて
 を頼ったものの叔母に逃げられ、これを追って赴いたブラジルのパラというアマゾン河口の港町で偶然
(実は偶然ではなかった)エセルキルを実際に逮捕したアグスティン・レハスと知り合います。
  上司カルデロンから他言を禁じられていた警官はその後国の英雄となり大統領候補にまで擬せられるこ
 とになった。その警官と知り合い独占記事をとれる興奮でダイラーはその夜眠れなかったのです。

  それからレハスとダイラーは毎晩のようにその港町のレストランで食事や酒を摂りながらエセルキル逮
 捕に至るまでの12年間の捜査活動を聞くのです。
  
  1980年5月17日レハスは、隠れ家に移動中のテログループの車を、中途半端な検問で取り逃がしていた
 のです。その時に撮ったエセキエルの写真が逮捕まで唯一のものになったのです。そのために逮捕までの
 12年間に3万人の命が奪われました。

  南米のこの国では白人と混血(メステソ)と先住民(インディオ)が混在しています。少数の裕福な白
 人と多くの貧しい混血と先住民が混在し、不満が渦巻く多数の貧しい人たちの不満をあおってテログルー
 プが暗躍したのです。
  レハスは大学を出て一時弁護士をやっていたものの混血でした。白人の妻シルビアとラウラという娘が
 います。シルビアは夫の警官という職業に不満をもち、金持ちになりたいと化粧品のマルチ商法にはまっ
 ています。ラウラはバレー教室に通っています。

  レハスは政府からの給料遅配でラウラの月謝が払えずバレー教室の教師ヨランダに断りに来ました。そ
 こで少年時代のことを話しているうちに、ヨランダが同じメステソで同じような高地で民族舞踊を研究し、
 高地の風習を知っていることですっかり意気投合し、その後も捜査の合間にここを訪ね、親密度を深めま
 す。すらりとした肢体と肩までくる黒髪を持つ美貌のバレリーナ。
 「わたしは彼女を愛おしくてたまらなくなった」(p.217)

  苦労の末テログループの指導者が潜むおおよその場所が特定できて、捜査陣は手分けして街路を張り込
 む。その一つにラウラが通うバレー教室があり、レハスはラウラとヨランダが事件に巻き込まれはしない
 かと恐れるもののチャンスがありません。
  何十軒もの家のごみ袋を検査しているうちに乾癬症に罹っているエセキエルの薬箱が見つかった。アジ
 トは、なんとバレー教室の二階だったのです。

  その日、レハスはヨランダの誕生日に彼女が好きだというケーキとプレゼントを持ってバレー教室を訪
 れています。大事なラウラとヨランダ。危険を知らせる手立てもないレハスは突入を躊躇しますが…。
  アジトを急襲したレハスはなんとヨランダがテロリストグループの一員であることを知ります。その驚
 き。「エセキエル大統領、万歳!」と叫んだヨランダは「同志ミリアム」と呼ばれていました。

  レハスはヨランダを何とか救い出そうと手を尽くします。しかし終身刑を言い渡されます。そこで考え
 たのがジャーナリストのダイラー。彼の叔母さんは大統領府に顔が利く。自分が大統領選挙に立たないこ
 とを取引材料に、手を血に染めてはいないヨランダを2・3年で出所出来るようにカルデロン局長に働きか
 けてほしい。そんな深謀遠慮でダイラーを引き寄せたのでした。ダイラーはこれまでの彼の告白を聞き、
 彼の真意を忖度しレハスの願いを叔母に頼み込みます。「彼は公正な人間だ、ヨランダは手を血に染めて
 はいない。そして彼は彼女を愛している。

  その先のことは本書を読んでください。

 『テロリストのダンス』という題名はヨランダのことでしょう。原題の『Dancer Upstairs』もヨランダ
 のことと思いますが、国中を悪夢に陥れた悪魔の踊りを舞う二階のテロリストたちのことかもしれません。

                                      (以上この項終わり)
  

 

  

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木彫りの土産品など

2017年04月27日 | 水彩画

木彫りの土産品などを描く

  
    Clester  F6

 先週の水彩画教室では骨董品や土産物などの静物を描くことになった。
 このコーナーではアイヌ民族衣装をまとった男女一対の木彫りにインカ帝国の壺、それに青銅の仏像
(位置取りが悪く後姿になった)。

 アイヌ人形では、多分一刀彫技法の荒削りの素朴な感じを出したかった。そして独特の意匠と色合いの
 インカ帝国の壺は形もまたよい。仏像の頭部の方は添え物という感じで。
 木の柔らかさ、陶器や青銅像の硬さなどがちゃんと表現できたかが勝負処か。

                                    (以上この項終わり)

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特報! 今が盛り「ネモフィラ」 国営ひたち海浜公園

2017年04月25日 | 国内旅行

◇ 「国営ひたち海浜公園」でネモフィラ群落を観る
 5・6年前に一度来たことがある「国営ひたち海浜公園」。前回はネモフィラも少し時期を
外れていて、しかも肌寒い一日であまり良い印象はなかったが、今回は満を持してネモフィラ
のピークの時期を狙っての訪問、当たりだった。
 海外からの団体客をはじめ沢山の人がネモフィラで埋め尽くされた見晴らしの丘を訪れてい
た。

  
                


    
                みはらしの丘      
    

         

         

          
                  みはらしの鐘
         
                西入口・翼のゲートから                          たまごの森・フラワーガーデン
         
               スイセンガーデン
         

         
             サイクリングロード                           沢田湧水・ネイチャーハウス
         
               シーサイド・トレイン                            サイクリングコース
         
                                                     大草原
       
                           菜の花と古民家                          大観覧車とプレジャーガーデン
         
                   西口ゲートから      阿字ヶ浦海水浴場へ                      ひたちなか海浜鉄道 阿字ヶ浦駅

         
                             かなり遊んでいます                          散策するにしてもわかりにくい地図
       
                         ここは終点・線路は勝田方向へ                          相当使い込んでいます

       
                            落書きはご自由にどうぞ                          終点の勝田駅

                                                   (以上この項終わり)
      

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今野敏『回帰ー警視庁強行犯係・樋口顕』 

2017年04月20日 | 読書

◇『回帰-警視庁強行犯係・樋口顕』著者:今野 敏  幻冬舎 2017.2 刊

    

 今野敏による警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ第5作目。 
 今回はテロがらみの事件で、普段何かと意識しあっている公安部との捜査協力の様子が面白
く描かれている。

 都内某私立大学の近くで車の爆発事故が発生、2人の死者十数人の負傷者が出た。爆発処理班
はもちろん爆発・爆破の事案を担当する第三係(特殊犯捜査係)が出動、国際テロの疑いがあり
公安部外事第三課の捜査員が乗り込んできた。

 今回の事件はかつて樋口の指導官であった天童管理官が捜査を取り仕切っている。その天童監
理官に因幡という元同僚から電話があった。因幡はかつて天童の下で樋口らと動いていたが、あ
る事件で証拠不十分なまま厳しい追及を行い立件、裁判で無罪となって責任を取る形で警察を辞
めた。その因幡は日本を出て世界中を放浪し今日本に戻ってきた。この因幡が今回の事件のキー
マンの一人である。

 国際ジャーナリストと自認する因幡は天童に告げる。「いま日本にテロが計画されている。今
回の車の爆破事件は前哨戦で本格テロはこのあと続く。日本のスリーパーが動き始めた。私はそ
れを食い止めたいと日本に戻ってきた」
 天童も樋口も因幡が融通は利かないが正義感の強い男であることはわっかている。しかし、国
際テロ組織に通じている疑いは否めない。果たして因幡を信じていいのか。そして出張ってきて
いる公安の管理官梅田に因幡の話を隠しておいてよい者か。二人は悩み惑う。

 爆発現場近くで中東系の若い男を見かけたという目撃者が現れた。そして近くの防犯カメラに
それらしい男が映っており、ムハマンド・シーファーズ・サイードというパキスタン人の男が連
行される。しかしシーファーズは防犯カメラの人物は自分ではない。これはバングラディッシュ
人だという。
 さらに目撃証人が現れた。同大学図書館の牧田詠子という女性。資料図書を貸し出した中東人
が爆発現場近くにいるのを見たという。防犯カメラの人物とは違うというのだ。
 防犯カメラに映った人物に似た、加羅夢というバングラディッシュ系日本人が見つかり連行さ
れた。牧田はこの男こそ防犯カメラの人物だという。

 捜査陣は二人の目撃証言、二人の容疑者の証言、その勤め先のアリバイ証言など信憑性を巡っ
て議論を戦わせるのだが、なかなか結論が出せない。容疑の晴れたシーファーズを釈放するかど
うかでも警察と公安の主張は対立する。人権侵害等で公判維持がむつかしくなる警察と、事件を
未然に防ぐこと、人権より治安維持優先の公安ではなかなか議論はかみ合わない。

 結局警察の中では常識人で通る樋口の論が通りシーファーズは釈放される。ただし公安の監視
付きで。
 牧田詠子の証言の信頼度が疑われた。シーファーズから目をそらせるために加羅夢を防犯カメ
ラの男といっているのではないか。となると牧田はテログループのスリーパーか。加羅夢は釈放
しなければ。牧田は抑えるか。泳がせるか。いたずらに一網打尽を狙ってテロが先行したらどう
するのか。難問が尽きない。

 天童に因幡から電話があった。「因幡かい?」公安の梅田管理官が言う。天童と樋口はドキッ
とする。やはり公安は因幡の帰国を知っていたのか。
 「この前因幡と会ったのも知っている。ヨーロッパの諜報機関から情報が入っているんだよ」
「海外のテロ組織と関係があるというのは誤解だ。彼のジャーナリストとしての接触の中にテ
ロ関係者がいたということだ…」、「有効な情報が得られるのなら利用しよう。だが隠し事は
なしにしようぜ」梅田公安管理官は話が分かる。

 天童の代わりに樋口が因幡に会ったところ、シーファーズのアリバイを語った勤務先の経営
者、同僚や牧田詠子がスリーパーであることが分かった。さらに牧田詠子は「聖戦のための国
際戦線」の後方支援の一員であることも。
 
 牧田詠子を確保しようとしたが勤務先、自宅からも姿が消えた。しかし樋口の推理通り大学
構内に潜んでいる牧田は即身柄を確保され拘引された。シーファーズの関係者も捕まった。
 テロの主役シーファーズが監視に目を盗み姿をくらました。テロの目標地が靖国神社である
ことを牧田が明らかにした。牧田はイランのモグラだった。

 因幡と樋口は靖国神社で自爆のリスクを負いながらも格闘の末見事シーファーズを捕縛する。 

 樋口の一人娘照美は大学4年生になった。妻の恵子から「照美が夏休みに世界をバックパック
旅行したいと言い張っている。何とか言い聞かせて」と言われていた。忙しい最中なので「若
い女の一人歩きは危険だ」と言い放しになっている。反抗期は終わっているのに、娘と話をす
るとなるとぎくしゃくするのは何か根本的な問題があるせいかもしれない。それが刑事という
仕事のせいだとしたら絶望的だ。と樋口は思う。そんな心配性の男だ。

 そこで因幡から「バックパッカーなど止めた方がいい。旅をするには悪いことではない。
だが、目的のある旅にするべきだ。でないと、記憶にも残らない。ただ疲れ果てて途中から日
本に帰ることばかり考え始める。」こんなふうに言われ、思い切って「バックパッカーは止め
ろ」と照美に言った。
 ところが…。どういうことになったかは本書をお読みください。

 時流を汲んで、テロ事案を巡って公安と刑事が協力し合ってことに当たるという珍しいケー
スを設定したアイデアはいいけど、せっかくの機会なのでスリーパーの牧田詠子やシーファー
ズの関係者などにもっと話をさせたり動かしたりしてほしかった。因幡のような人物像が全く
伝わってこないので存在感がない。 
                                                                                       (以上この項終わり)

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陽光に輝く鮮やかな柿の葉

2017年04月16日 | その他

ものみな萌える春に
 梅、桜、花もも、れんぎょうなど、この時期は一斉に木々や草花が咲いて、大抵の人は心騒ぎ
じっとしていられない。
 我が家の庭に植わっている柿の葉が柔らかな新葉を開き始めた。その鮮やかな軟らかい緑には
心奪われる。まもなく緑色がどんどん濃くなり、色艶のある硬い葉に育ってしまう。天ぷらにし
て食することもできるがもったいなく思う。

        

       

                   

                   

  これまで30年以上にわたって家庭菜園として賃借してきた畑が地主の都合で住宅地
 として売られてしまった。わずか10坪足らずの畑だが長年作ってきた土壌が無駄に宅
 地となってしまうのは寂しい。
  通告された時点ですでに作付けされていたブロッコリーやそら豆は急きょ自宅に移
 植した。5本のブロッコリーはすでに食されて姿はないが、そら豆の方は一部流山お
 おたかの森の三女の家に嫁入りし、残りは狭いプランターや鉢で育っている。背丈は
 60センチを越えた。

       

                   

       

   ついでながら今咲いている庭の花々。
   ラナンキュラス、黄色のフリージア(白と紫はこのあと)花ニラ、芝桜。
   まもなくモッコウバラとスズランが咲く。

       

       


                   

                      

       

                              (以上この項終わり)

 

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