読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

トマス・H・クック『死の記憶』

2018年07月15日 | 読書

死の記憶』(原題:MORTAL MEMORY)
          著 者:トマス・H・クック(Thomas H. Cook)
          訳 者:佐藤 和彦   1999.3 文芸春秋社 刊

   

 トマス・クックの長編小説11作目。ここの作品の3年後の『緋色の記憶』で人気を博した。記憶三部作
(死の記憶、緋色の記憶、夏草の記憶)が有名である。『緋色の記憶』は結末が切ない物語であるが、こ
の死の記憶も暗く切ない物語である。一人称で語る私(スティーブ・ファリス)がうじうじした男で、後
ろから蹴飛ばしてやりたいほどのこともあるが、クック特有の緻密な心理描写で次第に高まっていく不穏
な雰囲気が魅力ではある。衝撃的な結末であるが、真実を知った時の衝撃を思うとスティーブは知らなか
った方がよかったかもしれない。途中で登場した作家のレベッカ・ソルテロは結果的に罪な女である。

 私(スティーブ・ファリス)は9歳の時、母ドロシーと兄ジェイミー、姉のローラを殺人事件で亡くし
ている。犯人は父親ウィリアム・ファリスと目されており、事件直後逃亡した。私は母の姉に引き取られ
て育ち、今は建築士として妻マリー、息子ピーターと幸せな家庭を築いているが、事件の真相、犯人は
本当に父なのか、なぜ家族を殺したのか、ほかに女でもいたのだろうか、自分が殺しの対象にならなかっ
たのは何故なのか等々いつも暗い記憶と疑問が頭をよぎる。殺人の動機は現状に対する不安・不満にあっ
て、それは今自分が漠然とながら感じている焦燥感に通じている、ということは自分は父の血を引いてい
て…ということなのだろうか。クックはこうした心理状態の叙述が実にうまい。

 そんなある日作家と称するレベッカという女性が現れる。自分の家族を殺した人たちのことを調べてい
るという。私の父の事件を担当していた刑事を初め関係者からも事情を聴いているらしい。私はレベッカ
の調査結果を通じて新しい情報を得て再び黒い疑念が沸き上がってきた。何度もレベッカと会っているう
ちに彼女に惹かれていく自分を発見し戸惑う。なぜレベッカの調査に応じていることを妻のマリーに話さ
ないのか。マリーはスティーブが仕事と偽りレベッカと会っていることを薄々知っていた。マリーは不実
な私に絶望しピーターと共に自動車事故を装い自殺したのだった。

 レベッカとの調査は終わった。事件を担当した刑事の示唆で私は父親探しに出かけ、ついにアントニオ
・ディアスと名を変えた父が、スペインの片田舎で自転車店を営んでいることを突き止める。
そこで父親から事の真相を聞いた私の驚きといったら…。

 この先はお読みいただくしかない。

                               (以上この項終わり)
 

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