◇『影絵の騎士』 著者:大沢 在昌 2007.6 集英社 刊
紛う方なき大沢在昌の世界。異色のハードボイルドヨヨギ・ケン。2002年から2005年にわた
って「小説すばる」に連載されたとあるが、かれこれ15.6年前の作品とは思えない現実味のある
世界(つまりあまり変わっていない世界)が展開されている作品。
近未来小説。時代は2060年ころ?昔B・D・T(BOIL DOWN TOWN)で私立探偵(調査員)
をしていたホープレス・チャイルド出身の俺(ヨヨギ・ケン)は、愛するエミィを死なせてオガ
サワラに移住し失意に沈む毎日だったが、ある日友人のヨシオ・石丸の依頼で、ヨシオのワイフ
映画界のスーパースター、アマンダ・李の身辺警護をすることになり東京湾にあるムービー・ア
イランドにやってきた。
ムービー・アイランドは千代田区に匹敵するサイズの新興地、一時低迷しながらも復活した映
画産業のメッカとなって久しい。スタジオ・カンパニーをはじめ、コンテンツがらみの脚本家・
監督・俳優・スタッフなどがしのぎを削っている。
しかしこのムービーアイランドもロシア人・チチェン人などマフィアグループに牛耳られてい
る。アマンダはスタジオ・カンパニーをめぐる保険金詐欺の横行に批判を加えたところ脅迫され
た。また視聴率稼ぎのためにTVのクライムチャンネルで流される、やらせの犯罪実写のエスカレ
ートも目に余るようになってきた。
ケンは絶世の美女アマンダの依頼でもあり、警察の旧友亀岡や池谷らと連絡を取り合って保険
金詐欺の実態を探るうちにムービー・アイランドでの主導権を争うグループのボスと接したり、
アマンダの父でありアイランドの帝王とも称されるワン・コングと会い次第に争いに取り込まれ
て行く。しかし彼らの抗争の背景にはもっと複雑な支配構図が隠されていた。
理解しあえていたかに見えたアマンダも所詮ムービーという異世界の女王だった。道化と化し
たケンを支えたものと言えば人の信頼だろうか。すべての真相を知るケンに託された使命は、こ
れまでスタジオ・カンパニーにいいように使われてきた監督、脚本家、特殊効果、アクション・
コーディネータ、スタントマンなどの主権回復であった。
「俺はしばらくオガサワラに帰り、しばらくエミィのそばで過ごすことにした。」
(以上この項終わり)