◇『黒幕は闇に沈む(下)』(原題:AN ABSENCE OF LIGHT)
著者:デイヴィド・L・リンジー(DAVID L・LINDSY)
訳者:山本 光伸 1998.3 新潮社 刊 (新潮文庫)
下巻は事態がややスピーディーに展開する。
グレーバーはインフォーマント(情報屋)のラストからティスラーとビーザムが
犯罪情報課内の内部情報を流出させていたとの情報を得る。もう一人いると言う。
それはバーテルのことだろうか。
グレーバーが事態のほぼ全貌を伝えて調査を任せているニューマンとポーラに
アーネットへの依頼のことやバーテルが不審男と会っていたことを伝 えようとし
ながらも躊躇逡巡する。部内にまだ情報内通者がいるという状況がそうさせるの
か。そこまで信頼できないので逡巡するわけである。
下巻冒頭で謎の男バノス・カラティスの素性が明かされる。世界の諜報部門で
アメリカのCIA,イギリスのSI6と並んで優秀な諜報機関イスラエルのモサドの元諜
報員ヨセフ・ラビブである。アーネットの組織はバーテルが公園の噴水を煙幕に
ある男と会っていることを突き止めた。バーテルはカラティスから50万ドルの
報酬で仲間に入るよう誘われる。
1970年代において引退した諜報員の多くは過去に会得した技術・情報網・情報
を武器に私立探偵や調査情報事業を立ち上げ、右翼政権、独裁政権、警察国家、
武器密売人、ゲリラ組織、麻薬カルテルらを相手に取引を始めた。
カラティスも退役後同様の道をたどったが、現役時代と変わらずチーム・プレ
イヤーとはならず一匹狼として仕事した。彼は1980年代のほとんどの重大事件に
関与し莫大な利益を上げていた。麻薬、武器、情報これが収益源である。
カラティスはすべてを自ら綿密にプランを練り、利益を自分だけに集中するよう
仕切るところに特徴がある。
バーテルが深夜に諜報員と落合っていた自分のボートで爆発火災で死んだらしい。
妻のジェーンは動転しながらも最近のバーテルの不審な言動をグレーバーに打ち明
ける。ジェーンにも殺し屋の手が伸びるかもしれない。なんでも打ち明けている腹
心の秘書ラーラに事態の全貌を打ち明け、捜査の一端を担ってもらう。
そんなある夜、心の裡に互いに憎からず思っていた二人はようやく結ばれた。
クライアントと金の運搬役を担う航空機の操縦士を探し当てた。かれらの連絡シ
ステムを白状させたことでカラティスの構築した収奪システムを把握できた。
ネットワークの網目を中断し、金とクライアントを横取りすることに成功する。
メキシコ湾沿岸を舞台にする息もつかせぬ空中戦、活劇が見ものである。突如現
れたCIAと思われた男はカラティスのパートナーと目されるストラッサーだった。
ストラッサーはこれまでの二人の詐欺収益事業モデルのからくりを明かす。そ
して今やカラティスがストラッカーと進めたプランの儲け1億ドルのほか5人の
クライアントの投資金4千万ドルを横取りし高飛びしたと告げられる。ストラッ
サーも裏切られたわけである。
ストラッサーの打ち明け話からグレーバーが弟のようにかわいがっていたバー
テルが金のために仲間を裏切ったのではないかという疑念に苛まれていたのであ
るが、結局結局杞憂に終わったことでで安堵する。
グレーバーらの働きでカラティスに4千万ドルは渡らなかったが、ストラッカ
ーに持ち去られた。
そしてグレーバーらは警察部内には情報漏洩などの不祥事はなかったという
安心感もそこそこに上司の指示を得ずに勝手に捜査を続けた事情を監査室に調査
されることに。
まんまと金を持ち逃げしたカラティス。地中海のアマルフィ海岸に面する別
荘で愛人のジェィルとラウンジチェアに横たわり、楽しい時を過ごしていたの
であるが…、それは束の間の幸福感だった。
読者もこの思わぬ結末に驚く。
私見ながら『黒幕は闇に沈む』という題名は作品内容と少しずれているかも。
原題のAbsence of light「光の欠如(あるいは不足)」は人間の品位という光の
欠如したカラティスらに対する糾弾を意味しているのかもしれない。
訳者はこの作家の二つの特徴を「精緻な背景描写」と「人間性の暗部に対す
る分析力」としている。やや冗長に感ずる背景描写と心理解説がプロットの深
みを増している。
(以上この項終わり)
◇『黒幕は闇に沈む』(上)(原題:AN ABSENCE OF LIGHT)
著者:デイヴィッド・L・リンジー(David L.Lindsey)
訳者:山本 光伸 1998.3 新潮社 刊 (新潮文庫)
アメリカの警察小説。
著者はテキサス州ヒューストン警察の事務職に就いて執筆活動を行っており、
警官の連帯意識、権力争い、上司の権威主義など警察組織の描写にリアル感が
ある。多分日本の警察組織にはないと思うが、ヒューストン市警の刑事部に犯
罪情報課という組織があって、犯罪を未然に防ぐために日頃からいろんな組織、
個人からあらゆる情報を集め、犯罪の動向を分析し殺人課や強盗課などに引き
継ぐ。
本作の主人公マーカス・グレーバー警部は犯罪情報課の中枢として課内を仕
切っているが、妻のドーレーとの間に双子の息子をもうけたものの、二人が成
人し結婚したあたりから妻との間に亀裂が生じ、妻は男と駆け落ちしてしまっ
た。今は男やもめの寂しさを託っている。
突然捜査官の一人アーサー・ティスラーが死んだ。自殺か事故死、他殺か。
今手掛けている案件と係わりがあるのかどうか。パートナーとして動いていた
ディーン・バーテルは関連を否定する。
しかしグレーバーはバーテルの表情に不審な感じを受け配下のポーラとケイ
シーにティスラーとバーテルを徹底歴に調べるよう指示する。
ところが今度は犯罪情報課組織犯罪班の班長ビーザムが釣りの最中に心臓発
作で死んだ。他殺も疑われる。ビーザムも絡んでいたのか。グレーバーも上司
のウェストレイトも事態の深刻さに動揺する。
元政府機関諜報部員のアーネットが創設した調査会社に依頼し見張りを付け
ていたバーテルが監視の 目をくぐり年配の男と会っていた。
実はバーテルはパノス・カラティスという謎の男から多額の報酬を餌に、な
にやら大掛かりな犯罪計画の片棒を担わされていた。しかしカラティスはグレ
ーバーの捜査手腕に密かに恐れていた。
(以上この項終わり)
◇ 東伊豆の今井浜海岸を描く
maruman vifArt F0 s20VA
40年ほど前に一度訪れた東伊豆の今井浜を久しぶりに訪ね浜辺の光景を堪能しました。
気温も27度くらいあって数人のサーファーが楽しんでいました。
せっかくの機会なので海岸の景色をスケッチし彩色もしました。(F0=180×145mm )
遠景の島は新島です。ホテルの居室(8階)からの構図なので展望台からの景色と言っ
た感じです。荒れてはいない海とはいえ結構な波があって、岩に当たって砕けた白い波
がうまく表現できなくて残念です。水深の関係で遠方の海の色は群青色で近場はやや緑
色です。これももう少し強調した方がよかったと思います。
(以上この項終わり)
◇『シンデレラ』(原題:Cinderella)
著者:エド・マクベイン(Ed McBain)
訳者:長野 きよみ 1993.3 早川書房 刊 (ハヤカワミステリ文庫)
エド・マクベインの作品は昔「87分署シリーズ」シリーズを随分夢中になって
読んだが、これは「ホープ弁護士シリーズ」第8作目。
発端の殺人事件はともかく話が幾重にも重なり、2・3ページごとに3人称で
始まって…。ストーリーも洒脱な会話や表現で楽しめるが場面が飛ぶので追うの
も忙しい。舞台は麻薬天国マイアミ。
発端となる殺人事件。ホープ・マシューが調査を依頼していた探偵オットー・
サマルスンが射殺された。不倫現場を押さえる単純な仕事だったが、事務所の書
類を調べるともう1件仕事を抱えていたことが分かった。不倫調査の方は殺され
るいわれはなかったが、もう1件の方はラーキンという地元の船舶会社の経営者
が依頼人で、娼婦に金のローレックスを盗まれたので所在を追ってくれという依
頼だった。
女の名は自称シンデレラ。アンジェラまたはジェニー。
一方ジェニーの方はルイース・アマロスという麻薬の売人と酒場で知り合い、
家に連れて行って麻薬を吸わせてもらった。彼女はルイースの家に4キロのコカ
インがあることを知り、知り合いの理容師ホリスターと共謀しコカインを奪う。
ルイースはドミンゴとエルネストというキューバ人の二人組にジェニーを行方
を追わせる。
ジェニーはロサンゼルスで女優になろうとしたが諦め売春婦になった。いろん
な名前を持っていて、ロスに見切りをつけて実入りが良いと言うマイアミにやっ
てきたのであるが、二人の妹は姉の居場所を知らなかったためにドミンゴらに
殺されてしまった。
一方、ルイースの弟ジミーは自分が兄貴の時計を取り戻してやるとシンデレラ
探しを始める。
そのころ4キロ26万ドルのコカインを手に入れたシンデレラことジェニーは
コカインの買い手を探していた。ドミンゴとエルネストはコカインの売り手がジ
ェニーかもしれないと疑いつつも、ルイースから金を引き出す算段をする。一方
ジミーもこの取引で稼ごうとする。
ここでシンデレラとドミンゴらが繋がった。
ホープ・マシューは分かれた妻スーザンとよりを戻そうと思うが思春期の娘ジョ
アンナのことを思って心が揺らぐ。本筋とは関係ないが一息継ぐエピソード。
ホープはコカインの取引現場に出向く。取引現場ではジェニーが札を数えてい
るうちに待ち合わせ時間が来てしまって、ドミンゴがはいってきて剃刀でのどを
切られた。ジェニーの相棒のヴィンセントはドミンゴを撃った。エルネストも撃
たれた。
ヴィンセントはちょうど来合わせたホープに足払いを食らって捕まった。
終盤は一気に事態が急展開して殺し屋などもつかまったり殺されたりしたが、
薬の売人、その元締めなどはたぶん証拠もないからそのままなのだろう。麻薬天
国マイアミのことである。悪人ほどよく眠る。
シリーズ続く作品は「長靴をはいた猫」、「ジャックが建てた家」、「三匹の
ねずみ」、「Mary,Mary」とのこと。
(以上この項終わり)
◇ 秋の果物はりんご、ペアーなど
clester F4
先週の水彩画教室では秋の果物を描きました。
秋の果物と言えばリンゴ、ナシ、ぶどう、柿、早生のミカンなどがあげられます。
今回は西洋梨(ペアー)ラフランスが加わりました。
先生の注意事項はリアルな写実よりも新鮮な果物のおいしさを引き出すように、
でした。さて…。
リンゴや巨峰と一緒にあるのはみかんです。
(以上この項終わり)