読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

『モンテ・クリスト伯」(4)』

2021年09月27日 | 読書

◇ 『モンテ・クリスト伯(4)』(原題:Le Conte de Monte Crist)

 著者:アレクサンドル・デュマ(Alexzandre Duma)

  

  この巻は概ねエドモン・ダンテスを陥れた会計士のダベンポート、婚約者メルセデス
の従兄でのちに彼女と結婚したファレル、問答無用で監獄に送り込んだヴィルフォール
とその家族に対して復讐の網をめぐらし、それを絞り込んでいく場面に終始する。

 ヴィルフォールの妻と子を暴れ馬から救ってきっかけを作ったモンテ・クリスト伯は
彼に心服するヴィルフォール夫人に対し薬というものの性格、つまり薬として人を助け
ることもあるが量によって死を招くこともあることを特にヒ素を例に挙げて、さりげな
く毒薬としての使い方を教えた。ヴォルフォールの妻が憎んでいる前妻の娘、ヴァラン
ティーヌや義父(ヴィルフォールの父)殺害を企てることに布石を置いたのである。
伯爵は「種は蒔いた。芽を出さないはずはない」と嘯く。

 ヴァランティーヌはマクシミリアン・モレルと相思相愛の中である。ヴィルフォール
夫妻は彼女とフランツ・デビネー男爵と結婚させようとしている。財産も名声もあって
良縁と思っている。フランツはヴァランティーヌの祖父(ヴィルフォールの父)の仇敵
だったデビネー将軍の息子であったため、フランツと結婚させるならば、自分の90万フ
ランという巨額の遺産はヴァランティーヌには残さず慈善病院に寄付すると言った。
 ヴァランティーヌ夫妻は慌てる。

 ある日伯爵は内務省の公務通信の信号手を買収し、ある情報を内務省に送る。内務省
の手下からドン・カルロスがスペインに帰還したとの偽情報を受け取ったダングラール
夫妻は手持ちのスペイン国債600万フランを売り払う。50万フラン損したが、株式取引
所ではいち早く売り抜けた先見の明を羨んだが、翌日になって偽情報との新聞記事が出
て、スペイン国債は暴騰。ダングラールは100万フランの痛手を負った。

 そして最後の「夢」という章ではかつてヴィルフォールの愛人であったダングラール
夫人との間に生まれた嬰児を殺害し今は伯爵の屋敷となっている庭に埋めたという悪事
を暴露し、この犯人を告発しようとする劇的シーンを設けた。この嬰児は死んでおらず、
後の伯爵の家令となったベルツッチオが救出し育てた。のちのアンドレア・カルヴァン
ティである。
                           (以上この項終わり)

  

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佐々木譲『地層捜査』

2021年09月20日 | 読書

◇ 『地層捜査

 著者:佐々木 譲2012.2  文藝春秋社

  

  警察小説の名手佐々木譲らしい典型的な刑事小説。
  小説の舞台は東京新宿区荒木町。手練れ刑事の捜査経過が
丁寧に綴られる。とりわけ、殺人事件の起きた荒木町の現在の
姿、戦後の姿が克明に綴られて、題名通り古い地層を一枚一枚
めくりあげるような記述が執念深い捜査を裏打ちする。

 「四谷荒木町老女殺人事件」という15年前の未解決事件が再
捜査されることになった。殺人事件の公訴時効が廃止されたか
らである。
 警視庁捜査一課に未解決事件捜査を担当する特命捜査対策室
が置かれた。上司に反抗的言辞を投げたため謹慎中であった水
戸部裕警部補は謹慎解除と引き換えにそこに配属され、唯一の
相方として、四谷警察署を退職後相談員となっている加納良一
(退職時警部補)と一緒に捜査に当たることになった。

 加納元警部補は当時事件捜査本部にいた。当時の捜査報告書
を丹念に読み込み、土地勘のない水戸部は加納と一緒に荒木町
内を丹念に歩き回り、当時の関係者から改めて事情聴取するの
であるが、調書には載っていない些細な記憶の流れ出しに食ら
いついて周辺状況を手繰っていく。

 事件があった荒木町は料理屋、茶屋、芸者置屋といったいわ
ゆる三業地として賑わった。殺人事件の被害者は元芸者置屋の
女将だった。バブルの前後この地も土地開発の舞台となって、
ディベロッパーが蠢いた。もちろん暴力団も関与することが多
かった。そんなことから事件関係者つまり芸者、料亭・料理屋
の料理人、和菓子屋主人、芸者置屋主人、不動産屋、ディベロ
ッパーの元役員、建設会社社長、暴力団組員、刑事の情報屋、
アパートの住人などから再聞き取りを行った。結果的には18年
前の事件解決と一緒に失踪したとされていた元芸妓の殺人事件、
加納の行きつけだったスナックのママの元夫の殺人事件など複
数の未解決事件も掘り起こして解決した。地層捜査の大成功で
ある。
                  (以上この項終わり)

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米澤 穂信の『Iの悲劇』

2021年09月16日 | 読書

 Iの悲劇

       著者:米澤 穂信   2019.9 文藝春秋社 刊

 

  連作短篇集である。
  Iとは人名略号と思いきや某市Iターン推進課のIのことだった。
6年前に無人となった村にを再生させようとするプロジェクト、担当
課は「甦り課」というが、課長を含め職員は3人しかいない。
 去年採用されたばかりの観山遊香という女性とやる気のない五十男
の課長西野秀嗣。そして厄介事は一人で背負わなくてはならない中堅
職員万願寺邦和。(以上序章)

 プロローグには「そして誰もいなくなった」とある。
いまや限界集落はどこにもある。たっぷりあるのは自然だけで、働き
口もないところに誰が移住するのか。何か問題を抱えた人たちが市や
町の助成策を当てにして移り住むのだが…。

「軽い雨」
 最初の2家族が隣同士になって、それぞれに騒音など不満が出て、
作為的な失火事件まで起きてしまう。安久津さんはラジコンが趣味
の久野さんに、庭で遊ぶ子供には危険だと反感を抱いている。久野
さんは連日連夜重低音の大音響音楽を流すので安久津さんに反感が
あり、「甦り課」に苦情を持ち込んでいる。
 そんなある夜バーベキューをしていた安久津家の2階に火の粉が
舞い上がり火事になった。部分失火で済んだが、普段は眠っている
だけの西野課長が久野さんのラジコンを使った失火誘導のからくり
を指摘しお灸を据えた。第一陣の2家族が一挙にいなくなった。

「浅い池」
 目標の10家族がそろった。開村式では市長が得意気な挨拶をする。
年若い青年が始めた養鯉池から鯉が盗まれたと大騒ぎ。万願寺と観山
が行ってみると網を張って鍵までつけたと言っていた養鯉場の網は天
井には張っていなくて青天井だった。鳥の餌場になっていたのだ。恥
じ入った山野さんは起業を諦め村を去った。

「重い本」
 ある日息子がいなくなったと「甦り課」に立石さんの母親から電話
が。警察に通報する前に相談したという。日頃息子は隣の自称歴史家
の久保寺さんの家に出入りし好きな本を読んでいいと言われていた。
しかしこの日は久保寺さんは戸締りし出かけて留守だった。息子はど
こに行ったのか。
 万願寺と観山は家の後ろ側に旧住民の掘った防空壕の入口を見つけ
る。子供はこうした隠れ家が好きなのだと分け入ると、本の下敷きに
なった子供を発見。重い久保寺さんの蔵書が崩れ落ちたらしい。子供
は助かったが、救急車が到着するまでに40分掛かった。立石さんは
「病院に運び込まれるまでに2時間かかるところでは子供を育てられ
ません」と言って去った。久保寺さんは責任を感じて村を去った。

「黒い網」
 超潔癖症の河崎さんの奥さんは、排気ガスや、アマチュア無線のアン
テナからの電波を拒絶し近所としっくりいっていない。
 長塚さんが音頭を取って移住者の懇親を深めるために秋祭りを催すこ
とになった。珍しく移住者の全員が集まった。潔癖症の河崎さんの奥さ
んも。その河崎さんがバーベキューのキノコを食べて食中毒症状を起こ
し倒れた。命に別状はなかったが、なぜ河崎さんだけが中毒したのか。
調べた結果カキシメジという毒キノコは1個だけという。きのこを採っ
てきた上谷さんは責任を感じて村を去った。
 それにしてもなぜ河崎さんの奥さんは毒キノコを選んだのか。この
謎は焦げたものには手を出さないという妻の習性を知っていた河崎さ
んのご主人の仕業だと分かった。1個のカキシメジだけ焼けないよう
にしておいて奥さんの目の前に置いたのだ。度を越した潔癖症に辟易
していた河崎さんはお灸を据えようと図った結果らしいが、普段仕事
をしない西野課長にこっぴどくお灸をすえられて村を去った。これで
また2家族減った。

「深い沼」
 萬願寺君にはシステムエンジニアをやっている弟がいる。亡くなっ
た父親の三回忌をやるが都合はどうかと電話する「忙しい、行けない。」
という。そして役人に見切りをつけて東京に来い、働き口はいくらで
もあるという。蓑石のような限界集落などどこにもあるが、その再
生など消耗戦で、税金を呑み込む深い沼のようなもんだという。「そ
うかもしれないが、俺はここでやっていく」と言って萬願寺は電話を
切った。
 
「白い仏」
 蓑石には廻国僧の円空が彫ったという仏像があるという。蓑石復活
の立役者を自称する長塚さんが箕石復活の目玉にしようと若田さんに
公開を迫るが、移住者若田さんは先住者檜葉家が置いていった預かり
ものだからと応じない。長塚さんに甦り課の介入を迫られて萬願寺と
観山は残された記録調査に出かけるのだが、異常現象が起きて…。
   いつの間にか長塚がレプリカと置き換えていたのだとか。窃盗事件
相当の出来事でまたも西村課長が因果を含めて1週間以内に退去とい
うことになった。白石さんは蓑石を去る前にこの里は祟られていると
言った。 
 
終章「Iの悲劇」
    白い仏の一軒は
 束の間の甦りだった。、
 そして誰もいなくなった。



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インガー・アッシュ・ウルフ『死を騙る男』

2021年09月09日 | 読書

◇ 『死を騙る男』(原題:THE CALLING)

  著者:インガー・アッシュ・ウルフ(Inger Ash Wolfe)
  訳者:藤倉 秀彦  2011.1 東京創元社 刊

   
 アメリカの警察小説はずいぶん読んだが、カナダの警察小説は少ない。
 この小説はカナダケベック州の片田舎の女性署長と数少ない刑事の連続
殺人への取り組みが主体であるが、片田舎とはいえなかなかの分析力と推
理力を発揮してテンポよく捜査が展開されていくので小気味よい。事件は
宗教がらみで動機も殺人者と被害者の接触方法がなかなか捉えられなくて
苦労するのであるが捜査陣の話と殺人者の話がほぼ交互に語られて、それ
なりに分かり易い。

 カナダ・オンタリオ州のポート・ダンダスという田舎の警察署。署長が
引退してもいつまでたって後任が発令されずヘイゼルという61歳の女性警
部補が事実上の署の代表となっている。刑事は署長も入れてたった3人。
 そんな中、立て続けに殺人事件が発生、ヘイゼルは州警方面本部に掛け
合って応援刑事を派遣してもらう。ウィンゲート刑事は年若いが優秀だっ
た。

 第一の事件の被害者はディーリアという女性がん患者。サイモンという
宗教者である殺人者は約束通りの手順でディーリアを殺し次の予定者の住
む町に向かう。第二はマイクル・アルマーという男性で多発性硬化症患者。
ハンマーで手や足、目や口、頭蓋骨など顔全体を徹底的に潰されていた。
 ヘイゼルはカナダ全土に警報を発する。目に見えない犯人をどうやって
追い詰めるのか。

   原住民居留地で自殺とされた肺がん末期の患者の死因調査に行ったウィ
ンゲートはその娘がちらりと見たという犯人の姿を聞き、ようやく犯人の
実像に迫ったと確信する。しかしその間にも新しい殺人が行われていた。

 サイモンにはスケジュールがあり、全能の神との約束で19人をその元に
送る。あと4人手に掛けなければならない。危うく命を落とす危機をむか
えながらあと一人までこぎつける。狂った信仰が生み出した論理。

    ヘイゼルの最大の弱みは、孤独であることと重度の背骨痛を抱えてい
ることである。手術が必要なのだが、同居の母は高齢なので離婚した元夫
に介護の相談をしたりするほど頼れる人がいない。独立独歩の姿勢が固く
こんな重大連続殺人事件でも、州警察や連邦警察に応援を頼んだりしない。
絶好の機会とばかり「所轄」で解決しようと頑張るのである。

 紀元前のギリシャ語聖書の世界では禁忌とされた口承依存部分につなが
るシラブル殺人の動機と連続性の解明にAIに助けを求め成功する。多分こ
んなものに頼らないでも事件を解決できただろうと思うほどこのチームは
優秀なメンバーがそろっているのだ。
 ヘイゼルを初めその友人レイモンド、若いが優秀なウィンゲート、鑑識
のスピア、フランス系刑事のセヴィニーなど人物造形が優れ実に存在感が
ある。もちろん対極にある殺人者と彼と契約を結んだ被殺害者もその背景
を含め多様な状況が生々しく浮き彫りにされる。

 そして終盤近く、読者も息をのむ驚愕の瞬間が訪れる。犯人からヘイゼ
ルへの挑戦状ともとれる封書が届く。その中身は…。
 母を人質に取られた焦燥の一日一日。方面本部によって指揮権を奪われ
たヘイゼルは署員の一致した支持の下で母の幽閉場所発見と救出に奔走す
る。
 そんな中犯人は警察にヘイゼルを訪ね母親の生死を知りたければ一緒に
来いと車で連れ出す。ヘイゼルは瀕死の母親に会えたし犯人確保できた
(しかし自殺体で)。緊迫した場面での両者の丁々発止が見ものである。
 しかし勝負から言ったら犯人の勝ちである。警察は完全に彼の手の内に
あって主導権を握られていた。宗教上の確信犯はこわい。
 欧米の警察ものとしては傑出の作品であろう。
                      (以上この項終わり)
 
 

 

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上高地三部作・明神池への木道

2021年09月06日 | 水彩画

上高地三部作・明神池への木道
 
    Arshes     F6    (rough)

   上高地河童橋から明神池までの散策路は木道です。40分くらいかかります。
ここから明神橋を経て梓川沿いに河童橋まで戻ります。木道はハイシーズン
の割に空いていました。
 川沿いの澄み切った空気の中、カラマツの林を散策するのは気持ちの良い
ものです。カラマツ林の木道の先を歩む二人連れのハイカーがポイントでし
た。

                       (以上この項終わり)

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