読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

綿矢りさ『ウォーク・イン・クロゼット』を読む

2016年05月26日 | 読書

◇『ウォーク・イン・クロゼット』 著者:綿矢りさ  2015.10 講談社 刊

 

  作者綿矢りさは2004年に『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞した。20歳の若手作家として注目された。
私個人としてはあまり高く評価できなかった。この作品は「群像」2015年8月号に掲載されたとある。
「いなか、の、すとーかー」も併せて単行本で出された。

 作者は32歳なので若手と言えるかどうかわからないが、作品では20代後半の二人の独身女性の友
情や付き合っている男性たちとの日常の姿が描かれている。「パネェ!」などという言葉がとびだして
「ん?」とつかえてしまう。「ガーリー」とか、フアッション、化粧などはもちろんやたら横文字が多く、
当世の若者言葉に疎い高齢者は戸惑うばかり(ちなみにパネエとは半端じゃねえの略語らしい)。
 今どきの若者の生活実態と心の裡を垣間見る思いがして、それはそれで貴重なものではあるが、「私た
ちは服で武装して、欲しいものを掴み取ろうとしている」(p136)女性たちの価値観にはやはりついて
いけないし、複数の男たちと別々の付き合い方をして平気でいられる神経にも同感できないので、そんな
中でも、男に出産を拒否された友人が、シングルマザーとして生きていく覚悟を支持し、それを懸命に助け
ようとする姿に、「あ、よかったね」という気持ちにはなっても、その後の展開はなく、言いたいことも伝わっ
てこない。残念ながら現代若者風俗一断面紹介という受け止め方しかできなかった。

                                    (以上この項終わり)

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ピータ-・メイの『忘れゆく男』

2016年05月24日 | 読書

◇『忘れゆく男』著者:ピーター・メイ(Peter May) 
        訳者:青木 創    2015.3 早川書房 刊 (早川文庫)

   

   ピーター・メイの<ルイス・トリロジー>の第二作。第一作『ブラック・ハウス』については読後感を
  既述したところ。完結編第三作は2013年『The Chessmen』として刊行された(邦訳は未詳)。
   
   主人公フィン・マクラウドは仕事に疲れ果てて、勤務するエディンバラ市警を辞めた。また関係が冷え
  切っていた妻ドナとはついに離婚する羽目になった。フィンは生まれ故郷のルイス島に戻る。

   物語はまたも死体の発見から始まる。湿地遺体と呼ばれる特異な死体は、泥炭湿地の作用で腐敗が
  抑えられる。死体はおよそ50年余り前に殺害された10代後半の男性。プレスリーのタトゥーがある。D
  NA照合の結果、フィンの幼馴染で元恋人のアーシャリーの父トーモッド・マクドナルドと血縁関係がある
  ことが分かった。ところがトーモッドは重度の認知症で、過去と現在の記憶、見当識がままならず、捜査
  は進まない。フィンは父母の家を修理しながら真相の解明に奔走する。

   物語はフィンの関係者からの聞き取り調査とトーモッドの一人称で語られる現在と過去のまだらな記憶
  回想から、状況がおぼろながら明らかなっていく。フィンが関係者や記録をたどって調べていくにつれて、
  トーモッドと弟のピーターが幼少時に父母を亡くし、教会の孤児院から養子に出されて、奴隷同然の過酷
  な少年時代を送っていたことがわかった。二人は町の悪ガキと狭い橋桁を渡るという肝試しをし、相手は
  橋桁から落ち死ぬ。恨みを持ったその弟たちはトーモッドとピーターを付け狙い、ついにピーターは首を
  切られるなど惨殺される。トーモッドは死者の名を騙り島を抜け出す。そしてドーモットはピーターを
  殺した兄弟に復讐するのだが、残ったもう一人の弟は今なお執拗にトーモッドをつけ狙っている。

   アーシャリーを捨ててドナと一緒になったフィンは、今になってつらい思いをさせたアーシャリーに済
  まないと思っていて、その父の疑いを晴らすために奔走し、ようやく彼女の信頼を回復したかに見えたの
  もつかの間、思ってもいなかった理由で彼女はまたも遠い存在に。「あなたを知っているつもりだったけ
  ど、わからなくなった。いまはもう」という言葉で一条の細い陽光も遠のく。果たして二人に和解の時は
  来るのだろうか。ドーモットはフィンの調査のおかげでかつての恋人、今は元女優のケイトと再会し、幸
  せを掴んだように見えるのだが。

   さて最終章に至り急テンポでサスペンスフルな場面が続き、復讐の応酬戦は終わりを告げる。第三作が
  楽しみだ。

                                        (以上この項終わり)
   
 
  


  
  

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蔵の街とちぎで旧商家を描く

2016年05月21日 | 水彩画

 蔵の街とちぎで 「横山郷土館」を描く

   
    CLESTER F8 (380×455)

    江戸時代、1617年に徳川家康の霊柩が日光に改葬され、朝廷から勅使が東照宮に毎年参向するようになった。
   この勅使が通る道は例幣使街道と呼ばれる。栃木市はこの例幣使街道の道筋にある。
    さて明治時代。廃藩置県で一時栃木県庁が置かれた栃木市は、自由民権運動の拠点となることを恐れた、時の県令
   三島通庸によって1883年県庁舎が宇都宮に移され僅か13年で県の中心地ではなくなった。しかし例幣使街道の宿場
   として人と物の集散地としての地位はしばらくゆるぎなく、市内を流れる巴波川(うずまがわ)両岸には豪商の白壁の土
   蔵が立ち並んだ。

    今週18日に水彩画グループで川越などと並び小江戸と謳われる「蔵の街とちぎ」を描こうと写生に訪れた。描きたい
   場所は中心部の旧い商家、旧栃木県庁舎・県庁堀、巴波川沿いの土蔵群、横山郷土館などいくつもある。「とちぎ蔵の
   街観光館」にある「太郎庵」で蕎麦を食した後、それぞれ好みの対象に取りついて3時間ほど集中して絵を描いた。

    当日は28度くらいの夏日で、熱中症を心配するほどの暑さに閉口した。駅の日陰で作品(もちろん仕掛品)の合評会
   を行った。この作品は翌日完成させたものである。横山郷土感は元麻問屋であった横山家の店舗で、左半分は併せて
   営んだ銀行業箆店舗になっていた。奥には広壮な庭園や迎賓館があり、公開されている。
    建物は両袖切妻造の貴重な構えで、国の有形文化財となっている。
    中心部の風格のある赤松が豪壮な建物の存在感を際立たせている。両脇の土蔵は宇都宮で産する大谷石造である。
    太陽光線は時々刻々と位置を変える。ある時点でその瞬間を切り取って影を定める。このタイミングが難しい。
    人物は大勢の団体客では描きにくいので、抽出した3人のみ。松の独特の枝葉には、特徴を出すのにいつも苦労する。

    次は旧県庁と県庁堀を描いてみたい。

    (以上この項終わり)

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カーリン・アルヴテーゲン『裏切り』

2016年05月15日 | 読書

◇ 『裏切り』    著者:カーリン・アルヴテーゲン(KARIN ALVTEGEN)
                          訳者:柳沢由実子
           2006.9 小学館 刊 (小学館文庫) 

  
 
  北欧の新進気鋭のミステリー作家カーリン・アルヴテーゲンが2003年に発表した三部作第3作目
 である。デビュー作が『罪』、第2作が『喪失』である。いずれも傑作で、心理サスペンスの女王マーガ
 レット・ミラーやパトリシア・ハイスミスの後を継ぐ作家と高い評価を受けた。

  物語は一組の夫婦を軸に展開するが、そこに登場する一人の男が重要なカギを握る。題名通りこ
 の作品の主題は人の裏切りである。
  登場人物のだれもが裏切りの経験がある。
    妻を裏切って愛人を作った男、夫の裏切りに仕返しをしようと若い男を求め裏切りを果たす妻、愛人
 を裏切った男と裏切られた愛人、最愛の女に裏切られて究極の裏切りを図る若者。
  裏切りを克明にかつ生々しく描いて物語が進む。女性らしい視点からする心理描写と会話が、恐ろ
 しいほどリアルに迫って来る。妻を裏切った男が、妻に裏切られていたことを知ったときに生まれた身
 勝手な感情・心理が妙にリアルで真に迫る。
                                   (以上この項終わり)

 

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初夏の鎌倉を訪ねて

2016年05月13日 | 里歩き

初夏の鎌倉
 5月8日というと初夏か、はたまた晩春か。気分的にはまだ初夏というには早い気がするが、
24節気の立夏が5月5日だというので、正式には初夏である。確かに出かけた5月8日は気
温が最高24度になって、まさに初夏の陽気であった。
 鎌倉は何度か行っているがまともな観光はしていない気がする。鶴岡八幡宮、建長寺、明
月院、円覚寺、大仏殿、銭洗い弁天…。いつ誰と行ったかもはっきりしない。ハイキングコ
ースも歩いた。記憶はすでに茫洋としている。

           
  懐かしい江ノ電                     長谷寺前の旧旅籠屋   

 今回は由比ガ浜に近いところに宿をとったので、荷物を預け長谷寺へ。ここは初めてである。
絵を描くつもりで行ったが、人が多くとても絵を描く雰囲気でなかった。

               
  長谷寺山門                                   三姉妹?        
           
     地蔵堂                 本堂           眺望散策路から由比ガ浜と市街地を
                
  アジサイはまだ蕾です        散策路                                経堂脇の竹林
                
    弁天窟入り口            和み地蔵         ユニークな土産物屋さん

 大仏殿はこの前せいそうが終わってきれいになった。潮風と酸性雨で相当痛んでいたらしい。
 大仏様は外国人にも人気のようである。与謝野晶子の「鎌倉や御仏なれど釈迦牟尼は美男に
 おわす夏木立かな」の歌碑がある。

                 
   大仏殿                大仏さま                        与謝野晶子歌碑

 次いでその足で江ノ島電鉄をと横切って海岸へ。右へ向かうと稲村ケ崎・七里ガ浜。左が由
 比ガ浜。
 夏日に近い気温とあって海水浴、サーフィンを楽しむ人が結構いる。

        
 端午の節句の名残り  由比ガ浜海岸

 翌日は江ノ電に乗って鎌倉駅へ。3分で着く。まずは鶴岡八幡宮。往きは若宮大路、帰りは
小町通り。もちろん人出は小町通が圧倒的に多い。とくに鎌倉は修学旅行のメッカなので高校
生が多い。また外国人も多い。ここで絵を3枚描いた。

              
             絵心を誘う酒屋さん                      鶴岡八幡宮の太鼓橋         ぼたん園          
             

             
 八幡宮山門から本堂を望む                 絵に描きました            小町通り

 駅近くの本覚寺も訪ねてみようと相棒と話していたのだが、雨が落ち始めたのでやめた。
我が家からDTDで2時間ちょっとで来られるのでまた来ればいい。

                              (以上この項終わり)

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