読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

やっと手にした佐々木譲の『密売人』

2012年05月26日 | 読書

密売人』 著者:佐々木 譲  2011.8.8 角川春樹事務所 刊(ハルキ文庫)

 昨年8月に第1版が出て、リクエストをしたが後れを取ってしまって、50番目くらいでやっと手にした佐々木譲
の新作。
 連作北海道警もの。おなじみの佐伯警部補、津久井巡査部長、小島巡査と新米巡査の新宮などが登場する。

 秋も深まった10月下旬の、ほとんど同時期に函館・小樽・釧路で三つの死体が発見される。個別に捜査に当
たっていた津久井などは、佐伯、小島などと話しているうちに不審死亡者が警察捜査員の協力者(エス)である
ことを知ることになる。そして事件が暴力団の摘発にからむお礼参りではないかと疑い、関連事件を調べを進め
ていくうちに、なんと捜査員が個人的にしか知らないはずの情報が殺し屋の手に渡ってらしいことに気付く。と
いうことは捜査員の身辺調査の要である警務部の幹部が絡んでいるとしか考えられない。

 佐伯・津久井らが推理を進めていくうちに、ことの発端は6年前に警察庁が出した広域暴力団一斉摘発指令
に応えるために、むりやり微罪ながら幹部を逮捕するために、道内屈指の暴力団の内部情報と引き替えに警
察捜査情報、しかもあろうことか警務が握っている捜査員個人情報である協力者(エス)リストなどを差し出し
たことにある。その元は警務第一課長しかあり得ない。
 殺された3人のエス。かつて佐伯のエスだった米本の家族が危ない。米本を追いかける殺し屋。なんとか保
護しようと駆けまわる佐伯ら。結局3人の殺し屋はすんでのところで逮捕できた(緊迫場面あり)。
 殺し屋グループにあわや殺されかかった津久井の元上司佐伯は、警務部幹部の警務第一課長と刺し違え
る覚悟で対面する。
 「・・・私はその情報がどういうラインで流れたのか、偶然知ってしまいました。・・・もし公判に証人として呼ば
れることになれば、全て語ろうと思っております。課長には礼儀としてそれをお知らせしておくべきかと思いま
して」

互いに憎からず思っている小島百合巡査は、そんな佐伯を「おつかれさま」とねぎらう。 
 
 私にはジャズの趣味はないが、高校時代にジャズをやっていた佐伯が、小島百合と溜まり場のバ―「ブラック
バード」で、キールというカクテルを飲みながら数年前NYで亡くなったアルトサックス奏者の名曲を聞くシーンが
ある。作者佐々木譲自身がこの方面の趣味がないと書けないような熱のこもったページがしばしホッとさせる。

(以上この項終わり)

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真保祐一の『繋がれた明日』

2012年05月24日 | 読書

◇『繋がれた明日 著者: 真保 祐一  2003.5 朝日新聞社 刊

   


    先に貫井敏郎の『空白の叫び(上・下)』をご紹介したが、これは少年犯罪の扱いについての問題提起であった。

   真保祐一の本書は、19歳で自分の女につきまとった男をナイフで刺し殺したために、5年から7年の不定期刑を
  宣告され、少年刑務所に入った中道隆太という男の話。19歳で入り今26歳、仮釈放されたが人殺しという取り
   返しのつかない罪を犯したという反省はあるが、相手が先に手を出したんだし、し自分だけが悪いわけじゃない
  とか、先に手を出したのは隆太だとうその証言をした目撃者を恨むなど、多くの不満を持ったまま出所する。
   親身になって心配する保護司や就職先の解体業の社長、同僚など理解ある人に出会えたものの、昔の事件を
  報じた新聞のコピーをバラまかれたり、妹がつき合っていた男性が事情を知って彼女から離れていくなど、なか
  なか立ち直ることが出来ない。そんな中で被害者の母や被害者とつき合っていた女性からいやがらせを受け、
  前科者として中傷を受けたりしてやけになりかかるが、保護司の大室に諭され次第に立ち直っていく。

   少年刑務所とは20歳未満の男性少年受刑者の収容施設。実際は26歳未満の成人受刑者も収容されている。
  したがって少年受刑者は余計な刺激と影響を受ける。施設を出てからもそうした連中が連絡して来たりしてなか
  なか過去から脱却出来ない事情は何んとなく理解できる。余程意志強固でないと簡単には立ち直れないのだ。
   中道隆太の場合、最後は殺した男の母親が錯乱し、罪をなすりつけようとして事件を起こしたことをきっかけに
  立ち直りをするというまともな話で終わっている。

  (以上この項終わり)

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我が家の金環日食

2012年05月21日 | その他

◇ 曇り日の金環日食
  金環日食が見られるのは25年ぶりということで楽しみにしていた。天気予報では当日は曇り。
 どの程度の曇りかは当日にならないとわからない。
  案の定かなり雲が出ていて時折陽が差す程度で、観測を危ぶんだ。

 観測用機器(?)は手作りの「ピンホール観測器」。描いた失敗作の10号の画用紙を丸めて直径10
 センチ、長さ59センチの円筒を作り、頭には3ミリほどのピンホールをあけた。円筒下部に観測用の
 切り込みを入れた。映り込む太陽を受ける台紙は、やはり画用紙をマジックペンで黒く塗りつぶした。

  当日は雲間から時折差す太陽光を受けてみたが、光量が少なく頼りない。結局雲というフィルター
 越しの方がよく見えるという、なんとも締まらない観測になった。
  ピンホール写真は小学生のころ手作りのカメラでセロファン紙を通して倒立画像を見て楽しんだが、
 考えてみれば太陽とはいえその中のほんの一点にしか過ぎない。そんな小さい点を観測することは
 なかなかむつかしい。

               
   手作りピンホール観測器
  

   
       雲間越しの日食 7時15分頃

            
          金環直前                                    かすかに映った日食

  (以上この項終わり)

  

  

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水彩画写生旅行で河口湖へ

2012年05月20日 | 水彩画

◇ 河口湖西湖更に忍野八海へ写生に行く
  水彩画クラブ年に一回の写生会。今年は昨年の「水牆山」に続き山梨県。
 河口湖レークホテルに泊まって、西湖のほとり「いやしの里根場」で写生。
 そして翌日は忍野八海で見学と写生。

  前日は未曽有の雨風に雹まで降った。
  翌日は打って変わって好天。3時間余りで西湖に着いた。気温もどんどん上がり汗ばむほど。
  富士山が主役であることは間違いないのだが、古民家を移築した「いやしの里」となれば、そ
 れも入れないと片手落ちではないかとばかりに構図に苦労した。
  折しもちょうどいい具合の残雪の富士山に、ちょっと雲が掛かるという絶好のタイミングを捉え
 てスケッチする。

  <西湖いやしの里根場>
  
  CLESTER F4

  結構外人のグループが見学に来ている。
  バカ高い(900円)ざるそばを昼食にして、前後3時間ほどで描き上げた。主役を浮き立たせ
 るために、前景の茅葺屋根の古民家はさっと描こうと思ったが、なにせ古色深く、どうしても重く
 なってしまう。しかも新緑が明るすぎて、遠景の富士山がどんどん遠くなって、主役の座を保て
 なくなってしまう。

  <いやしの里根場>
  
   COTMAN F3

  茅葺屋根の家で軒下にトウモロコシを下げている家があったので、それだけを目的に描いた。
 家の桁や硝子戸、柱と羽目板など木造建築ならそれなりの約束事で家が作られているので、
 それをおろそかにすると家に見えなくなってしまうので丁寧に追っていく。すると時間ばかり経っ
 てしまう。
  大事なところだけはしっかりとスケッチして、あとは写真で補うことにして小1時間で切り上げ、
 あとは家で仕上げた。

  <河口湖畔>
  
   COTMAN F3

  宿の部屋から河口湖大橋の手前にある公園が遠望できたので、夕食前に時間を使ってスケッチ。
 朝の穏やかな湖面の樹木などの映り込みなどを再確認し、写真を頼りに家で仕上げた。


  <大石公園と河口湖>
  
  CLESTER F4

  翌日は、先ず大石公園という「ラベンダーと富士山」で知られたビューポイントへ。およそ2時間の
 制約の中で先ずは1枚。今はラベンダーは咲いていない。
  今日も富士山はご機嫌で、優美な姿を惜しげもなく見せてくれた。

  <忍野八海の小川>
  
  COTMAN F3

   さて、忍野八海。有名なポイントは大変な観光客でとても絵など描いていられない。
  裏道にある小川と桜の古木(緑のコケがむしている。)と樹洩れ陽を描いた。
  清冽な水の流れも魅力なのだが、絵には出せなかった。

  (以上この項終わり)

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汚されたサーファーの世界

2012年05月18日 | 読書

◇『夜明けのパトロール』(原題:THE DAWN PATROL A NOVEL) 
                      著者: ドン・ウィズロウ(Don Wislow)
                      訳者: 中山 宥 2011.7 角川文庫 


  

 久々に面白いハードボイルド。
 「夜明けのパトロール」とは何ともおとなしい題名であるが、内容はなかなかのものだ。

 サンディエゴのパシフィックビーチで朝イチに海岸に集まりサーフィンに興ずるサーフグループ。
「朝焼けサーフィン(ドーン・パトロール)」と呼ばれている。
 この小説の主人公ドーンは、元サンディエゴ市警刑事で私立探偵ながらサーフィン第一人者で、
このグループの頭格である。波乗り仲間ドーン・パトロールのメンバーは水難救助員のディブ、
サンディエゴ市警のジョニー、サンディエゴ市公共事業課のハイ・タイド、サーフショップのハング、
麻薬組織のレッドそしてドーンの最強の友・女性サーファー・サニー。
 
 ある日事件が起きた。一人のストリッパーがモーテルの窓から投げ出され死んだ。そしてドーン
の前に緑の目をした魅力的な女性弁護士ペトラが現れ、行方不明となっている法廷証人ダンを
探してくれと依頼する。
 実は二つの事件はつながっていて、事件はこれからどんどん輻輳しつつ展開する。ドーン・パト
ロールのメンバーが複雑に絡んでいたりしてドーンを悩ませる。また、ぺトラの魅力と古くからの
友人サニーとの板挟みにあってドーンは悩む。この間、南カリフォルニアの海岸線におけるサー
フポイントの実情と歴史、サーファーの実態とサーフィンの技術、サンディエゴの歴史などが語ら
れる。

 事件はサンディエゴという多様な人種(メキシコ人・スペイン人・アメリカ人・東洋人・サモア人)が
ひしめく特殊な都市で、小児性愛好者向けの人身売買という唾棄すべき犯罪を働く集団が起こし
たものだった。

 最後はめでたしめでたしで終わる。

                                                 (以上この項終わり)

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