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読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

驚き・香納諒一の『ステップ』

2012年03月15日 | 読書

◇ 『ステップ』 著者: 香納 諒一   2008.3 双葉社 刊

   

  なぜ驚いたかと言えば、この主人公斉木章は前後8回死ぬ。そして死ぬ少し前の時点まで遡
 ってまた生き返る。だからやり直しが効く。こんな人生だったら、私でも今頃百万長者だ。買った
 株がその後どういう過程を経てさらに下がったか、上がったか知っているから、いかようにもなぞ
 れるから。
   それはともかく、この斉木先生はバーのオーナー・マスターだが、裏稼業は盗人。定年間近の刑
  事比村はしつこく付きまとってくる。

  ある朝、斉木の店にかつて孤児院時代から弟のように可愛がっていた悟が「匿ってくれ」と駆けこ
 んでくる。しかも敬子という女を連れて。やくざの幹部に連れ去られた敬子を救出しついでにヘロイ
 ンをくすねて逃げ出して来たのだという。
  さあそこからこの二人をめぐって、やくざや薬の卸先の中国系やくざ、なかなか見えてこない卸元
 の影の男などの一味と入り乱れての格闘、銃撃戦などが繰り返される。その中で主人公は何度も
 死ぬのだが、なぜか生き返る。それは彼が某所で手に入れ地下の酒蔵に保管していた「香水」の
 壜を割ってしまって、その強烈な香をしたたか吸い込んだことが原因ではないかと思われている。

    面白いのは、生き返って遡る時間がだんだん短くなっていくことだ。まるで香水の香りが時間の経
 過とともに薄らいでいくかのように。
  「STEP6」で、ついに目覚めた斉木の目の前に、自分の命よりも大事に思う、かつての相棒のひ
 とり杏の死体が転がっていてショックを受ける。そして斉木の頭に押し付けられた拳銃の引き金が
 引かれ、頭に鋭い衝撃が来て…。死ぬ。
  そしてまた生き返るのだが、杏が死ぬ羽目に陥るのだけは避けなければと必死に敵に立ち向か
 う。しかし別の状況になってもやはり杏は死んでしまった。絶望した斉木は自らの頭に拳銃を当て
 死の引き金を引くのだが…(STEP7)。

  最後に(LAST STEP)ついに杏を救うことに成功した。しかしよく考えてみると、どうも杏は潜入
 捜査官と考えるとつじつまが合う。それでも彼女は俺の願いを聞いてくれるだろうか。「おれと一緒
  にバーをやって、穏やかな余生を送ろうじゃないか」。
  どうやら斉木の願望が実現しそうに思える場面でこの小説は終わる。

  決して死なない主人公が活躍するハードボイルドだと思ったら、何度死んでも生き返る主人公の
 登場には大いに驚いた。
  
                                                 (以上この項終わり)