先日、Bunkamura ル・シネマにて映画「バックコーラスの歌姫たち」を観てまいりました。
*映画の内容と重なる部分もありますので、これから映画を観に行かれる方はご注意ください。
監督は「リスペクト・ユアセルフ~スタックス・ストーリー」、「マディ・ウォーターズ・キャント・ビー・サティスファイド」、「ジョニー・キャッシュズ・アメリカ」等、数々の音楽ドキュメンタリーを手掛けてきたモーガン・ネヴィル。原題は「20 Feet from Stardom」。スターダムまで20フィート、約6メートル。つまりステージ中央で歌う “スター” から6メートル離れたところで歌う “バックー・シンガー” 達の物語。一見短く感じるこの6メートルが、彼女達の長い歌手人生を物語る。
物語の核となるシンガーは、ダーレン・ラヴ、メリー・クレイトン、クラウディア・リニア、リサ・フィッシャー、タタ・ヴェガ、そしてジュディス・ヒルの6人。それぞれに物語があって、それぞれに歌があって。彼女達の生き様を背負ったその歌の数々に、思わず目が熱くなりましたね。もちろん出演者は彼女達だけではなく、数々の名盤を彩った様々なバック・シンガー達が当時を振り返り、ブルース・スプリングスティーン、ミック・ジャガー、スティーヴィ・ワンダー、スティングなど、バック・コーラスの歌姫達とは対照的なスター達も証言者として登場します。また当時の貴重な映像には思わず身を乗り出してしまいました。ですがここでは、映画の内容としての具体的な話はあまりしないようにします。とにかく、厳しい音楽業界の中で翻弄された歌手達の苦悩と悲哀、そして音楽への愛情と、歌の持つ力、その素晴らしさに胸を打たれます。
さて、若いジュディス・ヒルについては映画の方にお任せして、我がブログでは、ダーレン・ラヴ、メリー・クレイトン、クラウディア・リニア、リサ・フィッシャー、タタ・ヴェガの5人について、その代表作と共に簡単に紹介したいと思います。

DARLENE LOVE / THE BEST OF DARLENE LOVE
60年代にダーレン・ラヴがフィル・スペクターの元で録音した音源集。ザ・ブロッサムズ(リード・ヴォーカルはダーレン・ラヴ)が歌ってザ・クリスタルズ名義でリリースされ全米No.1となった「He's A Rebel」を始め、63年のソロ・デビュー曲「(Today I Met) The Boy I'm Gonna Marry」(全米39位)など、フィル・スペクターがプロデュース、ジャック・ニッチェがアレンジという、60年代、黄金のフィレス・サウンドがたっぷり。
1941年カリフォルニア州生まれのダーレン・ラヴ。やはり全盛期はフィレス時代ということになりますが、フィル・スペクター王国での活動は一筋縄ではいかなかったようです。彼女がリード・シンガーを務める3人組ブロッサムズが録音した「He's A Rebel」が、彼女達とはまったく関係のないクリスタルズのシングルとしてリリースされ大ヒットしてしまったのは有名な話。ですが、上記のCDに纏められているように、ダーレン・ラヴ名義のシングルも残されていますし、名盤「A CHRISTMAS GIFT FOR YOU FROM PHIL SPECTOR」から生まれたクリスマス・クラシック「Christmas (Baby Please Come Home)」を歌っているのも彼女ですから、フィレスの歌姫としての足跡はしっかりと残していますよね~。
フィレス以外では、サム・クック、エルヴィス・プレスリー、フランク・シナトラなど大物のバック・シンガーも務めたそうです。2011年にはロックの殿堂入りも果たしています。

MERRY CLAYTON / GIMME SHELTER
ローリング・ストーンズ「Gimme Shelter」への客演で有名なメリー・クレイトン。その翌年(1970年)にODEレーベルからリリースされた初ソロ・アルバム、その名も「GIMME SHELTER」。プロデュースはルー・アドラー。バックにはデヴィッド・T・ウォーカー、ジョー・サンプル、ビリー・プレストン、ボブ・ウエスト、ポ-ル・ハンフリーなどが参加。ジェイムス・テイラー、ポール・サイモン、ヴァン・モリスンなどの曲をパワフルに歌い上げる。もちろん「Gimme Shelter」をメリーが一人で歌うカヴァーも収録。
1948年ニューオーリンズ生まれのメリー・クレイトン。60年代後半にレイ・チャールズのバック・コーラス隊、レイレッツで活躍していましたが、何と言ってもストーンズ「Gimme Shelter」におけるミック・ジャガーとのデュエットが有名。70年代にはODEから「GIMME SHELTER」を含む3枚のソロ・アルバムを発表。また、キャロル・キング、ジョー・コッカー、ジェシ・エド・デイヴィス、レイナード・スキナードなど、数多の作品でバックコーラスを務めています。ちなみにリトル・フィートのパーカッション奏者、サム・クレイトンはメリーの弟さんだそうです。

CLAUDIA LENNEAR / PHEW!
デヴィッド・ボウイ「Lady Grinning Soul」、そしてローリング・ストーンズ「Brown Sugar」のモデルと言われるクラウディア・リニア。彼女が73年にリリースした唯一のソロ作がこの「PHEW!」です。アナログA面にあたる前半5曲はジム・ディッキンソン(p,g)、マイク・アトリー(org)、トミー・マクルーア(b)のディキシー・フライヤーズ組にライ・クーダー(g)が加わり、アナログB面に当たる後半5曲は、楽曲提供からホーン・アレンジ、ピアノとアラン・トゥーサンが辣腕を振るい、チャック・レイニー(b)、ジム・ケルトナー(ds)、マーリーン・グリーン(g)、スプーナー・オールダム(el-p)達が脇を支えるという豪華布陣。もちろん何処か甘い可憐さを感じさせるクラウディアの歌声も魅力的!
元々、クラウディア・リニアはアイク&ティナ・ターナーのバック・コーラス隊アイケッツのメンバーでした。69年、ローリング・ストーンズがアイク&ティナ・ターナーを伴って北米ツアーを行った際にクラウディアはミック・ジャガーと親交を結び、そして「Brown Sugar」に繋がったとか。その後はジョー・コッカーの「MAD DOGS & ENGLISHMEN」、レオン・ラッセル「LEON RUSSELL AND THE SHELTER PEOPLE」、ドン・ニックス「LIVING BY THE DAYS」、ジョージ・ハリスンの「THE CONCERT FOR BANGLADESH」などでバック・ヴォーカルを務めています。
70年代は、いわゆるスワンプ・ロック全盛期で、メリー・クレイトンやクラウディア・リニアのような黒人女性シンガーは引っ張りだこでした。スワンプに限らず、黒人女性コーラスを入れてゴスペルっぽさをロックに加えるというのが流行だったのでしょうね。他にも、クライディー・キング、 ヴァネッタ・フィールズなどが、当時のロックにブラックな息吹で華を添えました。

TATA VEGA / TOTALLY TATA
モータウン(タムラ)からのタタ・ヴェガの2ndアルバム。77年作。モダンなソウル・サウンドにタタの抜群の歌唱力が遺憾なく発揮された好盤。「Come in Heaven Earth is Calling」のようなスローでの感情表現も見事ですが、「Jesus Take Me Higher」や、「It's Too Late」のようなアップテンポのダンサー曲での抜群のリズム感とスピード感が堪らなく心地よい。「You'll Never Rock Alone」は近年フリー・ソウル方面でも再評価されました。アレンジを務めるアル・ジョンソンの存在も大きいですね。
1951年ニューヨーク生まれのタタ・ヴェガ。活動当初はロックバンドのシンガーだったそうですが、その実力が認められ、ソロ・シンガーとしてモータウン入り。傘下のタムラより、76年から80年までに4枚のソロ・アルバムをリリースしています。しかしヒットには恵まれず、その後はゴスペルに転身しつつ、パット・ベネター、パティ・オースティン、クインシー・ジョーンズ、エルトン・ジョンなど、数多くの作品にその美声を残しています。近年も、グレッグ・オールマンのソロ作「Low Country Blues」(2011年作)など、意外なところで彼女の名前を見つけることが出来ます。

LISA FISCHER / SO INTENSE
ローリング・ストーンズのバック・コーラスで御馴染みのリサ・フィッシャー。彼女の唯一のソロ・アルバムが「SO INTENSE」。91年リリース。ナラダ・マイケル・ウォルデン、ルーサー・ヴァンドロス、アリフ・マーディンなどによるプロデュース。米R&Bチャート第1位を記録し、シングル曲「How Can I Ease the Pain」ではグラミー賞『Best Female R&B Vocal Performance』部門を受賞するという輝かしい成功作。ですが彼女のソロ・アルバムは現在までこの1枚きりです。ソロ・シンガーとして成功することは難しく、そしてその成功を続けることもまた難しいんですね。
このアルバムのライナーをあらためて読んで驚いたのは、この91年という時点で、彼女は既に苦節何年…、という苦労人として紹介されていること。1958年生まれですから、この頃33歳。確かに遅咲きですね。バック・シンガーとして頭角を現し始めたのは、84年にルーサー・ヴァンドロスのツアーに参加してからだそう。そしてローリング・ストーンズ「STEEL WHEELS」のアルバム及びツアーに参加したのが89年で、来日したのが90年ですね。ですが実はその前、88年にミック・ジャガーが単独来日した祭にもリサは同行していたそうです。そんなバック・シンガーとしての下積み時代を経て、このソロ作での成功でした。ですがこの後、また長いバック・シンガーとしての道のりが続いてる訳ですから、なかなか複雑ですよね。私はバック・シンガーとしてのリサ・フィッシャー、大好きですけどね!
ストーンズのツアーにおけるリサ・フィッシャーと言えば、やはり「Gimme Shelter」でしょう。まるで2代目メリー・クレイトンと賞したくなる迫力満点のパフォーマンスは、近年のストーンズのステージにおけるハイライトの一つですよね。また前回の来日公演でレイ・チャールズの「Night Time Is The Right Time」を歌っていたことも、今思えばレイレッツから続く黒人女性バック・シンガーの歴史を受け継ぐかのような、そんな誇りを感じさせるパフォーマンスでしたね。
もちろんストーンズだけではなく、スティングやチャカ・カーンなど超大物から、まさかのナイン・インチ・ネイルズまで、様々なアーティストのバック・シンガーを務めています。
さて、肝心の映画の方ですが、東京は「Bunkamura ル・シネマ」での公開は1月31日で終わってしまいましたが、現在、吉祥寺のバウスシアターで2月14日まで公開中のようです。
「バックコーラスの歌姫たち」公式サイト→
http://center20.com/