息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

春燈

2011-02-25 22:16:42 | 宮尾登美子
宮尾登美子 著

急に春めいて、南風が強く吹いた。
こんな日はやはり春を感じる一冊。

のあと、著者の分身ともいえる綾子がどう成長していくかを語る。

経済的には豊かで何不自由なく育つ綾子だが、生家の芸妓娼妓紹介業という職業により、
さまざまな差別を受け、また、本人も恥を感じて暮らす。
頭脳にも器量にも恵まれていながら、母とは生き別れ、
父と後妻、そしてその連れ子という複雑な家庭の中、身の置き所がない。
とはいえ、もともと我儘なお嬢さん育ち。自分は気を使っているつもりでも現実は
周りを振り回し、とくに後妻の連れ子二人はかわいそうなほど我慢を強いられている。
ただひとりのんきなのは父親で、家業に反対する元妻を離縁し、若く無教養で従順な
後妻を迎えたことで、理想の家庭がまわりはじめたと思い込んでいる。

家業の影響かどうか確定はできないものの女学校の入試に2年連続で失敗し、
不本意ながらも入学した私立女学校でよい友人に恵まれ、成績優秀でありながら、
やはり有形無形の差別はあり、進学が父に反対され、と綾子が鬱々とすることが続く。
女学校を卒業後、裁縫などを教える研究科に進んだものの、実家から離れたくて、
山中の代用教員として赴任する。
ここで、未来の夫となる男性と出会う。
いくら綾子が都会的に育っていても、時は太平洋戦争真っただ中。しかもまだ因習が
残る高知の田舎町。自由奔放な綾子がいかに浮いていたかは想像できるが、
周りの人は振り回され、あきれつつも、あれこれ手助けするはめになる。
これはやはりのびやかな育ちがもたらす徳かなあと思う。

高知の町のようすや時代背景、少女らしい便箋に万葉仮名を使った手紙のやりとり、
貧しく米さえも贅沢とされている山中の集落の暮らしなど、
実際に体験したことだけによく描き出されていて、絵が目に浮かぶよう。
結構ボリュームある小説なのだが、とても読みやすい。
これもお気に入りでかなり何度も読んだ一冊だ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿