哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『アダム・スミス』(中公新書)

2012-09-05 03:51:51 | 
大分以前に買っていたが、積ん読状態だった掲題の本を、最近読み終えた。帯を見ると、2008年にベストセラーとして注目されたようである。

アダム・スミスといえば『国富論』だが、この本では、まず『道徳感情論』という著作を取り上げている。題名通り、この著作は経済学的な内容ではなく、多分に哲学的だ。そしてこの本の解説も読み応えのある、非常に参考になる内容であった。

非常に印象的なのは、「公平な観察者」という概念だ。個人対個人の関係において、自分の行為について人がどういう感情を有するかを、人は公平な観察者の観点から判断するとする。確かに、自分の中にあたかも別人格を有しているように自問自答することは、経験的にはその通りかもしれない。その公平な観察者を形作るのは、周りとの折衝経験からであり、個人が所属する集団の中で形成されるとする。従って、同一の社会においては、共通した公平性を有するというのだ。


面白いのは、この公平な観察者という概念を国家間にも当てはめることだ。国家間においても同様の対応をしようとするのだが、国家間には共通の集団が存在しないから、公平な観察者が形成されにくいという。しかし、国家同士の関係においても公平な観察者の視点が形作られば、問題の適切な解決も導かれやすい。


まさに今、日本が抱える中国や韓国との領土問題は、まさに公平な観察者の視点から考えるべきだと、強く思った。もちろんそのためには、歴史的経緯を公平な観点から把握する必要がある。もし国際司法裁判所が裁くとすれば、公平な観察者の視点でなくてはならないだろうし、それ以前に各国家が公平な観察者の視点を合わせ持てるならば、国際司法裁判所は不要かもしれない。しかし、実際はそうはならないのだろう。国家はどこも今や、ナショナリズムとポピュリズムの嵐だ。

この本でもう一つ印象的だったのは、幸福を心の平静と捉えているところだ。昨今、幸福論が喧しいなか、シンプルで落ち着いた感じのアダム・スミスの考え方は好印象であった。