哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

日めくり池田晶子 39

2011-06-11 07:35:35 | 哲学
 今回はまた、生と死に関する内容だ。かつて養老孟司氏が、世間の人が来年も生きていることをつゆも疑わないでいることを、不思議そうに語った文章を読んだことがあるが、池田晶子さんもその点においては、全く同じ考えである。



39 生が善なのは、善く生きるから善なのであり、死が悪なのは、善く生きていないから悪なのだ


 がんを告知するか否か、告知されたいのか否かが、多くの人にとっては大問題であり得るということが、以前から私には不思議だった。告知されたからといって、いったい何が変わるというのだ。自分が死ぬのを知らないわけじゃあるまいし。がんにならなきゃ死なないみたいな。多くの人は、どうもそうではないらしいということを、次第に理解したときの驚きと幻滅。へぇ、普通は人は、自分だけは死なないと思っているものなのか。
 なぜ生は善であり、死は悪なのか。この問いは、しかし、誰か他人に考えてもらっても、なんら答えにはならない。各人が各人で納得するまで考えるしか、しようがない。
もしも、絶対的な「合意」、医者も患者もその家族も、いかなる異論もなく幸福であることを求めるなら、各人が各人で、生存それ自体が善なのではなく善く生きることだけが善なのだという、人類普遍のあの真理に気がつく場合でしかあり得ない。(『考える日々』「がん論争に欠落しているもの」より)