哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『坂の上の雲』(司馬遼太郎著)

2007-10-07 00:00:02 | 時事
 再来年にTVドラマ放映されるという、表題の歴史小説を読んでみました。これまであまり司馬さんの本を読んだことがなかったのですが、重厚な歴史小説の面白さは大変堪能できました。

 小説の内容は、正岡子規とその同年代・同郷で日露戦争で活躍した秋山兄弟の物語ということになりますが、読んでいて最も惹かれたのは、明治維新から日露戦争に至るまでの、日本という国の生き生きとした勃興の様子です。鎖国から一転して西洋文明の急激な導入に踏み切った中で、個々の日本人が大志をもって活躍していく様は、どうしても同じ日本人として誇らしい気持ちをもちたくなってしまいます。しかもいじらしいのは、当時日本は国際社会で一級国として認められたかったため、他国以上に一生懸命国際法を守り、戦争捕虜も極めて待遇よくしたそうです。
 しかしその後、日露戦争までは勝利したことが実力以上の自信と他国への優越感に切り替わり、結局は徹底的に叩かれたわけですが。


 さて、こういう歴史小説は著者の歴史観を表します。読んでいて気になった点を2つほど挙げてみます。


 司馬さんは、日本に原爆を落とされた遠因について、白色人種国でなかったからではないか、と書いておられます。もし白色人種国であれば、実験台のように原爆を使うことはなかったであろう、というのです。人種問題をこのように客観視するのは我々にとって簡単ではありませんが、ありうる話かもしれません。

 もうひとつは、当時の世界の常識を現在の世界の感覚で考えてはいけないというものです。当時の世界各国は、帝国主義として征服する側か、あるいは他国に征服される側か、二者択一の状況であり、日本は前者を選んだに過ぎないというのです。現在は国連があり、民族自決で成立した各国が1票をもつ時代ですが、当時は国力が弱ければ、帝国主義国に領土を取られるか、不平等な扱いを受けるしかなかったわけですね。このような時代観とそれが現代へどのように繋がっているかは、相当勉強しないと理解しにくい話ですね。