『悟浄出世』-女禹の巻-

 悟浄はついに目指す女禹(じょ・う)のもとに着いた。

 女禹は一件きわめて平凡な仙人で、むしろ迂愚(うぐ)とさえ見えた。悟浄が来ても、彼を使うわけでもなく、教えるわけでもなかった。
 ほんの時たま、独り言のようにつぶやくのだが、声が低くて聞き取れなかった。
「賢者は他人について知るよりも、愚者が己について知るほうが多いものゆえ、自分の病は自分で治さねばならぬ」とういのが、女禹から聞いた唯一の言葉だった。

 三カ月たって悟浄はあきらめて、暇乞いに師のもとへ行った。するとその時珍しくも女禹は悟浄に縷々として教えた。

「目が三つないからとて悲しむことの愚かさについて」
「爪や髪の伸長をも意志によって左右しようとしなければ気が済まない者の不幸について」
「酔うている者は車から堕ちても傷つかないことについて」
「しかし、一外に考えることが悪いとは言えないのであって、考えない者の幸福は、船酔いを知らぬ豚のようなものだが、ただ考えることについて考えることだけは禁物であるということについて」

  ※     ※     ※
 ここから、『悟浄出世』は、女禹の知っている妖怪たちの話に進みます。
毎回長くご紹介しすぎているので、ここからは、少々ぶつ切りにして進めます。
ということで、次回は、ある神知を有する魔物のこと。
  ※     ※     ※
 今日はショックでした。自閉症のラリーとトレイシーという二人のアメリカ人。
 一九九二年に、音声出力付きのキーボードとファシリテーター(付き添い兼通訳者)の力をかりれば、コミニケーションが取れることが判ったそうです。その伝達手段が発明されるまで、彼らの心の苦悩を思うと、いたまれません。
 実際に彼らと話してみると、私以上に感性が豊かで、理路整然とした思考で、私の言うことは100パーセント理解してくれて、それに暖かい心からわき出る言葉を返してくれます。彼らが指一本で打ち出す英語は、とてもきれいで、分かりやすく、そして詩的です。
 自閉症といっても、さまざまな症状があるでしょうが、少なくとも、彼らは私とまったく同じように、夢があり、悩みがあります。彼らの今回の映画を通した活動が、気自閉症ゆえに、社会や他人から「意志がない、感情もない」との大いなる誤解を溶かしてくれることを願ってやみません。
 若い友人がかつて、日本の自閉症の現状を語ってくれたことがありました。言葉で喋るという意志伝達手段がないために、施設で生活していること、その施設でレイプされていても告発できないことなど……。音声出力付き日本語キーボードって無いのだろうか、調べてみようと思います。
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コメント
 
 
 
音声出力 (ruri)
2009-05-21 10:25:13
視覚障害のある友人が使用していたパソコンは、日本語の音声が出ていましたよ。
「梧浄出世」とても面白いですね。毎日楽しみにしています。去年アメリカ人の男の子に日本語を教えていました。彼が帰国する時に自分の名前を漢字でつけて欲しいと頼まれました。悩んだすえ、「弁尊」と名づけました。「早太郎」のお話をブログで見つけ、大変驚きました。
 
 
 
私も見た事あります (ごんべいどう)
2009-05-21 11:02:55
 近くにある病院で、障害者のチャリティーバザーみたいな催しがあった時、音声出力付のキーボード使ってました。

 今の時代学校の一学年に学習障害児が2~3人はいると言われています。確かに娘の学年にもいるのですが、そういった子の行動を理解してあげたい反面、首絞められたり、引きずられたりと色々あり、何をしても許されてしまうという状況はどうなのでしょうか?難しい問題です。
 
 
 
ほう…。 (和尚)
2009-05-21 16:17:43
あるんですね。日本語音声出力の器械。自閉症の人たちも使っているのかなあ……。まだ調べてませんが、調べます。
ruriさん>ほう、弁尊ですか、彼に「早太郎」の話を教えてあげたほうがいいです。英語で「信州信濃の早太郎」をやってくれる人がいたら、そりゃ面白い、外国でどんな評価をうけるんだろう…。
ごんべいどうさん>ラリーとトレーシーの二つ目の質問は「我慢」「耐える」ということについてでした。ラリーは爆発しやすいそうです。実際には「花火があがってしまうんです」という表現でした。「あげるなら綺麗な花火をあげましょう」と言ったら、「ほんとうにそうですね。そうなれるように徐々に努力します」と答えてくれました。
 悪いことは、悪いと教えないといけなのだそうです。「これはしてはいけないことだよ」と。ラリーもトレーシーも何十年もかけて、それ学んできたようです。書き手の不足分をフォローしてくれるナイスコメント、ありがとうございました。ごんべいどうさんのような読者はありがたいです(全員に書かれたら困りますが……)。ぐははは。┏〇"┓。
 
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