一気に参ります。早太郎。

 さっそく、飛ぶように光前寺にやって来た弁尊さんは住職さんに事情をコレコレシカジカと話しますと、その住職さんは、
「お話はよく分かりました。しかし、私は良くても早太郎が何と申しますか。聞いてみなければわかりません。これ、早よ。」
 本堂の屋根の下で寝ていた犬が、むっくりと起き上がりました。見れば子牛ほどもある茶色をした大きな犬がのっそのっそと和尚さんのところへやって来て、鼻を和尚さんにこすりつけて甘えています。
「これ、早よ。このお方が化け物退治にお前の力が必要だとおっしゃるが、とうだ、このお方と一緒に見附の国、柳姫神社にいくか。どうだ。」と和尚さんが早太郎の背中をドンと叩くと、早太郎はピョンと後ろへ飛ぶと前足をピンとのばして、ゆっくりと和尚さんの顔を見上げると、
「ワン」と一声。
「早太郎が承知をいたしました。どうぞお連れ下さい。」
と言う訳で、急いで早太郎を連れて弁尊さん、村に帰ったのは何と、お祭り当日の朝でした。
 村では既に前の夜に森から飛んで来た白羽の矢がささった太へいさんの家に村長さんたちが集まって、太へいさんの家のお美代ちゃんを木の樽にいれる準備をしているところでした。
「村長さん、村長さん。私です。弁尊です。やっと早太郎を連れて来ましたよ。」
「あー,弁尊さん。あなた、私達はもうあなたが、早太郎さんを探せなかったんで、申し訳なくて帰って来られないんだろうと,思っていたんですよ。でも、良かった。で、どこにいらっしゃるんですか、早太郎さんは?」
「ほら、この通り。」
見るとそこには、大きな犬がいるだけでした。
「何だ、弁尊さん。こんな犬なんか連れて来て。どこにも早太郎さんはいないじゃないですか?」
「いや、私もずっと早太郎は人間だと思っていたんですが,実は犬の名前だったんですよ。さあ、今日はお美代ちゃんの代わりに、この早太郎に樽に入ってもらいましょう。」
やがて夕暮れになると、早太郎を入れた木の樽を皆で、柳姫神社へと担いで行きました。
 皆が村へ引き上げたあとに残ったのは、弁尊さんと樽の中でじっと息を殺している早太郎だけです。弁尊さんは杉の木にスルスルと登って、高い枝に腰を下ろしました。
 日もとっぷりと西に暮れ、あたりはすっかり暗くなってきました。天には満月がこうこうと輝いています。
夜が次第に更けていくと、遠いお寺の鐘の音が
ゴーン、
すると去年と同じように、突如として黒雲がどこからともなく湧きだして、月をすっぽりと覆ってしまいました。辺りは真っ暗闇になってしまいました。

 この続きは次のブログで。今日は一気に3本アップで物語りは完結します。

 写真はヤナヒメ神社本殿の前にある現在の木立。巨木です。

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