風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

生命力・続

2017-04-11 23:52:36 | 時事放談
 朝鮮半島情勢が俄かに緊迫化しているのだが、前回のサクラの話を続ける。
 普段、私たちが目にするサクラは、ソメイヨシノだ。幕末から明治初めに、東京の染井(江戸の染井村:現在の東京都豊島区駒込)で作って売り出され、大変な人気を集めたと伝えられる。その後、日露戦争の戦勝記念や昭和天皇の御大典記念や昭和15年の紀元2600年記念のとき、はたまた関西では室戸台風の後の復旧のときや、河川改修した堤防などで大量に植えられたことから全国的に広がった。最近になって、ソメイヨシノの寿命はそれほど長くないことが分かってきたらしい。50年とか60年、せいぜい100年という。そのため、先ほどのナントカ記念当時に植えられたものが、今、どんどん枯れかけているという。
 ソメイヨシノは、ヒガンザクラ(エドヒガン)とオオシマザクラの交配種と言われ、接ぎ木が簡単で、早く育ち、枝にたくさん花をつけることから大いに広まったのだが、所詮は人間が増やしたもので、桜守に言わせると、「人間がつくった桜やから、最後まで人間が世話してやらんと育たない」ということらしい。どうも雌蕊が退化していて、本来なら成熟すると蜜になる樹液に虫が寄って来て媒介するところ、蜜が出ないため虫が寄りつかず、そのため実がならず、人間が作り続けていかなければこの世から消えてしまうということだ(桜守・佐野藤右衛門さん)。つまりソメイヨシノは今風に言うとまさにクローンであって、全ての個体が基本的に同一で、同一の条件で咲き、それが全国遍く広がっているため、さくらの開花予想(桜前線)を合理的に行うことが出来るのだが、なんとなく象徴的な話ではないだろうか。
 例えば日本は、日本列島というユーラシア大陸の東の離れにあって、あちらこちらから人が流れ着き、いつしか国をなした、言わば自然発生的な国であって、多少の伸縮はあったが日本列島=日本の国境をなし、太古から変わらず続く稀有な国だ。東日本大震災を思い起こせば分かるように、纏まる時には纏まる強靭さがあるものの、そもそも普段の国家意識は甚だ心許ない。むしろ有害とさえ思う人が多いくらいだ。ところがアメリカは欧州文化の言わば接ぎ木であり、さまざまなバックグラウンドをもつが故に、国として纏まるためには、将来に向かって、国家設立の目的とも言うべきアメリカン・ドリームを体現し得ることを確認し続ける必要がある。中国に至っては彼の地で常に(数百年おきに)接ぎ木の実験をしているようなもので、そもそも市民社会など存在せず、国家に対する信頼に自信も持てないものだから、欧米や日本の情報が入って来るのを有害で傍迷惑とばかりにシャット・アウトし、捏造した歴史教育を通して愛国意識を鼓吹し続け、かつての栄光の中華帝国の夢を追う。
 そんな人工国家である米・中二大国が首脳会談を行っている間、トランプ米大統領は大芝居をうった。言わずと知れたシリア攻撃である。巡航ミサイル59発をシリア中部のシャイラト空軍基地にぶち込んだのだ。ロシアによれば、同基地に到達したのは23発にとどまり、滑走路は無傷だと言うが、本当かどうか知らない。結果がどうであれ大きな問題ではない。トランプ大統領は、アサド政権に対する軍事攻撃を命じたとき、「化学兵器の拡散と使用を阻止し抑止することは、米国の安全保障にとり死活的に重要だ」と強調した。これはシリアと言うより北朝鮮に宛てたメッセージではないかと思うし、会談中の習近平国家主席へのプレッシャーでもあると私は受け取った。実際、トランプ大統領は習近平国家主席との夕食会の間、「国家安全保障会議(NSC)高官からシリア攻撃の進展状況を聞くなど、『重大行動』に取り組む自らの姿を習氏に誇示するように振る舞」(産経Web)い、さすがに「習主席一行は食事が終わるや、早々に宿舎のホテルに引き返した」(同)らしい。金正男氏殺害事件で神経剤VXが使われたように、推定2500~5000トンの化学兵器を貯蔵する化学兵器大国・北朝鮮に対して恫喝ともとれる警告を行い、その後ろ盾としての中国に対して、オバマ前政権とは違ってやるときにはやる行動力を見せつけた恰好だ。
 さらに米海軍は、シンガポールを出港した原子力空母カール・ビンソンを中心とする空母打撃群が、豪州へ南下する予定を変更し、朝鮮半島近くに向かわせたと発表した。ミサイル駆逐艦などで構成する水上戦闘群も、米西部サンディエゴから西太平洋へ航行しており、空母打撃群に合流すると報じる米メディアもある。近々予定される北朝鮮の記念日イベントに絡めた核やミサイル発射実験に対する牽制だろう。
 シリアはテロとの戦いの場ではあるが、アメリカに直接の脅威を与えているわけではない。ところが、北朝鮮はアメリカに到達する弾道ミサイルの開発に余念がない。なにしろ核と化学兵器によって生命力を繋いでいる国である。いつしか北朝鮮がレッドラインを超えたと、トランプ大統領が見做したとき、トランプ大統領はいよいよ行動に出るかも知れない。その前に北朝鮮が、おめおめと自滅するくらいなら、と暴発しなければよいのだが・・・。
 春爛漫というのに、不穏な時代に入ったものである。
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