風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

金正恩「今でしょ」

2018-04-28 13:55:12 | 時事放談
 昨日、南北首脳会談が平和裏に行われた。これから困難が予想される交渉の第一歩として、先ずはその無難な滑り出しを評価すべきなのだろうが、天邪鬼の私は(だけじゃなく世間の目も)冷たく、手離しで喜べないばかりか、いろいろイチャモンをつけたくなる。
 タイトルに書いたセリフは次のような状況で発せられた(セリフは日経新聞朝刊から)。金正恩委員長が南北境界線の縁石を跨いで、南北分断後、北朝鮮の最高指導者として初めて韓国の地を踏んだとき、文在寅大統領が「私はいつ頃(境界線を)越えられますか?」と問いかけると、金正恩委員長はすかさず手を差し出して「じゃあ今、越えてみますか?」と促して、二人手を繋いで仲良く縁石を越えて北朝鮮側の地に立ったという。今朝の「ウェークアップ!ぷらす」でMCの辛坊治郎さんがゲストの李相哲さん(龍谷大教授)に、韓国で男同士が手を繋ぐのってどうなんですか!?と聞くほど、二人の舞い上がった様子は、微笑ましいと言うより、やや演出がかって気持ち悪い(などと言うとは底意地が悪い 笑)。
 こうして北朝鮮を国際復帰させるために、と言うべきだろう、金正恩委員長の「親しみ」(木村幹・神戸大教授は端的に「話のできる相手」と印象づけることを狙っていた、と言われる)を演出する場面が随所にみられた。またしても日経から拾う。
 北朝鮮の核・ミサイル開発に触れて、金正恩委員長が「我々のせいで国家安全保障会議(NSC)に出るなどしたため早起きが習慣になったでしょう」と陳謝し、文在寅大統領が「これからは十分に寝たい」と応じると、金正恩委員長は「文大統領が徹夜しないで済むようにします」と殊勝に誓ったという。どう反応すればよいのであろう。昨年の度重なるミサイル試射と核実験の報道を半ば不安に半ば呆れた気持ちで見守った日本人とすれば、これを「雪解け」などと他人事のように能天気に形容することは出来ない。
 もう一つオマケ。首脳会談の冒頭、金正恩委員長はこう語ってみせた。「過去のようにいくら良い合意や文章が発表されても、きちんと履行されず、良い結果に発展しなければ、期待を抱いた方々をむしろ失望させる」と。もっともな話だ。過去に何度も反故にされた「核放棄」や「非核化」がCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)の形で実現することを、私たちは期待する。しかし金正恩委員長の頭にあるのは、かつて韓国が約束した経済支援のことかも知れない。少なくとも、独裁者の発言は、祖国・北朝鮮で如何様にも理屈づけられるように、曖昧である。語られた「非核化」の意味するところも明確ではない。
 全ては金正恩委員長のペースで進んだと印象を語る向きがあるが、文在寅大統領も望むところだろう。もとより気遣ったのは金正恩委員長に対してではなく、トランプ大統領に対して(それから俄かに北朝鮮の後ろ盾に成りおおせた習近平国家主席に対しても、かな)であろう。所詮は同床異夢の南北首脳だが、遅くとも6月初めまでの開催が計画され、今まさに事前の調整が行われ、更に言うなら、条件によっては気紛れトランプ大統領がそもそも席に着かない可能性もある米朝首脳会談への「橋渡し」としての南北首脳会談の位置づけを、双方が理解しているからに他ならない。
 今回、南北が合意した板門店宣言は、過去に2000年(このときの金大中・元大統領はノーベル平和賞を受賞した)と2007年(盧武鉉・元大統領の秘書室長として文在寅氏も関わった)の南北合意の焼き直しのようであり、新味はなさそうだ。そもそも朝鮮戦争の停戦協定は、国連軍の主力だった米国と中国・北朝鮮の三者間で調印されたもので(韓国は休戦に反対して署名しなかった)、平和協定に転換するためには米・中の関与が欠かせない。また経済協力面で南北が何をどう合意しようが、国際的な経済制裁が解除されないことには前に進めない。国際的な制裁は国連安保理で決議されたもので、常任理事国だけでも米・中に加えて英・仏・露が関わってくるし、非常任理事国も加えれば、まさに国際的な合意である。
 折しも、北朝鮮の船舶による所謂「瀬取り」を監視するため、オーストラリア軍とカナダ軍の哨戒機が沖縄のアメリカ軍嘉手納基地に派遣されることが報じられた。防衛省関係者への取材で分かったというが、米軍が中心となって北朝鮮の非核化に向けて圧力をかけ続ける狙いとは言え、日本を拠点に各国の部隊が活動するのは極めて異例だとNHKは報じている。南北が如何に宥和を演出しようが、これが今の国際社会の立ち位置の現実なのだ。まだ先は長い。
 昨日は、インド・モディ首相が中国・習近平国家主席を訪問している。日経新聞・朝刊には一切記事がなかった。これもまた、なんだかんだ言って朝鮮半島情勢に夢中になる日本の現実である。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 坊主憎けりゃ・・・ | トップ | ギブソン経営破綻 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

時事放談」カテゴリの最新記事