常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

翁草

2013年04月28日 | 日記


寺の境内に翁草が、いぶし銀のような花を咲かせた。この花が終わると、高山植物のチングルマのような、髭をつけた種ができる。その姿が、翁の姿に似ているので翁草と呼ばれる。日当りのよい山野の草地に自生するが、近年その生存環境が悪化したのか、見かけることが少なくなった。この野草は絶滅が危惧されているのだ。寺の境内の桜を見に行ったとき、この花が咲いていたのでうれしくなった。

歌人の斉藤茂吉は、この花に郷土を思いこよなく愛した。茂吉の生まれた金瓶の集落の西向かいに向山と呼ばれる小さな山がある。集落の裏を流れる酢川を越えて、向山の尾根筋を行くと狼石という大きな石がある。7m×12m、高さ6mもある大きな石だが、大石の下は洞になっていて、そこに狼が住んでいた。月の出る夜は狼はその石に上がり、長く引く声で吼えた。今は絶滅してしまった狼だが、その吼える声は金瓶の茂吉の家に届いた。茂吉の母はその声が恐ろしかったと述懐している。

この石の周りには翁草が群生し、少年時代の茂吉たち格好の遊び場であった。翁草は、少年時代を過ごした金瓶のシンボルような存在である。

おきなぐさに唇ふれて帰りしがあはれあはれ今思ひ出でつも 茂吉(赤光)

翁草は白頭翁とも書く。キンポウゲ科のこの花は独特の風情を持っている。茂吉はヨーロッパへの留学の折り、大石田に疎開した折りなど人生の節目に、翁草の花の咲く季節に合わせて向山の狼石を訪れ、この花をわざわざ見に来ている。それほど、この花への思い入れは強いものであった。

かなしきいろの紅や春ふけて白頭翁さける野べを来にけり 

われ世をも去らむ頃にし白頭翁いづらの野べに移りにほはむ

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 永き日 | トップ | 土筆 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿