「なんで…そんなひどいこと言うのよ。もう、知らない」
彼女は涙(なみだ)をこぼしながら彼の前から駆(か)け出した。彼は口を押(お)さえていたが思わず、
「もう二度と俺(おれ)の前に現(あらわ)れるな! このブス女!」
彼は自分が言ったことに驚(おどろ)いているようだ。そして彼は頭(あたま)をかかえてしまった。
思えば、今朝(けさ)から何か変(へん)なのだ。口の回りがムズムズして思うように動かせない。それに、思ってもいない言葉(ことば)が勝手(かって)に口から出てくるのだ。今日、彼は彼女にプロポーズするはずだった。最高(さいこう)の一日にするはずだったのに、何でこんなことに…。
彼は傷心(しょうしん)を引(ひ)きずりながら行きつけの店(みせ)に立ち寄(よ)った。そこで、子供(こども)の頃(ころ)からの親友(しんゆう)にばったり出くわした。彼は彼女とのことを打(う)ち明(あ)けた。親友は「しっかりしろよ」と励(はげ)ました。だが、そのときまた彼の口が勝手にしゃべり始めた。
「おまえさぁ、あいつのこと好(す)きだったんだろ。俺、知ってんだよ。おまえが物欲(ものほ)しそうにあいつのこと見てたの…」
彼はすぐに口を押さえた。それでも口は動こうともがくので、身体(からだ)がまるで踊(おど)っているような感じになってしまった。親友はそれを見て不機嫌(ふきげん)そうに言った。
「おまえ、ふざけてんのか? 俺が心配(しんぱい)してやってるのに…」
口は手を振(ふ)り払(はら)うと、「おまえに譲(ゆず)ってやるよ。好きにしちゃってかまわないからさ」
<つぶやき>まさかこんなことになるなんて。これが現実(げんじつ)になったら、とっても恐(こわ)いです。
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