彼は何をやってもそつなくこなし、営業成績(えいぎょうせいせき)もトップクラス。他(ほか)の社員(しゃいん)からは羨望(せんぼう)の的(まと)に――。だが、彼はずっと物足(ものた)りなさを感じていた。何かが足りない。それが何なのか、彼には分からなかった。
そんな時、入社(にゅうしゃ)してきた彼女と出会った。彼女はとっても無器用(ぶきよう)で、何をしても失敗(しっぱい)ばかり。みんなからはからかわれ、何の期待(きたい)もされていなかった。
最初は、彼も他のみんなと同調(どうちょう)していた。でも、ひょんなことから彼は彼女のサポートをするようになった。彼女の仕事(しごと)を手伝(てつだ)い、仕事の段取(だんど)りを教(おし)えるようになったのだ。そんな二人を見て、他の社員も彼女のことを受け入れるようになっていった。
彼は、ふと思った。何だか楽(たの)しい…。彼女と一緒(いっしょ)に仕事をしていると、今まで味(あじ)わったことのない満足感(まんぞくかん)があった。これは、何なんだろう? 彼は思いついた。
「そうか、僕(ぼく)はこの娘(こ)を待(ま)っていたのかも…。僕がここにいるのは彼女のためだったんだ」
いつしか、この二人は付き合っているんじゃないかと噂(うわさ)が流(なが)れた。普通(ふつう)なら、そういう流れになるのだろうが、今回ばかりは様子(ようす)が違(ちが)うようだ。同僚(どうりょう)に訊(き)かれた彼女は、
「いやいや、それはないわよ。あの先輩(せんぱい)には、仕事のことを教えてもらってるだけで、それ以上(いじょう)のことは…。それに、先輩は、あたしの好(この)みじゃないし…。あたしね、ほんとうは、他に気になってる人がいるんだ。だから――」
<つぶやき>彼は、勘違(かんちが)い男ってことですね。ひょんなことって、何があったんでしょ?
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