黒岩(くろいわ)を前に、側近(そっきん)のひとりが何か報告(ほうこく)を伝(つた)えていた。黒岩は苦々(にがにが)しい顔つきで言った。
「なぜだ! なぜこのタイミングで総理(そうり)の警備(けいび)が強化(きょうか)されたんだ?」
「それは、分かりませんが…。総理の周りにはいつも護衛(ごえい)がついていて、特別(とくべつ)な装置(そうち)を身につけた者しか近づけなくなっていると。こうなっては、計画(けいかく)は延期(えんき)するしか…」
「今まで何の危機感(ききかん)も持っていなかった連中(れんちゅう)が、どうしてだ? なぜ警備を厳重(げんじゅう)にしたのか、送り込んでいる工作員(こうさくいん)に調(しら)べさせるんだ」
「分かりました。しかし、情報統制(じょうほうとうせい)がされているようで時間がかかるかもしれません」
「何を悠長(ゆうちょう)なことを。我々(われわれ)の計画が漏(も)れているかもしれないんだぞ!」
そこへ、女がやって来た。黒岩は女を見て言った。
「エリスか、ご苦労(くろう)だった。神崎(かんざき)の娘(むすめ)を手に入れることができなかったのは残念(ざんねん)だったが…。まあ、いい。さて、君(きみ)には総理になってもらうつもりだったが、しばらく延期することにした。どうやら、我々の中にネズミが入り込んでいるかもしれない。それを見つけるには、人の心を読(よ)むことができる能力者(のうりょくしゃ)がいればいいんだが…。そんな能力(ちから)を持つ者は我々の中にはいないようだ」
エリスは一瞬(いっしゅん)考えて、「たぶん…います。私に心当(こころあ)たりが…」
「ほう…」黒岩は興味(きょうみ)を示(しめ)して、「そいつを連れて来ることはできるかね?」
<つぶやき>これは、あまりのことでは…。今度は彼女が狙(ねら)われることになるのかなぁ?
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