彼女はひょんなきっかけで、一風(いっぷう)変わった男性とお付き合いすることになった。何度か彼と会ってみて、彼女は彼の不可思議(ふかしぎ)な言動(げんどう)に気がついた。
ある日のこと――。彼女が彼と街(まち)を歩いていると、向こうから知り合いの女性がやって来た。でもその女性は、彼女のことが目に入らないのか、そのまますれ違(ちが)って――。彼女は慌(あわ)てて声をかけた。女性は立ち止まると、彼女の方へ振(ふ)り返った。
彼女は、その女性の生気(せいき)のない顔を見て、思わず後(あと)ずさった。不意(ふい)に恐怖(きょうふ)を感じたのだ。彼がすっと二人の間(あいだ)に入ると、女性に手をかざして何か呪文(じゅもん)のようなものをささやいた。すると、女性はそのまま何も言わずに行ってしまった。
彼は彼女に訊(き)いた。「知り合いかい? あれは、もう助(たす)からないなぁ」
彼女は驚(おどろ)いて、「えっ、どういうこと? あの人に何が…」
「あの女性には鬼(おに)がいる。どうやら、嫉妬(しっと)や妬(ねた)みでいっぱいになってるようだ」
「ねぇ、何とかならないの? あの人のこと助けてあげて。あなたならできるでしょ?」
「もう手遅(ておく)れだよ。それに、人の心を、そう簡単(かんたん)に変えることはできない」
「そんな…。あの人、優(やさ)しくて、とっても明(あか)るい人だったのに…」
「それは、あの女性の一面(いちめん)でしかない。本当(ほんとう)の姿(すがた)は、まるで違っていたのかもな」
<つぶやき>人の心に闇(やみ)ができると、鬼が棲(す)み着いてしまいます。気をつけてくださいね。
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