わたしはいま、いろんな問題(もんだい)を抱(かか)えている。いくら考(かんが)えても解決(かいけつ)できそうもないものばかりだ。仕事(しごと)のこと、恋愛(れんあい)のこと…、もうため息(いき)をつくようなことだらけ…。そこでわたしは、有休(ゆうきゅう)をとって実家(じっか)へ帰省(きせい)することにした。離(はな)れたところからいろんな、もろもろを見(み)つめ直(なお)そうと思(おも)ったのだ。
まあ、突然(とつぜん)、娘(むすめ)が帰(かえ)ってきたものだから、両親(りょうしん)は明(あき)らかにわたしに気(き)をつかっているようだ。何(なに)かを期待(きたい)しているのか、それとも…。だから、なるべく両親(りょうしん)とは顔(かお)を合(あ)わせないように、自分(じぶん)の部屋(へや)に引(ひ)きこもることにした。
有難(ありがた)いことに部屋(へや)は家(いえ)を出(で)たときのままになっていた。そこはタイムカプセル。学生(がくせい)の頃(ころ)の匂(にお)いが充満(じゅうまん)していた。クローゼットを開(あ)けてみると、もう着(き)ることのないだろう服(ふく)がいっぱい掛(か)けてあった。下(した)にはボックスがいくつか…、何(なに)が入(はい)っているのかもう思(おも)い出(だ)せない。そのひとつを開(あ)けてみると、いろんなものが詰(つ)め込(こ)まれていた。
その中(なか)に何(なに)も書(か)かれていない封筒(ふうとう)を見(み)つけた。封筒(ふうとう)の中(なか)には手紙(てがみ)が入(はい)っているようだ。封(ふう)がしてあって、どうしてこんなものが…。わたしは封(ふう)を開(あ)けてみた。中(なか)にはノートから破(やぶ)りとった紙(かみ)が一枚(いちまい)。これは間違(まちが)いなく自分(じぶん)で書(か)いたものだとすぐに分(わ)かった。
そこには、今(いま)のわたしが悩(なや)んでいる問題(もんだい)の答(こた)えが書(か)かれてあった。しかも、シンプルにこれしかないという回答(かいとう)が…。わたしはこれを探(さが)しにきたのか…? でも、どうして…。あの頃(ころ)のわたしがこんなものを書(か)いたんだろう。わたしにはまったく記憶(きおく)がない。
<つぶやき>もしかしたら、未来(みらい)の自分(じぶん)からのアドバイスだったのかもしれませんよね。
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彼女(かのじょ)は歴史調査委員会(れきしちょうさいいんかい)に勤(つと)めていた。主(おも)な仕事(しごと)は、歴史(れきし)に残(のこ)されていない真実(しんじつ)を掘(ほ)り起(お)こし記録(きろく)していくことだ。彼女(かのじょ)はこの仕事(しごと)にやりがいを感(かん)じていた。
今回(こんかい)の調査(ちょうさ)からは、いよいよひとりで向(む)かうことになっている。今(いま)までは先輩(せんぱい)と一緒(いっしょ)だったので旅行(りょこう)気分(きぶん)ってところがあった。でも、今回(こんかい)はかなり緊張(きんちょう)しているようだ。どこかぎこちない感(かん)じがにじみ出(で)ている。
――若(わか)い女性(じょせい)を前(まえ)にして、彼女(かのじょ)は首(くび)を傾(かし)げた。取材(しゅざい)のアポは取(と)ってあるはずなのに、なぜか女性(じょせい)の反応(はんのう)が変(へん)だ。それでも彼女(かのじょ)は強引(ごういん)に話(はなし)を進(すす)め、いよいよその女性(じょせい)が作(つく)り上(あ)げた画期的(かっきてき)なシステムについての質問(しつもん)になった。するとその女性(じょせい)は、
「いったい何(なん)の話(はなし)をしてるんですか? 私(わたし)にはまったく分(わ)かりませんが…」
彼女(かのじょ)は持(も)っているタブレットを確認(かくにん)した。この女性(じょせい)に間違(まちが)いない。でも、彼女(かのじょ)は思(おも)わず声(こえ)をあげた。「なんで…。年代(ねんだい)が違(ちが)う!」そうなのだ。このシステムが出来上(できあ)がるのは、ここから十年後(じゅうねんご)のことだった。彼女(かのじょ)はタイムマシンの年代設定(ねんだいせってい)を間違(まちが)えてしまったようだ。
こんなヘマをするなんて…。もしこれで歴史(れきし)が変(か)わってしまったら、彼女(かのじょ)は職(しょく)を失(うしな)ってしまうかもしれない。下手(へた)をしたら時空警察(じくうけいさつ)に逮捕(たいほ)されることも…。
彼女(かのじょ)は、その女性(じょせい)に平謝(ひらあやま)りに謝(あやま)った。そして、「今(いま)のは忘(わす)れてください。あたしが話(はな)したのは、空想上(くうそうじょう)の話(はなし)なんで…。絶対(ぜったい)に、ほんと、絶対(ぜったい)に忘(わす)れてください。お願(ねが)いします!」
<つぶやき>これはやばいですね。でも、ばれなきゃ…。そんな甘(あま)いこと言(い)ってちゃダメ。
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彼女(かのじょ)は小学生(しょうがくせい)の頃(ころ)、自分(じぶん)のことを特別(とくべつ)な人間(にんげん)だと思(おも)っていた。しかし、彼女(かのじょ)の前(まえ)にもっとすごい小学生(しょうがくせい)が転校(てんこう)してきた。彼女(かのじょ)は、勉強(べんきょう)も運動(うんどう)もその子(こ)にはまったく勝(か)てなかった。しかも、彼女(かのじょ)は必死(ひっし)になってやっているのに、その子(こ)はいとも平然(へいぜん)とやってしまう。彼女(かのじょ)は、自分(じぶん)がどこにでもいる普通(ふつう)の人間(にんげん)なのだと思(おも)い知(し)らされることになった。
それから十数年後(じゅうすうねんご)。彼女(かのじょ)は社会人(しゃかいじん)になり、そこそこの一流企業(いちりゅうきぎょう)に就職(しゅうしょく)していた。彼女(かのじょ)はその仕事(しごと)が好(す)きだった。それなりの成果(せいか)も上(あ)げている。そして、お付(つ)き合(あ)いしている彼氏(かれし)も一緒(いっしょ)に働(はたら)いていた。将来(しょうらい)は結婚(けっこん)も視野(しや)に入(はい)っているようだ。
そんな彼女(かのじょ)の職場(しょくば)に、転職(てんしょく)してきた女性(じょせい)がいた。とても綺麗(きれい)な人(ひと)で、誰(だれ)もが好感(こうかん)を持(も)てるようなそんな雰囲気(ふんいき)があった。その女性(じょせい)の名前(なまえ)を聞(き)いたとき、彼女(かのじょ)は思(おも)わず身体(からだ)が震(ふる)えた。「まさか…、あの子(こ)なの? 小学校(しょうがっこう)のときの、あの子(こ)…」
彼女(かのじょ)はそれとなくその女性(じょせい)と話(はな)しをしてみた。そして確信(かくしん)した。あの時(とき)の子(こ)だと…。でも、その女性(じょせい)は彼女(かのじょ)のことに気(き)づいていないようだ。同級生(どうきゅうせい)なのに…。
その女性(じょせい)はすぐに成果(せいか)を上(あ)げ、営業成績(えいぎょうせいせき)もトップになった。彼女(かのじょ)もまだそこまでいけてないのに…。彼女(かのじょ)の不安(ふあん)は膨(ふく)らんでいく。このままじゃ、また抜(ぬ)かれてしまう。
そんな時(とき)、彼氏(かれし)とその女性(じょせい)が楽(たの)しそうに会話(かいわ)をしているのを目撃(もくげき)してしまった。まるで、付(つ)き合(あ)っている男女(だんじょ)のように親(した)しく。彼女(かのじょ)の心(こころ)によからぬものが生(う)まれた瞬間(しゅんかん)だ。
<つぶやき>ここから何(なに)が育(そだ)っていくのでしょう。不幸(ふこう)の芽(め)にならなければいいのですが。
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休日(きゅうじつ)。妻(つま)は友(とも)だちと遊(あそ)びに行(い)ってしまったので、私(わたし)は家(いえ)でのんびりと過(す)ごすことにした。昼近(ひるちか)くになって、お腹(なか)もすいてきたので昼飯(ひるめし)でも作(つく)るかと台所(だいどころ)へ向(む)かった。
といっても、たいしたものは作(つく)れないし、それにひとりだ。確(たし)か、買(か)い置(お)きのカップ麺(めん)があったはずだ。あちこち戸棚(とだな)を開(あ)けて探(さが)してみる。そこで私(わたし)は、とんでもないものを見(み)つけてしまった。銀行(ぎんこう)の名前(なまえ)が入(はい)った封筒(ふうとう)…。
こ、これは、まさか…、妻(つま)のへそくり!?
私(わたし)は思(おも)わず手(て)に取(と)った。厚(あつ)みがあって、こんなにため込(こ)んでいたのか? 恥(は)ずかしながら、我(わ)が家(や)の家計(かけい)は妻(つま)が握(にぎ)っている。こっちは毎月(まいつき)、雀(すずめ)の涙(なみだ)ほどの小遣(こづか)いのみだ。妻(つま)はパートに出(で)ているので、自由(じゆう)に使(つか)える金(かね)は持(も)っているはずだ。でも、どうやったらこんなにため込(こ)むことができるんだ。いつも、家計(かけい)が苦(くる)しいって言(い)ってたのに…。
封筒(ふうとう)の中(なか)を覗(のぞ)いてみると、三十万(さんじゅうまん)くらいはありそうだ。……ここは、何枚(なんまい)かいただいてもいいかもしれない。私(わたし)の頭(あたま)に、悪(わる)い考(かんが)えが浮(う)かんでしまった。
そうだよなぁ。少(すこ)しぐらいもらっても、ばちは当(あ)たらないはずだ。
だが、私(わたし)は思(おも)い止(とど)まった。妻(つま)は几帳面(きちょうめん)な性格(せいかく)だ。きっちり家計簿(かけいぼ)をつけていて、誤魔化(ごまか)すことなんか…。これは、絶対(ぜったい)に、間違(まちが)いなくばれる。もし、そんなことになってしまったら…。私(わたし)は、そう考(かんが)えただけで背筋(せすじ)に冷(つめ)たいものが走(はし)った。
私(わたし)は何事(なにごと)もなかったように元(もと)に戻(もど)すと、カップ麺探(めんさが)しを再開(さいかい)した。
<つぶやき>ここは触(さわ)らぬ神(かみ)に祟(たた)りなしということで…。でも、何(なん)に使(つか)うか知(し)りたいよね。
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街(まち)を歩(ある)いていると、前方(ぜんぽう)の人(ひと)たちが何(なん)だかざわついていた。何(なに)かあったのかと目(め)をこらしてみると、ずっと向(む)こうにウエディングドレスの女性(じょせい)が見(み)えた。しかも、こっちへ向(む)かって走(はし)っている。歩(ある)いていた人(ひと)たちは何(なに)があったのかと目(め)で追(お)い、写真(しゃしん)を撮(と)る人(ひと)もいた。
わたしも驚(おどろ)いて見(み)ていたが…、その女性(じょせい)の顔(かお)、どっかで見(み)たことがあるような…。はて、誰(だれ)だったか…。わたしは必死(ひっし)に思(おも)い出(だ)そうとしてみた。でも、なかなか思(おも)い当(あ)たらない。いったいどこで会(あ)ったのか…。友(とも)だちじゃないわよね。どこかで、誰(だれ)かに紹介(しょうかい)されたとか…?
その女性(じょせい)はどんどんわたしに近(ちか)づいて来(く)る。女性(じょせい)の顔(かお)がはっきりしてきた。でも…。あと少(すこ)し、あと少(すこ)しで思(おも)い出(だ)せそうなのに…。女性(じょせい)はわたしの横(よこ)をすり抜(ぬ)けて走(はし)り去(さ)っていく。わたしは、思(おも)わず追(お)いかけた。
なんで…? なんでわたしは走(はし)っているの? わたしは走(はし)りながら考(かんが)えた。あれよ。このままじゃ、もやもやしちゃって気持(きも)ち悪(わる)いじゃない。だから、だからはっきりさせないと。でも、どこまで行(い)くのよ。それに…、けっこう足(あし)、早(はや)いじゃない。
わたしは体力(たいりょく)のなさに、いまさらながら気(き)がついた。もうやめようかなぁ…。追(お)いつけそうもないし…。わたしは弱音(よわね)を吐(は)いてしまった。そのときだ。ウエディングドレスの女性(じょせい)が立(た)ち止(ど)まって、こっちを振(ふ)り返(かえ)った。ああっ、どうしよう? 何(なん)て切(き)り出(だ)せば…。
<つぶやき>これはどうしたもんか? まずは、事情(じじょう)を訊(き)いてみるってのはどうでしょう。
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