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明け方、マーロン・タヤバンは、彼が家と田畑を持っているフィリピン北部のバナウエの棚田を降りてゆく。耕地の険しい段々のせいで山の斜面はさまざまな緑色の影がまだらになっている。36才の農民が、狭い道を降りるにつれて、彼は見渡す限りの稲で囲まれている。
アジアのもっとも重要な穀物のこれ以上に豊かなシンボルを想像することは難しい。だが、タヤバンの旅は数百万の小規模農家が直面している問題に光を当てる。
この農民は、毎週、市場へ出かけて、そこで彼が売る以上により多くの食料を買わなければならないのだ。なぜなら、彼の子供をつくる能力は、彼らを食べさせる農地の生産力を上回っているからだ。
タヤバンが泥田を耕し始めた13年前には、彼には田が二枚と養わねばならぬ口は二つしかなかった。今日、彼には土地はないが、子供は六人いる。生産者は消費者にならざるをえない。穀物の値段が安ければ、これは問題にならない。だが、昨年、世界市場での穀物価格は三倍になった。
タヤバンには、なぜこんなに穀物の価格があがるのか理由が分からない。彼の家にはテレビがないから、彼は食糧危機についての国連の警告を聞いたことはないし、メキシコのトルティーヤ行列や、イタリアのパスタ抗議やインドのネギ・デモについての報道を見たこともない。
彼は気候変動やバイオ燃料について聞いたことはないし、需要と供給のバランスを悪化させたバングラデシュとミャンマーのサイクロンについては何も知らない。だが、彼は毎週市場へ行くたびにそれらの帰結を肌で感じている。1年前には、彼は毎月米代を2,200ペソ(5,080円)払っていた。今日、価格高騰の後では、彼は毎月3,700ペソ(8,500円)払わなければならない。タヤバンは、棚田の補強工事や他の仕事で3,000ペソ(7000円)稼いでいる。「生活はますます困難になった。米の値段は上がっているとしても、われわれはそれを買わなければならない。もっと一生懸命働かないといけない」と彼は言う。(後略)
[訳者のコメント]記事を書いたのは『ガーディアン』紙のアジア駐在特派員のジョナサン・ワッツです。フィリピンが米を日本から輸入しなければならない事情が分かるように思いました。
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