海外のニュースより

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キンゼイ博士--性と数字に取り付かれた男(『ヴェルト』の記事より

2005年02月28日 | アメリカ社会
死後50年経つというのに、アメリカの動物学者で人間の性行動研究者となったアルフレッド・キンゼイは、道徳説教者を相変わらず挑発している。有名な『キンゼイ報告』において、彼は、8,000件のケース・スタディを要約し、アメリカの二重道徳を暴露した。「ドクター・セックス」と呼ばれたこの人物は、20世紀の最も悪名高い科学者だという烙印を押された。この精力的な教授は、女性は性的存在であり、オナニーは必ずしも頭を悪くするものではないと言明した。
ブッシュの支配するアメリカでは、ピューリタン的道徳監視団は、フランシス・コッポラが製作し、ビル・コンドンが監督し、オスカーの候補作品となったハリウッド映画『キンゼイ』について大いに憤慨している。この映画では、ライアム・ネーソンが「セックス革命」の先駆者を演じている。T.C.ボイルの書いた『ドクター・セックス』という小説は、多くのアメリカ人にとっては、不気味である。T.C.ボイルは、この本の中でこう書いている。「私達の大統領を良く見給え。イエス・キリストは彼の助言者の一人なのだ。大統領は、自分の個人的な宗教上の信念に従ってこの国を支配しようとしている。それは人間が抑圧されるということ意味しているのだ。」いわゆる価値の連合の最もラディカルな道徳原理主義者たちは、同性愛者を攻撃し、進化を単なる理論に過ぎないと見なし、幹細胞研究を禁じようとし、キンゼイを歴史上最も影響力のある倒錯者だと罵倒している。架空の人物、ジョン・ミルクの視点から、ボイルは、キンゼイを描いている。キンゼイ博士は、彼の仲間と国中を走り回って、カウボーイ、学生、売春婦、男色家、受刑者、主婦、同性愛者に彼らの欲求と性行動について質問し、映画に撮った。彼の仲間は、彼が命じれば、喜んでグループ・セックスさえやってのけた。ボイルは、このような光景を精密にアイロニカルに記述している。ボイルは研究者の生活を容赦なく解剖している。
 ボイルが詳細な性格研究を企てたのに対して、ビル・コンドンの映画『キンゼイ』は、表面に留まっている。彼はこの革命家を心ここにあらずといった様子の大学教授、緊張しすぎた啓蒙家として表現している。「ただ一つの倒錯しかない。それは禁欲だ。それ以外は触ってみていい感じがするものは何でも許されている。」巧みなカット技術とカメラの位置がこの映画の長所だ。事実から実験へ何千もの告白へのすばやい切り替えは、観る者をくたびれさせる。これに対して、研究者の生活の詳細、狂信的なメソディストの息子としてのキンゼイの何の楽しみもない子供時代、動物学への逃避、彼の収集癖や長年の禁欲生活は、観る者を惹きつける。ライアム・ネーソンは、同情できるエキセントリックなアメリカ的主人公としてのキンゼイを演じている。
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