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中国の反体制派張戎女史の新著『毛沢東--この知られざる物語』の書評。

2005年06月10日 | 中国の政治・経済・社会
副題:中国人の反体制派で『ワイルド・スワン』の著者張戎は、ロンドンで毛沢東の新しい伝記を出版した。彼女は、英国人の最後の願望像を粉砕する。
20世紀の三人の人殺しは、役に立つ外国人の愚か者を利用した。ヒトラーの賛美者のなかには、特にイギリス人の貴族が目立つ。スターリンにあっては、特に崇拝する傾向があったのは、知識人だった。ジョージ・バーナード・ショー、アンドレ・ジイド、イニャツィオ・シローネ、アーサー・ケストラーなどである。
毛沢東だけは、今日まで、一般的な断罪から免れてきた。彼の等身大より遥かに大きな肖像画が今日も北京の天安門広場で町の入り口を飾っているのはそれと関係しているだろうか。そのことと、中国の指導部が日本に対して自分の過去を直視しろと説教するくせに、彼らが毛沢東の犯罪の痕跡を暴露することを頑固に拒否していることと関係があるのだろうか。
他ならぬキッシンジャー元国務長官は、1997年に「平等への努力」を毛沢東の最大の業績だと褒めそやした。もし、彼が「共同墓地の平等性」について語っていたら、この言明は真理に近かっただろうに。『中国の赤い星』(1936年)の著者エドガー・スノーは、毛沢東の中に「リンカーン」風の相貌を見いだすと信じた。1970年に、ジョン・レノンは、中国の独裁者が「良い仕事をしている」と考えた。
このようなグロテスクな追従は、英国では恐らく決定的に終わるだろう。というわけは、最近、ロンドンで、『毛沢東:この知られない物語』(Mao:The Unknown Story, Joanathan Cape, £25)というある暴露本のセンセーションが市場を席捲し始めたからである。著者は、張戎とジョン・ハリデイである。張戎は、文化革命の生き証人で生き残りであり、ハリデイは彼女の夫であり、歴史家である。ロシアの文書館から時代の証人とのインタービューや毛沢東の周辺にまで及ぶ10年間の驚嘆すべき史料の解明によって、二人の著者は、毛の恐怖の証拠を提示した。
 毛の道を飾る7,000万人の死者についての証拠史料は、気が滅入る。800ページのこの本は、大量虐殺を目指し、洗脳と敵を追求する際のサディスティックなのぞき趣味や病的な乱交に到るまで、一人の血に飢えた自己中心主義者を暴露することのように読める。著者の証明するところでは、毛はマルクス主義者であるよりは、むしろ狂気に駆られたオポチュニストであった。
 著者が痕跡をたどったドキュメントの中には、中国共産党が創立される4年前、1917年に24才の毛沢東が書いた『自分自身に』と題する自伝的な文書がある。そこではダンディ風の反道徳主義が告知され、「私のような人間には、自己に対する義務しかない。私は、峡谷から上昇してくるハリケーンのように、力を崇拝する。・・・私は自分自身にしか責任を持たない。」
 「彼は殺人を好んだ」と著者達は書いている。1957年から1961年までの「大躍進」と称する強制的な工業化の間の中国農民の、(3,800万人と推定される)餓死者について、毛は、「彼らは土地の肥料になる」とうそぶいた。ヒトラーとスターリンの恐怖の方法に彼は「絶えざる脳のテロ」を付け加えた。これは自己批判し、自分自身の周囲の想像された悪行を暴露することによって、社会を神経症的に強迫に陥れるものであった。
 この本の本来のセンセーションは、1934年から35年にかけての大長征から始まる毛沢東の上に向かう道についての神話を一つ一つ下から解体する仕方にある。蒋介石が率いる国民党を前にしての紅軍の英雄的な退却戦、毛の卓越した戦略についての賛歌、これらは嘘とねつ造であることが暴露される。
 共産党の軍隊が通り抜けた省においては軍閥に期待したが故に、国民党が紅軍がロシア国境の方向に撤退をしやすくしただけでない。モスクワでは、ソヴィエトは、蒋介石の息子を人質に取っていたので、蒋介石は彼を取り戻すために、共産主義者を寛大に扱った。8万6千人の紅軍が延安では4千人に減ったのは、天候や荒れた土地のような自然の影響と並んで、毛の拙劣な指導と戦術的な無能力のせいであった。
だが、偉大な指導者は、大抵の時間をしばしば未成年の少女達が担ぐ駕籠に乗って運ばれた。しかし、担ぎ手の多くは、疲労困憊のために命を落とした。
 大長征の間の毛沢東神話にとって中心的なルディングの吊り橋を巡る戦闘は、実際は起こらなかった。退却する紅軍にとって、渡河は妨げられなかったし、ソヴィエト連邦が絶えず援助したお陰で、毛主席は、突破できた。北京政府が創立の象徴である毛についての真実を認めないのは不思議ではない。そんなことをすれば、政権が自己解体することになるからである。
 張戎は、14年前、文化大革命期の自分と家族の受難の時代に基づく彼女の自伝『ワイルド・スワン』で世界的成功を収めた。この新しい本で、彼女は歴史的次元への突破に成功した。この本が中国で出版されたら、1956年にフルシチョフが第20回党大会でスターリン批判を行ったときのように、地震が起きるだろう。53才の張戎は、既に『毛沢東:この知られない物語』の中国語訳に着手している。それは現代中国の最も重要な「地下出版」になるだろう。
6月10日付け『ヴェルト』紙に掲載された書評で、筆者はトーマス・キーリンガー。
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1 コメント

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共産党の独裁政権の悲劇 (pass)
2009-07-23 16:07:34
この本は過去の中国を纏めた本と思います。実は現代の中国は形を変えて、独裁の本質はまったく変わっていません。大紀元ー日本のウェニュースを見ればかなり参考になります。
興味のある方は以下のサイドへ
http://www.epochtimes.jp/
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