海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「イエスと特殊部隊」と題する『ヴェルト』紙の記事。

2007年03月09日 | イラク問題
あなたは、アメリカの戦争映画を見たことがあるか?例えば『ブラック・ホーク・ダウン』や『ジャーヘッド』のような映画だ。もし見たことがなければ、それも悪くはない。
戦争映画では、時に大胆に見える男達が、ひげ面で、日焼けした顔をして、軍服は着ていないが、重武装をしている。それが特殊部隊だ。彼らは敵の陣地の背後に回り、馬に乗って砂漠を行ったり、鞍にはドル札の入ったトランクを積んでいる。そういう風に、戦士達は気分を転換させられたそうだ。ドイツでは、特殊部隊は、KSK(特殊兵のコマンド)と呼ばれる。誰も彼らが何をしているか知らない。一切は高度に秘密である。彼らは質問する前に撃つと言われている。そうなら、質問はもはや必要ではないだろう。人々は彼らをバイソンのように扱う。つまり、彼らの目をじっと見たりしない。彼らの一人の写真を撮ろうとしてみるがいい。うまく行ってもあなたはカメラを失うだろう。
最近、私はバグダッドの空港に座って、ヘリコプターを待っていた。太陽は照りつけ、素晴らしいイラクの冬の日だった。私も髭を生やしている。私も日焼けしている。私はドイツの家で二三回日光浴をしたからだ。目的は、灰色の冬の日に私の脳の中のエンドルフィンの量の均衡を保つためだ。だが、それ以外は私は、特殊部隊のメンバーとは、共通点はない。そういうわけで、私は私の防弾チョッキの上に戦闘用のズボンを履いて横になり、キャメルを吸っていた。
しばらくして、一人の兵士が私のほうへやってきて、私と並んで砂利の中に腰を下ろした。「神の祝福がありますように」と彼は言った。私はうなずき、彼は質問もしないのに自分のライフヒストリーを話し出した。
彼が意気阻喪して第一次湾岸戦争から帰ってきたこと。二度と戦争に関わりたくないと思ったこと。だから、彼は軍隊を辞めた。彼がアルコールにおぼれたのは馬鹿だったと彼は続けた。それが理由で、妻は彼の許を去った。米国がイラクに侵入した後で、ある夜、夢でイエス・キリストが現れた。「もう一度陸軍に入れ」とイエスは言った。「イラクへ行って不信仰者を真の信仰に改宗させよ。それがお前の使命だ。」彼はその命令に従った。「イエスは、私の救いだった。」だが、イエスはモスレムがなかなか改宗されないということは言わなかった。「だから、こいつらの多くを殺さなければならないのだ」とその兵士は言った。「それは腹立たしい。だが、それ以外に道はない。」一体私が陸軍で何をしているかって?私的な保安サービスの特殊部隊か?」
「何だって、いや、私はジャーナリストだ」と私は言った。
「やれやれ。」
彼は立ち去りはしなかったが、それ以上は何も言わずに、立て続けにタバコを吸った。ちっと後で、もう一人の男がわれわれに加わった。ひげ面で、カーキ色のズボン、M4自動小銃を持っていた。彼は私を「バディ」と呼んだ。「仲間」という意味だ。彼もすぐに自分の身の上話を始めた。私が本を読もうとしていることは、彼らのどちらにも
興味はなかった。「あのころ、俺は特殊部隊にいた。何という時代だったか。」
イエスが夢に現れたという男が「ねー、君」ともう一人に呼びかけた。何の反応もない。
「自分がこのような出動をするには歳を取りすぎているのは残念だ」とひげ面の男は言った。「腰にはまだ砲弾の破片が入っている。アフガン土産だ。」だから、彼は現在、私営の保安会社で車列を警備している。「沢山の金が手に入る」と彼は言った。
「ねー、君」と私の隣の男が呼びかけた。だが、それには何の反応もない。
それから彼はまたもや敵の前線の背後でのテロリスト狩りの滑稽で秘密の細部について物語った。
「それで、君のイラクでの仕事は何かね。特殊部隊か、それとも、海兵隊か?」と彼は尋ねた。
「おい、今度は俺の言うことを聞けよ。そいつはジャーナリストなんだ。」
ジャーナリストは、特殊部隊の天敵のようなものだ。それとも逆か。
私を「仲間」と呼んだ男は、今度は「あぶくだ」と言った。そして二人は消えた。
これは私にはいささか不愉快だった。だって、私はその間中一言も言わなかったからだ。
[訳者の感想]『ヴェルト』紙のイラク特派員カルステン・シュトルメの書いた「イラク日記」という連載記事です。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「中国の惰性は、緑の革命を... | トップ | 「ボードリヤール、最後の予... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

イラク問題」カテゴリの最新記事