海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「中国の第二の長城」と題する『フランクフルター・アルゲマイネ』紙の記事

2006年05月22日 | 中国の政治・経済・社会
 ダムは、かってモスクワ大学で水力発電所の建設について研究し、大きな抵抗を押し切ってプロジェクトを実現した李鵬元首相の一番お気に入りの子供である。1998年に李鵬が引退したとき、この巨大な建設プロジェクトは、もはや止めることはできなかった。彼の後継者であった朱溶基首相は、自分はこのプロジェクトとは関わりたくないということをはっきりさせた。
 先週、土曜日、最後のコンクリートが高さ185メートルに及ぶダムの壁に流し込まれ、12年に及ぶダム工事の後、公式の完成が祝われたとき、北京からは高位の政治家はだれもやってこなかった。宣伝は、2008年に稼働を始める予定の世界最大の発電所の建設の一里塚を祝った。
 だが、ダムでは、建設労働者だけが簡単な儀式で祝い、中国の伝統にしたがって、悪しき霊を追い払うために、爆竹を鳴らした。それも必要だった。なぜならば、ダム建設に反対してきた環境保護主義者ダイ・チンは彼の心配が現実になっただけでなく、彼の心配を遥かに越えていると考えている。
 「環境汚染は、建設前にわれわれが想像していたよりもずっと酷い」とダイ・チンは、長さ660キロメートルに及ぶダム湖に沈む町や村々の残滓や取り残された工場や、物資集積所や墓地を引き合いに出して言う。その上、長江はここではもはや以前のように速く流れない。「水質は、季節によっては、都市の近くでは、もはや飲むに堪えない。」
 事情が分かっている党幹部達は、自分たちのためにこっそり井戸を掘ったが、人民には何も知らせなかった。ダムが建設された地点は固い岩盤でできているが、ダム湖の沿岸は大抵は地盤が軟らかいので地滑りが起こった。「これは大きな問題になるだろう。」
 ダムは、致命的な洪水を防ぐことできるという主張は、彼らの目から見ると現実的ではない。ダムの貯水量は、1998年の最後の大洪水を防ぐのに必要だったと推定される容量の10分の1しかない。100万人がダムのために故郷と家を失った。多数の人々はもっと高い山の上に引っ越さなければならず、豊かな農地を失い、自然を破壊したので、結局別の土地に移された。
 移転の費用は党幹部が管理していた。十分な補償金をもらえなかったという該当者の嘆きは終わることがない。「腐敗は明白だ」とダイ・チンは言う。役所も繰り返し捜査し、腐敗した幹部を裁判にかけ、その一人を見せしめのために死刑に処した。「だが、にもかかわらず、腐敗を防ぐことができなかった。」
 「生産される予定の電力も安くはない」とダイ・チンは言う。「長江の電力はもっとも高い。国営の電力供給者は、三峡ダムのために、普通の費用の二倍の費用を払わねばならなかった。会計検査官のヤン・ヤは、「完全な稼働が開始された後10年間に、1800億元(2兆7000億円)の建設費が取り戻されなければならない」と言う。
 外国の専門家は、費用をその2倍に見積もっている。だが、本来、建設費が実際にどれほど高くついたのかを知っている者は誰もいないのだ。ましてや、移住が実際にいくらかかったのか、どのような価値が水中に没したのか、環境破壊がどれほど大きいのかは誰もしらない。
[訳者の感想]公共事業はしばしば採算を度外視するようですが、三峡ダム建設もその一つかもしれません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする