海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「仮想戦争の隠れた指導者」と題する『ガーディアン』紙の記事。

2006年05月19日 | イスラム問題
2001年9月11日のテロから殆ど五年たったが、オサマ・ビン・ラディンはいまなおアメリカ軍の追跡を免れている。「山のライオン」作戦は一月近くパキスタンに隣接したアフガニスタンのコナール州の全体を掃討しているが、今週あきらめのため息と共に終結した。アルカイダの指揮官がそこに前にはいたとしても、もはや彼はそこにはいない。
米国には見守る以外の選択はなかった。先月、アルジャジーラ・テレビで放映されたビン・ラディンの破壊行為の脅しは、ジョージ・ブッシュが勝てない敵がまだ生きていることを思い出させた。彼を捕獲できれば、ブッシュの30%までの支持率を上向かせる力があったのだが。彼を殺すほうがもっと良かっただろうとパキスタン駐在のある外交官は言った。「われわれが彼を生きたままで捕まえた場合の問題を想像したまえ。もう一つのサダム裁判を望むかね?彼にそのような討論の場を与える気があるかね?」
けれども、米国高官と独立のアナリスト達はビン・ラディンを黙らせることは第二の挑戦だということでは意見が一致している。彼の戦闘的なメッセージを黙らせることは、ムスリム世界内部で荒れ狂っている思想の戦いに勝つ点ではもっと重要である。
アルカイダのメディア戦略は、洗練さの度合いを強めている。イラクとアフガニスタンにおけるムジャヘディンの攻撃や「裏切り者」の斬首を描写するビデオやDVDは、中近東の市場では一般的な流行となった。もっと最近の現象は、アフガンとパキスタン国境にある150のFMラジオ局の出現である。ペシャワール在住の情報提供者によれば、「それらは西欧に対する憎悪とジハードのメッセージをまき散らしている。」
だが、これはより広範な問題のほんの一部に過ぎないと、国防次官ピーター・ロッドマンは今月米国議会で述べた。国防省のチームは、宣伝の演説、グラフィックス、訓練マニュアル、スライドなどを作り出すのに使われている世界中の5千のインターネット・サイトをモニターした。
アルカイダとその連携者・支持者達は、西欧のマーケッティング組織がするように、特定の国を狙っていると国防次官は言った。この中には、インターネットの作品をロシア語やトルコ語に翻訳する仕事が含まれている。国務省の言うところでは、インターネットが「テロリストの待避場所」のリストを載せている。その理由は、それが「敵にそれ自身の公的メディアの窓口を作り支える力を与えているからである。」
アルカイダが暴力的な直接行動と結びつけられているのに対して、その作戦能力は2001年以来低下したと情報筋は述べている。これと対照的に、「反十字軍的抵抗」の推進者としてのその有効性は、増進した。この進化の中で、ビン・ラディンは、仮想戦争の隠れた指導者という役割を演じている。
雑誌『国益』に執筆しているアラブ世界の専門家であるマーク・リンチは、米国は、外交政策を強調しているにもかかわらず、複数メディアを用いたジハードの猛攻撃に対抗するのに失敗していると言う。だが、もっと基本的に、米国は、自分がアルカイダの改宗行動の最終目標ではないということを理解しそこねている。
 アルカイダの目標は、共有されたイスラム的アイデンティティについての過激で教義的に純粋な概念に基づく「単一の政治的ビジョンをアラブ世界」に押しつけることであったとリンチは言う。そうしようと戦う内に、アルカイダは、穏健イスラム主義者や世俗的アラブ・ナショナリストやしばしば敵対的なアラブ・ムスリム系メディアからの反対に直面した。西欧の介入ではなくて、彼らの抵抗こそが、テロを非合法化し、過激主義を打ち負かす最善の希望を与えている。
「イスラムとの現実のイデオロギー上の闘争において、米国は相対的にマージナルな自滅的なプレイヤーである」とリンチ教授は言う。「次の段階は、アラブ人が彼ら自身の間で持っている現実の主張に注意を払い、アルカイダを批判する者達に彼ら自身の戦争に勝つための余地を認めることである。」
[訳者の感想]『ガーディアン』紙にすぐれた論説を寄稿するサイモン・ティスドール氏の論説です。イデオロギー闘争では、アメリカはむしろ守勢に立っており、穏健派ムスリムや世俗的アラブ・ナショナリストの方がアルカイダの偏狭な思想を打破する力を持っているという主張だと思われます。

コメント (1)
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