・「春の三つ石」(駒田久子) 4才のとき、老女とともに行き倒れになり、老女が死んだ後、名主さんの家に奉公人として引き取られた女の子が主人公の歴史もの。「ちか」という自分の名前しか覚えていなかった子には疱瘡にかかったらしく顔があばたが残っている。寺子屋で「あばた、すてご」とからかわれ、頭に血がのぼった千加は、相手に墨汁をかけてしまうほど負けん気が強く、しっかりと育つ。千加を支えてくれているのは、千の力を持つという漢字の名前をつけてくれた名主の庄右衛門さん。そのやんちゃ息子宗助。庄右衛門の母親のリクさん達だ。
私は、何年も前から駒田さんの書く歴史もののファンです。早く本にしてほしい。今回の作品はまたおもしろく、ぐいぐいと読ませてくれます。私はいわゆる歴史小説ファンというわけではなく、みなさんがすごく好きだとおっしゃる藤沢周平とかも、実はそんなんでもありません。(映画化されたものは、どれも好きなので、読む力がないのかもしれません)でも駒田さんの書く歴史物は、女の子が主人公のせいか、いつも心地よく読むことができるのです。歴史物を書くにあたり、細部の考証をしっかりしなくてはいけないのは当然のこと。それはもうしっかりとされています。「春の三つ石」は、千加の境遇と気の強さがいいバランスで書かれていると思います。挿絵がつけば、子どもでも十分読める作品ではないでようか。
また「明日に咲くハンノキ」(越智みちこ)も読み応え十分の作品で、一茶の句が織り込まれていて、うなりました。もちろん他の掲載作品どれもが、かなりのレベル。そんな作品に対してもあさのあつこ代表が「心のままに書き連ねるのではなく、自分の書く世界に責任と覚悟をもってください」という評をくださるところが、また嬉しいと思いました。これはその作者にだけ言っているものではないのですから。
今号では、私は、『密話』(石川宏千花・講談社)の書評を書かせていただきました。