[5月のある日 時刻不明 地獄界“賽の河原” 獄卒詰所 蓬莱山鬼之助]
「あー、目がチカチカする!ちくしょーい!」
キノは事務室で書類整理の手伝いをさせられていた。
「もう少しで終わるよ」
近くにいた別の青鬼獄卒が苦笑した。
「これならユタみてーに、冥鉄眺めに行く方がよっぽど楽だぜ」
「そんな仕事無いから。ほら、この書類、そこの棚の上に上げといてくれ」
「あいよ」
キノは長身を活かして、高い棚の上に書類を置いた。
「ん?何だこれ?外国語で書いてあるじゃん?」
「ああ、それ。見ての通り、外人を取り扱うエリアから来たヤツだね」
「向こうさんには向こうさんの地獄があるだろう?」
「うちでも取り扱うようになったんだよ」
「だからって、英語やフランス語の書類持って来られても読めねぇって」
「まあ、それはそうなんだけど……」
「あ、でも、中は和訳されてるな。少しだけど……」
「今度、和訳担当の部署設置するって話だよ」
「オレにはムリだな。人間界に行って、翻訳機大量購入した方が早くね?」
「それを言っちゃー、おしまいよ」
「だな」
2人して笑う。
風が吹き込んで来て、その書類が舞い上がる。
「うおっと!いけねっ!」
数枚ほど舞い上がった書類をキノを拾い上げた。
「ふう、セーフ!」
「紛失したら大変なことになってたぞ〜」
「いや、全く」
キノは冷や汗を拭って、拾い上げた書類を見た。
「ん?」
その書類は一部が和訳されたもの。
その中に、
『マリアンナ・スカーレット』『アンジェラ』
という文字が見て取れた。
(マリアンナって確か……あの、おもしろ魔道師の……?気のせいか?)
[同じ時期 長野県内某所 マリアの屋敷 マリア]
「……!!」
マリアは早朝、目が覚めた。
寝汗を沢山かいている。
「……どうしたの、マリア?また悪い夢でも見ちゃった?」
隣のベッドで寝ていたイリーナが声を掛けた。
「……お察しの通り」
「最近見ないようになってたのにねぇ……」
「何故……?」
「答えを出す前に、着替えてシャワー浴びてきな。魔道師でも風邪引くよ」
「行ってくる」
マリアはベッドから出た。
すぐに付き人……マリアの操る人形だが、それが先導を始めた。
(あのコの業は、そう簡単には解消できないからねぇ……)
イリーナはそう思って、再び横になった。
夢占い(というか予知夢)も生業とする魔道師にとって、悪夢を見ることはけして異常なことではない。
しかしマリアの場合、5月に入ってから特にそれが相次いだのである。
(まあ……5月くらいだったもんねぇ……。あのコが魔道師の修行を始めたのは……。んー……)
イリーナ、何かいい考えが?
「クカー……」
……ではないようだ。
[同じ時期の昼間 埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ]
「ふんふーん♪」
ユタは部屋でPCのキーボードを叩いて、大学に出すレポートを作成していた。
「ご機嫌だね、ユタ?」
茶を持ってきた威吹が話し掛けた。
「これが終われば、もうすぐマリアさんに会える❤」
「えっ、あの魔道師また来るの?」
「今度はディズニーリゾートにでも行こうかなぁ……」
「ゴールデンウィークの時期に、勇気ありますね。かなり混んでますよ」
カンジもやってきた。
「先生、お茶菓子お忘れですよ」
「おっと、いけねっ!」
「ありがとう。もうすぐ終わるから」
ユタはにこやかに答えた。
そして……。
「とはいうものの、いつもと同じさいたま市じゃ飽きてくるなぁ……」
レポート作成も終わって、階下に降りて来たユタはそう呟いた。
「それじゃ、都内へ行かれたらどうですか?いかに魔道師と言えども、特にマリア師はあまり東京を知らないのでは?」
カンジがそう助言する。
「都内なぁ……」
ユタは首を傾げた。
まさか、自分の所属末寺に連れて行くわけにもいくまい。
本物の人間ではないからだ。
「で、その魔道師はいつ来るんだ?」
「えーと……」
その時、家のインターホンが鳴った。
「おおっ❤」
「噂をすれば……か」
「オレが出ましょう」
カンジがポーカーフェイスを崩さぬまま、玄関に向かった。
「こーんにーちはーっ!世界の魔道師、参上っ!」
イリーナがハイテンションで登場する。
「……何用だ?アラミレBBA?」
ドゴッ!(←カンジの顔面にイリーナの右フックが直撃)
「わーっ、カンジ!大丈夫か、しっかりしろ!」
威吹が鼻血を流しながら仰向けに倒れるカンジを助けに行った。
カンジはポーカーフェイスを崩さぬまま【以下略】。
「何で妖狐族ってのは、学習能力が無いかねぇ……」
因みにアラミレというのはアラウンド・ミレニアムのことで、イリーナの実年齢が1000歳以上で、BBAはババァのこと。
「あ、イリーナさん。こんにちは」
奥からユタが恐る恐るといった感じで出て来た。
「こんにちは、ユウタ君」
「あ、あの……マリアさんは?」
「マリアったら、ちょっと具合が悪くなっちゃってねぇ……。今日は来られないかもしれないのよ」
「ええーっ!?」
ユタは思いっきり残念そうな顔をした。
「なもんで、師匠の私が代わりに来てあげたよ」
「いや、お前は余計だと思うが……」
威吹は倒れたカンジの手当てをしながら言った。
「まあまあ、威吹。せっかく来てくれたんだから。イリーナさん、どうぞ中へ」
「ユウタ君は素直でいい子だねぃ。マリアと一緒にさせても安心だわ!」
「ありがとうございます」
「……オレは反対だけどな」
威吹はポツリと言った。
「おい、魔道師。ユタには隠し事は無しにしろよ?お前の弟子と一緒にさせるつもりなら、あいつの過去についてもユタに教えるんだ」
「『知らぬが仏』という諺があるんだけどね」
「『知ったら閻魔』というわけでもあるまい?それとも……そうなのか?」
「それは後々、追々、ユウタ君に決めてもらいましょう」
「だから!ユタに負担掛けさせるなと言ってるんだ!」
「ユウタ君、紅茶入れられる?」
「あ、はい。ちょうど日東紅茶があったかな……」
「くぉらっ!無視するんじゃねぇ!」
威吹は鬼族に負けず劣らずの牙を剥き出しにしたが、
「いいから、威吹はカンジ君の介抱してなよ」
“獲物”であるユタに突っ込まれ、威吹は黙らざるを得なかったのである。
「あー、目がチカチカする!ちくしょーい!」
キノは事務室で書類整理の手伝いをさせられていた。
「もう少しで終わるよ」
近くにいた別の青鬼獄卒が苦笑した。
「これならユタみてーに、冥鉄眺めに行く方がよっぽど楽だぜ」
「そんな仕事無いから。ほら、この書類、そこの棚の上に上げといてくれ」
「あいよ」
キノは長身を活かして、高い棚の上に書類を置いた。
「ん?何だこれ?外国語で書いてあるじゃん?」
「ああ、それ。見ての通り、外人を取り扱うエリアから来たヤツだね」
「向こうさんには向こうさんの地獄があるだろう?」
「うちでも取り扱うようになったんだよ」
「だからって、英語やフランス語の書類持って来られても読めねぇって」
「まあ、それはそうなんだけど……」
「あ、でも、中は和訳されてるな。少しだけど……」
「今度、和訳担当の部署設置するって話だよ」
「オレにはムリだな。人間界に行って、翻訳機大量購入した方が早くね?」
「それを言っちゃー、おしまいよ」
「だな」
2人して笑う。
風が吹き込んで来て、その書類が舞い上がる。
「うおっと!いけねっ!」
数枚ほど舞い上がった書類をキノを拾い上げた。
「ふう、セーフ!」
「紛失したら大変なことになってたぞ〜」
「いや、全く」
キノは冷や汗を拭って、拾い上げた書類を見た。
「ん?」
その書類は一部が和訳されたもの。
その中に、
『マリアンナ・スカーレット』『アンジェラ』
という文字が見て取れた。
(マリアンナって確か……あの、おもしろ魔道師の……?気のせいか?)
[同じ時期 長野県内某所 マリアの屋敷 マリア]
「……!!」
マリアは早朝、目が覚めた。
寝汗を沢山かいている。
「……どうしたの、マリア?また悪い夢でも見ちゃった?」
隣のベッドで寝ていたイリーナが声を掛けた。
「……お察しの通り」
「最近見ないようになってたのにねぇ……」
「何故……?」
「答えを出す前に、着替えてシャワー浴びてきな。魔道師でも風邪引くよ」
「行ってくる」
マリアはベッドから出た。
すぐに付き人……マリアの操る人形だが、それが先導を始めた。
(あのコの業は、そう簡単には解消できないからねぇ……)
イリーナはそう思って、再び横になった。
夢占い(というか予知夢)も生業とする魔道師にとって、悪夢を見ることはけして異常なことではない。
しかしマリアの場合、5月に入ってから特にそれが相次いだのである。
(まあ……5月くらいだったもんねぇ……。あのコが魔道師の修行を始めたのは……。んー……)
イリーナ、何かいい考えが?
「クカー……」
……ではないようだ。
[同じ時期の昼間 埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ]
「ふんふーん♪」
ユタは部屋でPCのキーボードを叩いて、大学に出すレポートを作成していた。
「ご機嫌だね、ユタ?」
茶を持ってきた威吹が話し掛けた。
「これが終われば、もうすぐマリアさんに会える❤」
「えっ、あの魔道師また来るの?」
「今度はディズニーリゾートにでも行こうかなぁ……」
「ゴールデンウィークの時期に、勇気ありますね。かなり混んでますよ」
カンジもやってきた。
「先生、お茶菓子お忘れですよ」
「おっと、いけねっ!」
「ありがとう。もうすぐ終わるから」
ユタはにこやかに答えた。
そして……。
「とはいうものの、いつもと同じさいたま市じゃ飽きてくるなぁ……」
レポート作成も終わって、階下に降りて来たユタはそう呟いた。
「それじゃ、都内へ行かれたらどうですか?いかに魔道師と言えども、特にマリア師はあまり東京を知らないのでは?」
カンジがそう助言する。
「都内なぁ……」
ユタは首を傾げた。
まさか、自分の所属末寺に連れて行くわけにもいくまい。
本物の人間ではないからだ。
「で、その魔道師はいつ来るんだ?」
「えーと……」
その時、家のインターホンが鳴った。
「おおっ❤」
「噂をすれば……か」
「オレが出ましょう」
カンジがポーカーフェイスを崩さぬまま、玄関に向かった。
「こーんにーちはーっ!世界の魔道師、参上っ!」
イリーナがハイテンションで登場する。
「……何用だ?アラミレBBA?」
ドゴッ!(←カンジの顔面にイリーナの右フックが直撃)
「わーっ、カンジ!大丈夫か、しっかりしろ!」
威吹が鼻血を流しながら仰向けに倒れるカンジを助けに行った。
カンジはポーカーフェイスを崩さぬまま【以下略】。
「何で妖狐族ってのは、学習能力が無いかねぇ……」
因みにアラミレというのはアラウンド・ミレニアムのことで、イリーナの実年齢が1000歳以上で、BBAはババァのこと。
「あ、イリーナさん。こんにちは」
奥からユタが恐る恐るといった感じで出て来た。
「こんにちは、ユウタ君」
「あ、あの……マリアさんは?」
「マリアったら、ちょっと具合が悪くなっちゃってねぇ……。今日は来られないかもしれないのよ」
「ええーっ!?」
ユタは思いっきり残念そうな顔をした。
「なもんで、師匠の私が代わりに来てあげたよ」
「いや、お前は余計だと思うが……」
威吹は倒れたカンジの手当てをしながら言った。
「まあまあ、威吹。せっかく来てくれたんだから。イリーナさん、どうぞ中へ」
「ユウタ君は素直でいい子だねぃ。マリアと一緒にさせても安心だわ!」
「ありがとうございます」
「……オレは反対だけどな」
威吹はポツリと言った。
「おい、魔道師。ユタには隠し事は無しにしろよ?お前の弟子と一緒にさせるつもりなら、あいつの過去についてもユタに教えるんだ」
「『知らぬが仏』という諺があるんだけどね」
「『知ったら閻魔』というわけでもあるまい?それとも……そうなのか?」
「それは後々、追々、ユウタ君に決めてもらいましょう」
「だから!ユタに負担掛けさせるなと言ってるんだ!」
「ユウタ君、紅茶入れられる?」
「あ、はい。ちょうど日東紅茶があったかな……」
「くぉらっ!無視するんじゃねぇ!」
威吹は鬼族に負けず劣らずの牙を剥き出しにしたが、
「いいから、威吹はカンジ君の介抱してなよ」
“獲物”であるユタに突っ込まれ、威吹は黙らざるを得なかったのである。
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