報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

きっと終わりは大団円?

2013-07-12 22:19:40 | 日記
 “新人魔王の奮闘記”もう少し続きます……。

[13:00.闇の森“中央の村・シルカの家” 安倍春明]

 我ながらいいアイディア。今のルーシーは“魔王の杖”を携えた、言わば魔力の高い状態だ。スマホで言うなら、普段のパケットではなくWi-fiを使うようなものだ。
 昼食を終えた後で、ルーシーはシルカの家に入った(因みにエルフの郷土料理はあっさりし過ぎてて、ルーシーの口にはあまり合わなかったもよう)。
「…………」
 相変わらず、昏々と眠り続けるシルカ。その顔色を覗き込むルーシー。
「毒ではないね、これ」
「ええっ!?」
「だから一応、横田犯人説は覆ると思う」
「さすが陛下です……!」
 横田はハンカチで涙を拭いていた。
「横田に罪を擦り付けるために、幻魔獣を使ったのね」
「誰が!?」
「そんなの知らないよ。春明、闇の森の治安が悪いことに留意しなかったね?」
「村の中は大丈夫だと思ったんだ」
 しかし犯行現場は、村を出た場所だった。だから私の言葉は、明らかにただの言い訳だ。
「ま、説教は後にするとして……」
「では毒ではないというのなら?」
「呪いよ。簡単な、ね」
「そうだったんですか……」
 シルカの両親は意外な顔をしていた。
「このコを殺すつもりはない。あくまで、共和党の和合を乱すため……ってところね」
「それで魔王……陛下。このコは助かるのでしょうか?」
 母親が不安そうに聞いてきた。因みに両親は人間の言葉が話せないので、サイラスが通訳に入っている。
 ルーシーはシルカの顔を覗き込んでいた。そして、言う。
「……大丈夫。できる」
「おおっ!」
 しかし、それは自分に言い聞かせるように聞こえた。
 ルーシーは“魔王の杖”を右手に持ち、シルカの横に立てた。左手は、シルカの顔の上にかざす。
「皆、静かにしてろ。陛下が精神を集中しておられる」
 坂本がどこから持ってきたのか、ゴルフの試合の時、係員が観衆に向かって見せる『お静かに』というプラカードを掲げた。
 すると、杖の先端部分が青い水晶球になっているのだが、それが光り出した。水晶球の大きさはゴルフボールくらい。
「……ルーシー・ブラッドプール1世の名のもと、魔王の力ここに解き放たん。呪文詠唱……」
 どうやら、これから呪文を唱えるようだ。すると何故かルーシーがチラッと、私の方を見た。ん?私に何かしろと言うのか?だが、私がきょとんとした反応をすると、ルーシーは再びシルカの方を向いた。そして、唱える。
「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ……」
「……!?」
 私以外の周りの者達は皆、ルーシーが呪文の詠唱をしたと思っているだろう。だが、私には何か引っ掛かるものがあった。
 すると、シルカが目を覚ました。
「おおっ!」
「シルカが……シルカが目を覚ました!」
 家の中はもちろん、その外にまで大歓声が起きた。そこで私はハッと気づく。
「ラーメン二郎か!!」
 人間界外遊の際、ルーシーは回転寿司の後にもその店に行くことを希望した。だが、予算と時間の問題でカットしたことを思い出す。てか、この女王様、7つの大罪の“暴食(または悪食)”の悪魔が取り憑いてるんじゃないのか?
「春明……」
「な、なに……?何ですか?」
「この魔法はね、確かに呪文は何でもいいのよ」
「そ、そうなの!?」
 呪文の詠唱はただのパフォーマンスなのか?……いや、パフォーマンスではないらしぃ。
「だけど、使用した術者はそれに関連する行動を取らなければならない……」
「と、言いますと?」
 ルーシーはペロッと舌を出した。
「推し量りなさい!」
 つまり……。
「……分かりましたよ。今度時間取れたら、ラーメン二郎行きましょう」

「ルーシー陛下、バンザーイ!」
 いつの間にか、ルーシーの周りはルーシーを称える声があちこちから聞こえていた。

[16:00.魔界高速電鉄 魔の森線“魔の森駅” 安倍春明]

 とにかくだ。ルーシーの支持率が闇の森の住民達から、ますます上がって何よりだ。しかし、まったくの盲点だった。私達を陥れようとした者とは、一体何者なのだろう?確かに我が政権に対して敵は多い。まもなくルーシーが正式に戴冠するとはいえ、それに心から賛成している魔族は少ない。ましてや、新魔王を支える議会がほぼ人間で構成されていることに物凄い不満があるという。
「今、デビル・ピーターズ・バーグ駅に連絡しました。大至急、特別列車を用意して向かわせるそうです」
 ブラウンが駅の通信線を使った。いかに無人駅と言えども、一応は営業している駅なのだから、ちゃんと鉄道電話は備えられていた。
 特別列車といってもお召し列車が存在するわけではない。
「春明。さっきの件、お願いね。早い方がいいし、遅かったら……どうなってるか分かってるわよね?」
「はい……」
 で、本当にラーメン二郎に行ったら、あの呪文通りの注文をするつもりなのだろうか。あの呪文の文言をそのまま注文したら、どんなのが出てくるのか【お察しください】。
「陛下。本当にありがとうございました」
 サイラスが改めてルーシーに言った。
「ここにいる愚かな議員達のピンチを救うのも女王の役目みたいだからね。それに……その愚か者どもを潰すために、小さな国民を犠牲にはさせないよ」
「うん。実に素晴らしい」
 私は大きく頷いた。そして、ホームの端にいるかつての仲間の所に行った。
「どうだい?大魔王ヴァールと違って、いい魔王様だろ?」
「そうね……」
 それでもレナは半信半疑といった顔だ。
「あの魔王様ならもう人間を虐げることはないし、人間界に攻め込むこともないだろう」
 私はそう続けて言った。
「1度はそれを企んでいたわけだけどね。3年以上前の想定外な自然災害は全部あの……」
「まあまあまあ。もうそんなことも無いように、俺が傍についてるからさ」
「大甘勇者様ね。今のうちに討っておいた方がいいんじゃない?」
「大丈夫だって」
「いい?私情はダメよ?何のために首相に収まったのか、ちゃんと……」
「分かってるって」
「ちょっと!そこで何コソコソやってんの?」
 ルーシーが咎めるように言ってきた。
「あ、いや。ほら、かつての仲間との再会なもんでねぇ……」
 無論それはルーシーを討伐するための仲間だったわけで、彼女にとっては気分のいいものではないだろう。
「あ、そうだ。そういえばレナって、何の用で俺の所に来たんだ?」
「別に。ちゃんとアンタが魔王を監視しているかどうか見に来ただけ」
「そう、なのか……」
「ちょっと、危なっかしい所もあるみたいだけどね」
「あ……まあ、反論はできないか。ははは……」
「閣下ーっ、電車が来ましたーっ!」
「おーっ!」
 党員の1人が呼びかける。霧の向こうから、今度は比較的新しい黄緑色一色の電車がこっちに向かってきた。
「レナも王宮まで来なよ。首相への来賓にしておくさ」
「そりゃどうも」
 さすがにルーシーへの謁見は許されそうになさそうだった。

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