報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

久しぶりに深夜の更新

2013-08-01 02:45:57 | 日記
 “ボカロマスター”より。前回より、数話分ほど飛んで……。

[15:00.都内のとあるスクラップ工場 エミリー]

 敬愛するドクター南里へ。

 御逝去されたら直ぐ様、御遺言をドクター平賀にお伝えし、お傍に参るというプログラムを私に組み込んでくださいました。ですが、その通りの行動が取れず、いつまでもこの世にいます。申し訳ありません。具体的なお時間は約束できませんが、もうしばらくお待ち願います。
 今月は色々なことがありました。いつもの通り、時系列で御報告申し上げたいのですが、何故か“手紙”という形になってしまいました。

 まず、ドクターの旧友であり、且つ仇敵であるところのドクター・ウィリーが亡くなりました。あの世で再会されていますでしょうか?この世でのわだかまりを解消され、かつてのように“悪友”でもあった頃のように仲良く酒盛りでもされているのでしょうか?それとも……。

 次に、もう1つドクターに謝らなければならないことがあります。私、結局シンディを守ってあげることができませんでした。“妹”はこれから、ドクター達の元へ逝こうとしています。鏡音レンと違い、財団内で全会一致で決まりました。破砕機に掛けて、“処刑”されるのです。レンと違い、悪い事を沢山してきたのだから当然ですよね。
 もし狂った状態で向かったなら、どうかドクターの手で修理してあげてください。
 昔、まだ私達が日本に行く前、落雷して狂った私を修理して下さったドクターを信じます。
 
 最後に、分からないことがあります。教えて下さい。私もまた、かつてはシンディと同じくらい悪い事をしてきました。ドクターは、
『お前を必要としている人間がいる限り、絶対にお前を壊さん。自ら壊れることも許さん。これからは、わしの元で罪を償っていけば良い』
 と、仰いました。
 しかしドクターは先述の通り、御逝去されたら私も後から来るよう命令されましたね。無論、従うつもりです。……つもりでいました。
 でも、新たに私の“主人”となったドクター平賀と、その御友人である敷島さんは、
『まだまだお前を必要としている。南里先生の後追いはやめてくれ』
 と、仰っています。

 どちらに従えばよろしいのですか?

[同時刻 同場所 敷島孝夫]

 今、シンディが破砕機に掛けられた。“処刑”は執行されたのだ。さしものターミネーチャンも、電源を切られた状態ならひとたまりもないようだ。
 この時、私は初めてエミリーの涙を見たような気がする。最愛の“親”を亡くした時ですら涙を見せなかったと思うが、近しい者が2人もこの世からいなくなって、さすがにこらえきれなくなったのか。あるいは……。
 思えば、エミリーもだいぶ変わったと思う。喋り方は相変わらずベタなロボットの法則通りだが、最初に会った時より表情が豊かになったと感じる(微笑、冷笑以外の笑顔は無かったが、それは彼女が“贖罪中”であるからだという)。
 私はどういうわけだか、“処刑立会人”として、ここにいる。財団の誰かが来ればいいのだが、まもなくそこに採用される私が抜擢されてしまった。理由は教えてくれなかった。
 喪服を着てさめざめと泣くエミリーがかわいそうになったので、私は“形見”を取ってやることにした。“処刑”が終わったのを見計らって、“処刑執行人”(という名のオペレーター)に頼んでみた。すると、
「いいですよ」
 とのこと。
 さて、スクラップと化したシンディのどの部分を形見にするか。遺骨の一部を形見として手元に置いておくという話をテレビで見たのを思い出して、この発想に至った次第である。
 彼女の上半身部分。身体のスペック自体は、“姉”と変わらないだろう。南里研究所に出入りしていた女性型ロボットではエミリーが1番身長が高く、体重もあり、胸と尻の大きさもトップだったと思う。その豊かな胸はシンディも同じで、その谷間部分……人間でいう心臓のある部分が裂けており、中の機械が剥き出しになっている。何故かそこに目が行った。
「ん?」
 その中に、高精度の部品には似つかわしくないものが入っていた。
「鍵?」
 そう、それは鍵。それも、随分と古めかしい型をしていた。例えて言うなら、キー・コーヒーのロゴ・マーク。あれに描かれている鍵にそっくりだ。きれいな黄金色をしている。エミリーには申し訳ないのだが、もう少し胸を裂いてみた。すると心臓の部分に、今の鍵を縦に嵌め込む型枠があり、そこに収まっていたようだ。何でこんなものが?
「エミリー。お前の胸の中にも、こんなのがあるのか?」
 私は後ろで見ていたエミリーに聞くと、彼女は訝しげな顔をした。
「身に覚えが・ありません」
 とのこと。あるいは、ウィリーが何かの理由で後付けしたのか……。狂った爺さんだったからな。未だにどうしてあの時、殺されるきっかけとなった“娘”の問い掛けを無視し続けたのか、全くもって分からない。
「まあいいや。これ、形見にしよう。いずれにしろ、お前の可愛い妹の体の中から出たものだしな」
 そう言って、私はエミリーに鍵を渡した。因みに、長さは10センチほどである。
「ありがとう・ございます」
 エミリーは鍵をしげしげと見つめた後、それを大事そうに両手に持ち、私に深々と頭を下げた。

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