“新人魔王の奮闘記”より。前回の続き。
春明は急いでルーシーが控えている謁見の間へ向かった。このままでは内戦に発展する恐れがある。
が!
「わっ!」
間に合わなかった。逆方向から、ぞろぞろと従者を連れて真紅のドレスを着た女性がやってきた。ルーシーより強い魔力を感じる。
「あら、あなた……」
女性は春明に気づいた。
「お、お久し振りです。マザー」
すると女性はカッとなって、春明を睨みつけた。
「誰がマザーよ!汚らわしい!!」
「す、すいません。あ、あの……御用件なら、私めが代わりに……」
「そこを退きなさい。私は娘に用があるの」
「いえ、ですから、そこを私が代わりに……うわっ!」
女性の両目が赤く光ったかと思うと、春明は10メートルは飛ばされた。
「危ない!アベさん!」
サイラスが軽やかな動きで、春明をキャッチした。その間に、女性は中に入ってしまった。
「ど、どなたですか、あの方は?」
サイラスですら冷や汗をかくほどだった。
「俺の彼女だったローラや、その双子の妹ルーシーのマザー……母親のキャサリン・ブラッドプールだ。ルーシーは魔王だが、ラスボスじゃない。モノホンのラスボスは、あのキャサリン皇太后だ」
「ええーっ!?」
「レナ!レナはいるか!?」
「レナフィール・ハリシャルマン様なら、城下におられると思いますが……」
「すぐに招聘するんだ!」
「ははっ!」
「閣下!スティーブン陛下とジョージ殿はいかがします?」
「もう国王になったスティーブンは呼べないし、ジョージは……確か、ソマリアからジンバブエに移動したっていうからもっとムリだろ!」
春明はそっと謁見の間に入った。
「あなたが魔王だなんて許しません。家に帰るのよ」
「シャラップ!その家を追い出したのはどこのどいつよ?ああっ?」
「ローラが死んだ以上、あなたが責任を取ってブラッドプール家を継ぐのよ」
「何で私が!?」
「あなたのせいでしょう?ローラが死んだのは」
「……!」
「あなた、私が何も知らないとでも思ってたの?」
(す、すいません。私、もっと知りません。え?なに?ローラ死亡に、ルーシーがどう関わってんの?)
春明は謁見の間の入口の横にいて、固唾を飲んでいた。
「今この国の政治は、やっと軌道に乗り始めたの。今ここで王位を投げ出すわけにはいかないわ」
「それはヴァール大帝が決めることよ」
「だから、大魔王に頼まれてやってるの!契約は大魔王が魔界の最深部にいる“邪悪なるモノ”を対処するまでの間だから。ここで投げ出したら、契約不履行になる。それって、うちの家訓違反にならない?」
「お黙りなさい。その家訓に反して家を出されたあなたが言えるセリフかしら?」
「ううっ……」
春明はいたたまれなくなって、謁見の間から出ようと思った。
「俺はレナが来るまで外にいる。何かあったら、呼んでくれ」
護衛のサイラスに言った。
「はい……あっ、でも、今何かあるようですよ」
「なに?」
「春明!どこへ行くの?」
ルーシーが咎めるように言った。
「ちょ、ちょっとそこまで……」
「待ちなさい。その前に、このオバハンをつまみ出しなさい」
するとキャサリンは目にも留まらぬ速さで、ルーシーの左頬をつまみ上げた。
「誰が、オバハンですって?」
「いででででで!放せ!痛い!痛い!ババァ!クソババァ!!」
「クソババァって誰のこと?」
「いい加減にしてください!」
さすがの春明も、行かざるを得なかった。
「王宮内で親子ゲンカはやめてください!こうしてる間にも、国内の問題は待ってくれないんですから!」
「あなたはルーシーのことをどれだけ分かってるのかしら?いいえ。ローラのこともどれだけ知ってたの?」
「どれだけって……」
「ローラがどうして死んだのか。ルーシーがどうして生きてるのか。それも知らずに偉そうなこと言わないでちょうだい」
「なっ……!」
キャサリンはやっとルーシーから手を放した。
「今日のところは引き上げましょう。ルーシー。ブラッドプール家の家訓、第2は?」
「『タダ飯食うな』」
「はい、正解。まだ、対価をそこの男に払ってないみたいだからね。それじゃ、ごきげんよう……」
キャサリンは床の上を滑るようにして、謁見の間を出て行った。
「ルーシー、大丈夫かい!?」
春明はルーシーに駆け寄った。そこには、茫然自失となって玉座に座り込むルーシーの姿があった。
「皆!陛下はお疲れだ!今日の陛下の公務はこれで終わり!異議のある者は!?」
誰も異論を発する者はいなかった。全員が全員、呆然としていた。それほどまでに凄い威圧感だったのだ。
「ルーシー、立てるかい?部屋で少し休もう」
「わ、私……私は……」
ルーシーは震えていた。
(くそっ!こんな時にレナは何やってるんだ!?)
その頃、魔王城に最も近い魔界高速電鉄のセントラル・ストリート駅では……。
「共和党主事の坂本です」
「同じくブラウンです。ここにレナフィール・ハリシャルマン女史がおられると聞いて参りました」
「これはこれは……。助役のケネス山本です。ミズ・ハリシャルマンは、先ほどトラブルがありまして、ただいま救護室にてお休みでございます」
日本の鉄道ように赤い線の入った制帽を被った助役が恭しく答えた。
「トラブル?」
「きっと、車内やホームでのケンカを収めたのでは?いいですね。日本でも、そういう英雄が欲しいですなぁ……」
坂本が微笑ましそうに言った。
「何せ日本では今、そういったトラブルが頻発して社会問題になってまして……」
するとケネス助役は手と首を横に振った。
「あ、いえ。そうではありません」
「えっ、違う?」
「乗り物酔いを起こされているだけですので……」
「はあ!?」
「通勤電車で乗り物酔い!?」
春明は急いでルーシーが控えている謁見の間へ向かった。このままでは内戦に発展する恐れがある。
が!
「わっ!」
間に合わなかった。逆方向から、ぞろぞろと従者を連れて真紅のドレスを着た女性がやってきた。ルーシーより強い魔力を感じる。
「あら、あなた……」
女性は春明に気づいた。
「お、お久し振りです。マザー」
すると女性はカッとなって、春明を睨みつけた。
「誰がマザーよ!汚らわしい!!」
「す、すいません。あ、あの……御用件なら、私めが代わりに……」
「そこを退きなさい。私は娘に用があるの」
「いえ、ですから、そこを私が代わりに……うわっ!」
女性の両目が赤く光ったかと思うと、春明は10メートルは飛ばされた。
「危ない!アベさん!」
サイラスが軽やかな動きで、春明をキャッチした。その間に、女性は中に入ってしまった。
「ど、どなたですか、あの方は?」
サイラスですら冷や汗をかくほどだった。
「俺の彼女だったローラや、その双子の妹ルーシーのマザー……母親のキャサリン・ブラッドプールだ。ルーシーは魔王だが、ラスボスじゃない。モノホンのラスボスは、あのキャサリン皇太后だ」
「ええーっ!?」
「レナ!レナはいるか!?」
「レナフィール・ハリシャルマン様なら、城下におられると思いますが……」
「すぐに招聘するんだ!」
「ははっ!」
「閣下!スティーブン陛下とジョージ殿はいかがします?」
「もう国王になったスティーブンは呼べないし、ジョージは……確か、ソマリアからジンバブエに移動したっていうからもっとムリだろ!」
春明はそっと謁見の間に入った。
「あなたが魔王だなんて許しません。家に帰るのよ」
「シャラップ!その家を追い出したのはどこのどいつよ?ああっ?」
「ローラが死んだ以上、あなたが責任を取ってブラッドプール家を継ぐのよ」
「何で私が!?」
「あなたのせいでしょう?ローラが死んだのは」
「……!」
「あなた、私が何も知らないとでも思ってたの?」
(す、すいません。私、もっと知りません。え?なに?ローラ死亡に、ルーシーがどう関わってんの?)
春明は謁見の間の入口の横にいて、固唾を飲んでいた。
「今この国の政治は、やっと軌道に乗り始めたの。今ここで王位を投げ出すわけにはいかないわ」
「それはヴァール大帝が決めることよ」
「だから、大魔王に頼まれてやってるの!契約は大魔王が魔界の最深部にいる“邪悪なるモノ”を対処するまでの間だから。ここで投げ出したら、契約不履行になる。それって、うちの家訓違反にならない?」
「お黙りなさい。その家訓に反して家を出されたあなたが言えるセリフかしら?」
「ううっ……」
春明はいたたまれなくなって、謁見の間から出ようと思った。
「俺はレナが来るまで外にいる。何かあったら、呼んでくれ」
護衛のサイラスに言った。
「はい……あっ、でも、今何かあるようですよ」
「なに?」
「春明!どこへ行くの?」
ルーシーが咎めるように言った。
「ちょ、ちょっとそこまで……」
「待ちなさい。その前に、このオバハンをつまみ出しなさい」
するとキャサリンは目にも留まらぬ速さで、ルーシーの左頬をつまみ上げた。
「誰が、オバハンですって?」
「いででででで!放せ!痛い!痛い!ババァ!クソババァ!!」
「クソババァって誰のこと?」
「いい加減にしてください!」
さすがの春明も、行かざるを得なかった。
「王宮内で親子ゲンカはやめてください!こうしてる間にも、国内の問題は待ってくれないんですから!」
「あなたはルーシーのことをどれだけ分かってるのかしら?いいえ。ローラのこともどれだけ知ってたの?」
「どれだけって……」
「ローラがどうして死んだのか。ルーシーがどうして生きてるのか。それも知らずに偉そうなこと言わないでちょうだい」
「なっ……!」
キャサリンはやっとルーシーから手を放した。
「今日のところは引き上げましょう。ルーシー。ブラッドプール家の家訓、第2は?」
「『タダ飯食うな』」
「はい、正解。まだ、対価をそこの男に払ってないみたいだからね。それじゃ、ごきげんよう……」
キャサリンは床の上を滑るようにして、謁見の間を出て行った。
「ルーシー、大丈夫かい!?」
春明はルーシーに駆け寄った。そこには、茫然自失となって玉座に座り込むルーシーの姿があった。
「皆!陛下はお疲れだ!今日の陛下の公務はこれで終わり!異議のある者は!?」
誰も異論を発する者はいなかった。全員が全員、呆然としていた。それほどまでに凄い威圧感だったのだ。
「ルーシー、立てるかい?部屋で少し休もう」
「わ、私……私は……」
ルーシーは震えていた。
(くそっ!こんな時にレナは何やってるんだ!?)
その頃、魔王城に最も近い魔界高速電鉄のセントラル・ストリート駅では……。
「共和党主事の坂本です」
「同じくブラウンです。ここにレナフィール・ハリシャルマン女史がおられると聞いて参りました」
「これはこれは……。助役のケネス山本です。ミズ・ハリシャルマンは、先ほどトラブルがありまして、ただいま救護室にてお休みでございます」
日本の鉄道ように赤い線の入った制帽を被った助役が恭しく答えた。
「トラブル?」
「きっと、車内やホームでのケンカを収めたのでは?いいですね。日本でも、そういう英雄が欲しいですなぁ……」
坂本が微笑ましそうに言った。
「何せ日本では今、そういったトラブルが頻発して社会問題になってまして……」
するとケネス助役は手と首を横に振った。
「あ、いえ。そうではありません」
「えっ、違う?」
「乗り物酔いを起こされているだけですので……」
「はあ!?」
「通勤電車で乗り物酔い!?」
巖虎さんのブログに書き込む時に、ユタさんの真似をしました。
断りもなくすみませんでした。